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プロメテウス・シスターズ  作者: umeune
モラトリアムの終わり
62/99

060-魔法大学首席

 その日の昼前、ポリネーはランビケの研究室を訪ねた。

 ランビケを食事に誘い、そのままハイスバルツの制御下に置くためだ。


「あ、グラファイトさん! こんにちは!」

「こんにちは〜」


 ポリネーがやってきたのを見て、ランビケが元気よく挨拶をしてきたので彼女も返事をした。

 ランビケは床に無数の魔法石と工具を広げていた。

 おそらく、彼女が昨日話していた、魔力を動力にして回転する機構を作成していたのだろうと、ポリネーは推測した。

 部屋の隅には、ランビケの他に二人の少女がいた。

 一人は銀髪で大人びた雰囲気で、もう一人は淡い水色の髪をしていてかわいらしい印象を受ける。

 目が合ったためポリネーが会釈すると、二人とも礼儀正しく会釈を返した。


「今日はお客さんがたくさんですね……! それなのにこんなに散らかしててすいません!」

「気にしないでくれ、ランビケ。むしろ私たちの方が君の研究をこうして見せてもらってる立場なんだから」

「とんでもないです、リセさん!」


 ポリネーはリセと呼ばれた銀髪の少女が何故だか気になった。

 ポリネーは経験則でこういった訳も分からず気になった相手の共通項を見つけている。

 それは、例外なく強力な魔法使いということだ。

 ポリネーはとりあえず、初対面の二人に自己紹介をする事にした。


「はじめまして。バルツの街から来ました、ポリネー・グラファイトと申します」

「こちらこそはじめまして。私はリセ・シュニーブル。ここの学生です。さ、レイン」

「はじめまして! あたしはレイン・ガドアと言います。同じく、ここの学生です」

「あら、ガドア……? と言うことは……」

「ええ、レインちゃんはこの街の兵士を束ねるガドア家のお嬢様なんです!」

「お、お嬢様だなんて……言われ慣れてないから照れちゃいます、えへへ」


 レインは頬を赤く染め照れ笑いした。

 思わぬところでこの街の重要人物と出くわしてしまい、ポリネーは内心驚いた。

 もしもこれが影響してランビケの確保に失敗すると、ディランは怒るしトーチは何をしてくるか分からないので、ポリネーは緩めていた気を引き締めた。

 レインがガドアの令嬢なら、魔法使いとして明らかに強力そうな、一緒にいるリセもこの街の重要人物なのだろうか、確かめることにした。


「リセさんもこの街のお嬢様なんですか?」

「いいえ、私はダリアの港町の出身です。船を持つ家ですが、別に貴族というわけでもありません」

「あはは、リセさん、あたしみたいな庶民からしたら、船を持っていたらもう貴族様同然ですって。グラファイトさん、リセさんはこの魔法大学の首席なんですよ!」

「ああ、そうなのですね。道理で……」


 魔法大学首席という言葉でポリネーは自分の直感に納得した。

 そういえばレインという名前もリセという名前も、バルツの斥候の事前調査資料に書かれていた事をポリネーは思い出した。

 二人は確かメルティアの友人ということだ。

 ただ、そこにはランビケと彼女たちの接点については特に書かれていなかったはずだ。

 斥候の調査不足か、それともここ数日の関係性の変化なのか、とにかくポリネーにとってランビケの身柄を確保する上ではありがたくない事だった。


「リセさんとレインさんはどうしてこちらに? お二人もランビケさんと魔法の車の研究をされているのでしょうか?」

「いえ、私たちの属する研究室はまた別です。共通の友人がいて、その友人の話をするついでにこうして研究を見せてもらっているんです」

「共通の友人?」


 リセの言うその共通の友人はアルティアかメルティアなのだろうとポリネーは察したが、一応流れとして自然そうな質問を返した。

 その問いにはレインが答えてくれた。


「はい、フランブルク家のアリアさんとメリアという姉妹です。二人とも、ここの学生ではないんですが、よくここを訪れるんです」

「あら、フランブルク商会の子なんですか?」

「一応そうなんですけど、色々あったみたいでこの街に来たのは最近のことで。ほら、ご存知ですか? フランブルク商会会長ヘイル様の、その……」


 レインが言葉を言い淀んでいると、リセが助け舟を出した。

 

「女癖の悪さ?」

「リ、リセ先輩!! ……まあその、それなんですけど、あたし一応ガドアの兵士なので、護衛対象になったあの方をあまり悪く言うのはちょっと。……とにかく、それで今まで別の街で暮らしてきて、最近ようやくご家族のヘイル様やロベルトさんと過ごすようになったみたいなんです」

「まあ、複雑なのね。……父親が、ねえ。ところで、どうして今日はそのお二人はいないのかしら? 皆さんの共通のご友人なら、お二人もここにいらしてそうですけど」

「はい。普段から、二人ともしょっちゅう魔法大学に来ます。でも、最近フランブルク商会絡みで一悶着ありまして……。グラファイトさんは数日前に街の関所が閉鎖された件はご存知ですか?」

