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プロメテウス・シスターズ  作者: umeune
貴種流離のシスターズ
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076-家族会議①

 アルティアとメルティアが帰ってきた。

 その一大ニュースはあまりに突然に、誰も想像していないタイミングでもたらされた。

 仮にディランたちの計画が上手くいったとしても、バルツの街とセルリの街は距離があるため、早くてもあと一ヶ月はかかると皆考えていた。

 ハイスバルツとしても断罪や処罰などの準備はまだ全然進んでいなかったため、受け入れの体制が整ってなく、姉妹はとりあえずディランの監視のもと軍部の建物に案内された。


「まさか本当に、半日でバルツに帰ってこれるとはな。この速度で逃げられては、捜索隊もしばらく貴様らを見つけられないわけだ」

「速度っていうか、地上の障害を無視して直線距離で移動できるのが大きいわね。谷と大森林がいかに交通の妨げになってるかがよく分かるでしょ」

「私が当主になったら、ロベルトさんと協力して、なんとか大森林に道を作るつもりだよ」

「実現すれば凄いけど、遠大な計画よねえ。大森林を切り拓いて道を作って、谷に橋をかけて」

「貴様ら、あの船を使って海を越えようとは思わなかったのか?」

「船? もしかしてゲイル号の事? あたしもメルもあの街でやりたい事がどんどん出来ちゃって、まだしばらくはあの街にいるつもりだったのよね。それに海越えは流石に怖いわ。距離もあるし、途中で休めないし」

「どうやらハイスバルツの追跡方針は正しかったようだ。斥候を送り情報を集めはするが、貴様らを発見しても決して行動は起こさないようにしていた。結果として貴様らはハイスバルツの追跡を侮り、呑気にあの街に居座り続けていた」

「斥候がいるのだけは気付いてたから、捕まえに来るならそのやり方だと思ってたんだけどね。でも、ハイスバルツを侮っていたのも事実。戦況を都合よく解釈してたのよ。絶対やめろって軍部で教えてるのにね」


 監視と言っても、ディランはアルティアとメルティアに逃走の意思がもうないことを知っている。

 そのため、三人は茶を飲みながら雑談していた。


「ディラン。あたし、貴方の事誤解してたわ。もっとネチネチとしつこいやつだと思ってたの。だからあんなにあっさりメルを認めて驚いたわ」

「貴様視点からすればそうかもしれないな。貴様と初めて決闘してからの数年間、俺は貴様に勝つことに躍起になっていた。貴様のような不埒者から次期当主の座を奪い取る。それが俺の原動力だった。だが、貴様が家出する数日前に俺とやった最後の決闘。あれで俺は、貴様の実力を完全に認めた。……これからは貴様を次期当主と認め、俺は兵士長として当主に尽くすつもりだった」

「えっ、そうだったの?」

「ああ。……それを貴様は、家出という最悪の形で裏切ったわけだが」

「だったらあたしに直接認めたって言いなさいよ。言わなきゃ伝わんないわよ」

「その通りだな。だが、言ったところで貴様は家出していただろう」

「よく分かってるじゃない。何年もあたしに執着してただけあるわ。でも、メルをあっさり認めた理由が分からないわ。まだ一回しか負けてないじゃない」

「貴様のような嫌味さがメルティアには無いからな」

「何よそれ。まさか……」

「次期当主の座を勝ち取っておきながら一族に不誠実な貴様と違って、メルティアは真っ当に次期当主という立場に向き合っているという意味だ」

「あ、そういうこと。なら別にいいわ」

「何が良いんだ?」

「なんでもいいでしょ。要はあたしよりメルの方が貴方好みの女の子だって話でしょ? メルが当主になれたらちゃんと支えてくれそうで安心したわ」

「ちょっ、姉さん……」


 何やら急に話が色恋みたいな話になったので、メルティアは思わず口を挟んでしまった。

 しかし、ディランは全く調子を変えずにアルティアの言葉に返事をした。

 