「ええ。この街に来る途中の宿でそんなお話を聞いて、無事に街に入れるか不安だったわ」

「閉鎖の理由が、フランブルク商会会長のヘイル様が誘拐されたからだったんです。街の外に連れて行かれないように関所を封鎖して。その後色々あって、無事にヘイル様は帰ってきたんですけど、フランブルク商会はそのゴタゴタの対応に追われることになって……しかも、メリアがその時に体調を崩しちゃって、今も寝込んでるんです」

「あら、それは大変ね。それで、アリアさんもメリアさんもこちらにいらっしゃらないのね。思えば昨日、フランブルク商会の人が手が回らない様子だったのも、それが原因かしら」


 メルティアは体調を崩して寝込んでいる。

 斥候もフランブルク商会の敷地内にまで入り込めないため、未確定の情報だったが、やはりハイスバルツの人間らしくメルティアも十五歳の誕生日に発熱したようだ。

 そこを確定できないままポリネーたちは作戦を進めていたが、どうやら空振りにはならなそうでポリネーは少し安心した。


「グラファイトさんは、バルツの街からいらしたんですよね? わざわざこの街に来てフランブルク商会とやり取りをされてるって事は、商人か何かをされてるんですか?」


 ポリネーにそう問うたのはリセだった。

 リセは常に余裕を感じさせる笑みを浮かべているが、ポリネーはそれになんだか同族嫌悪を感じ始めていた。


「私は商人ではありませんよ。荷物についてきた護衛のようなものです。最近、バルツの鉱石資源を狙った賊が増えているので、ランビケさんの研究用の魔法石をこの魔法大学まで護衛してきたのです」

「なるほど、それでランビケと貴方は知り合いだったんですね。ランビケ、魔法石ってどれくらいの量を注文したんだい?」

「たっくさんです! この部屋に広げてるものの他にも、荷車三台分、今は倉庫の一角に保管されてます。……教授の持ってた請求書を見て、あたし本当にこの魔法大学に来て良かったなと思いました。あんな大変な額、使わせてもらえるなんて本当に幸運です」

「結構な大口の取引だったんだね。それを護衛されていたグラファイトさん、貴方はもしかして、バルツの街の中でも結構な手練なのでは?」

「うふふ、どうでしょう」


 ポリネーは微笑んで見せたが、内心ではあまりいい気分はしていなかった。

 リセがポリネーの事を探ってきているのは明白だったからだ。

 そんなポリネーの内心にお構いなく、リセは質問を続ける。


「グラファイトさんのお知り合いに、ディラン・ハイスバルツという方はいらっしゃいますか?」

「っ、それは……」

「リセ先輩、確かその人って」

「うん、私がこの大学に入った当時の首席だよ。一度だけ彼とした決闘が忘れられなくてね。もしかしたらグラファイトさんなら、ディランの面白い話を知っているんじゃないかと思って」


 想定外のタイミングでディランの名前を出され動揺が顔に出かけたポリネーだったが、すぐ後のリセの説明を聞いて平静を取り戻した。

 しかし、それでもリセの事は油断ならなかった。

 ――この女は本当に何も知らずに、私にディランの事を聞いたのだろうか?

 とにかく、ポリネーはすぐにリセから離れたかった。


「ランビケさん。今日のお昼のことだけど……」

「あっ、そうだ! その事なんですけど、今日はこちらのお二人もお誘いしていいでしょうか!?」

「え、ええ!?」

「あたしオススメのお魚料理をお二人にも紹介したくって……!」


 ここで二人の同行を拒むべきかどうか、ポリネーは逡巡した。

 ランビケと行動を共にする一番の理由は彼女を人質とする事だ。

 ランビケと二人きりであれば、その目的を達する事は容易だろう。

 だが、レインとリセ、特にリセが一緒にいると考えると途端に嫌な予感がした。

 仮に力ずくでランビケを拘束するような展開になった際、近くにリセがいればきっと妨害を受けてしまう。

 そうなれば姉妹を捕獲するための作戦に支障が出るかもしれない。

 だから、二人の同行は拒むべきだ。

 しかし、ここで二人の同行を拒むもっともらしい理由がポリネーには思いつかなかった。

 リセがどこまで自分のことを疑っているか判断できない以上、下手な嘘は返って自分の首を絞める可能性もある。

 魔法大学の現首席で、報告によると時間の操作だなんていう得体の知れない魔法を研究しているらしいリセに、ポリネーは隙を見せたくなかった。


「もちろん、大丈夫ですよ。お二人とも、今日のランチはよろしくお願いしますね」


 渋々、ポリネーはレインとリセの同行を承諾した。

 これが作戦失敗の致命傷とならない事を祈りながら。


 

 

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