「ああ。俺はバルツの兵士長として、当主を支え街を守ってみせる」

「……貴方ってこういうからかい通用しないのね」


 アルティアがため息をつく。

 ディランはそのため息の理由が理解できないようだった。

 と、そこで部屋のドアがノックされた。

 ディランが「入れ」と言うと、一人の兵士が扉を開けた。


「失礼します。ディラン兵士長、当主様から言伝を預かりました」

「そうか。当主様はなんと?」

「はい! アルティア様、メルティア様、お二人を呼んで、メアリ様ともども家族でお話したい、との事です」

「……だそうだ。行ってこい」


 ディランに促され、姉妹は立ち上がる。

 家に帰ってきたら、どこかのタイミングで必ず両親と話すことになる。

 それを覚悟して二人は帰ってきた。

 そして、アルティアにとっては当主――父親に、そして母親に話を聞く事こそが、この帰郷の最大の目的だった。


     ◆


 アルティアとメルティアが案内されたのは、彼女たちの実家である屋敷の客間だった。

 この部屋は主に、当主を訪ねてきた外賓と政治や交易についての話し合いをするために使われる。

 アルティアがノックし、扉を開ける。

 部屋の内装は姉妹たちの記憶と変わらず、長机を囲むようにいくつもの椅子が置かれ、壁には巨大な風景画が掛けられている。

 そして一番奥、上座の席には、姉妹たちの父親にしてハイスバルツ家の現当主――フラム・ハイスバルツが座っていた。

 そのすぐそばの席には、姉妹たちの母親、メアリ・ハイスバルツも座っている。


「久しぶりだね。アルティア、メルティア。まずは掛けなさい」


 フラムが姉妹たちに席に座るよう促す。

 アルティアとメルティアは、机を挟んで両親と向き合うように座った。

 姉妹は両親の表情を伺った。

 フラムは普段から感情の起伏をあまり表に出さないが、それは今日この時も変わらなかった。

 勝手な行動を怒っているのか、再会を喜んでいるのか、娘たちの無事を安心しているのか、顔と声の様子からは読み取れない。

 一方、メアリは対照的だ。

 当主の妻として、厳粛な態度を保とうとしているが、目は潤んでいるし目元は腫れている。

 一体何を言われるのか、姉妹は身構えていたが、フラムもメアリも話し出さない。

 そこで口火を切ったのは、メルティアだった。


「お父様。お母様。この度は、私たちの身勝手な行いで、大変なご迷惑をおかけいたしました」


 そう言ってメルティアは座ったまま頭を下げる。

 メルティアはこの沈黙を、両親が謝罪を待っているものと解釈したのだ。

 頭を下げたまま、メルティアは横目でアルティアの方を見た。

 もしかしたらと思っていたが、案の定アルティアは頭を下げていなかった。


「君は謝る気はないんだね? アルティア」


 フラムは平坦な口調でアルティアに尋ねる。

 アルティアは毅然とした態度で返答した。


「ええ。あたしは自分が悪いとは思っていない。今日こうして帰ってきたのは、済ませたい用事があったからよ」

「アルティア。家を離れている間に、言葉遣いも忘れてしまいましたか?」


 メアリがアルティアを咎める。

 アルティアはばつの悪そうな顔をしてから、ため息をついた。

 そして仕方なく、言葉遣いに気を付け続きを話す。


「お父様。あたしとメルは、それぞれ別の目的があってこの街に帰ってきました」

「目的? ディランについてきたのは、仕方なくではないのかい?」

「ディランはきっかけに過ぎません。まずはあたしとメルの話を聞いていただけませんか?」

「構わない。今日は君たちの話を聞くためにここに呼んだのだから」

「ありがとうございます。……メル。先に貴方が話して。あたしの話は絶対込み入るから」

「うん。でも、私の話も絶対込み入るよ……?」

「あたしよりは絶対マシよ。それに、話の順序的に貴方から話した方が良いと思うの」


 アルティアが話そうとしている事。

 それは大きく分けて二つあるとメルティアは考えている。

 一つは、彼女を正式にハイスバルツから追放して欲しいという事。

 ハイスバルツとの縁を正式に切り、追われる事のない自由を得る。

 これは先にメルティアが当主になりたいと伝えておく事で、次期当主は誰がやるのかという問題を追及されずに済む。

 

 そして、もう一つ。

 彼女の性格なら、絶対に明らかにしようとする、ある可能性の話。

 アルティアは、本当にフラムの娘なのか。

 もし姉がこの話をするつもりなら、どう転んでも場が荒れ心が乱されるとメルティアは思っていた。


 自分の決意を伝えるのに、余計なノイズを抱えていたくない。


 メルティアとしても、アルティアより先に話が出来るのは渡りに船な提案だった。

 そしてメルティアは覚悟を決めた。


「お父様。お母様。私は次期当主になるために、この街に戻ってきました」

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