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プロメテウス・シスターズ  作者: umeune
フランブルク商会の大事件
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048-広がる炎

 ビットが残された力の全てを注ぎ放った魔法の弾丸が、地面にへたり込んでしまったロベルトに真っ直ぐ飛んでいく。

 アリアは自分の魔法で発生させていた吹雪のせいでビットの動きをよく視認出来ず、その攻撃に反応が遅れてしまった。

 気付けたのは、アリアの無詠唱魔法でも既にロベルトを守ることが出来ないタイミングだった。


「ロベルトっ!!」


 アリアはロベルトの名前を叫び、ダメ元で魔弾を相殺するための魔法を放つが、もう間に合わない。

 

 ロベルトに魔弾が命中しようかという刹那、彼の背後から蒼炎の火球が放たれた。

 そして火球は魔弾と衝突し、二つとも相殺され消滅した。


 その場にいた一同がロベルトの後ろを見ると、そこにはヘイル会長にレイン、そして杖を構えたメリアが立っていた。

 メリアが持っていた杖を見て、ロベルトは目を見開いた。

 

「あの杖は……まさか……!」


 一方、アリアは妹が無事であるという安堵と再会できた喜びから、目頭を熱くしていた。


「……っ、メル!!」


 自分を呼んだ姉の方を向き、メリアは申し訳なさそうに苦笑した。


「心配させてごめんなさい、姉さん」


     ◆


 ビットとボクスを武装解除し拘束した後、地下倉庫に集まった面々はこれまでの情報を共有していた。

 場を仕切っているのはレインだ。

 ガドアの兵士たちの団長をやっているだけあってよく手慣れている。


「なるほど。ひとまず、ザガさんとヒョウさんは本格的な治療が必要なはずです。早く地上に運びましょう」

「……俺は、ガドアの世話にはならねぇよ」

「言ってる場合ですか!! 怪我人に立場も何も関係ありません!! 嫌と言っても医者に診せますからね!!」


 医療道具をカバンにしまいながら、レインに続いてリセがヒョウに忠告する。


「一応、二人とも出来る範囲の応急処置は施したけど、これで済ましていい容体ではないよ。特にヒョウさん、あなたの身体に回っている毒は結局私には取り除けなかったんだから、早く専門家に診てもらうべきだ」

「リセ先輩もこう言ってるんです!! 従ってください!! 魔法大学首席であたしの憧れのリセ先輩の言うことなんですよ!!!」

「お……おう……分かったよ。……だが、ビットの身柄だけはネペンテスに寄越せよ」

「用が済んだらガドアの兵士に引き渡す事!! これを守ると約束するなら捕縛を保留しますよ!」


 リセが来たことでテンションも圧も増したレインの言葉に、ヒョウは引き気味だ。


「ザガにヒョウ、それにビットとボクスも、どうやって運ぶんだ? 流石に俺と親父の二人じゃ男四人も担げねえぞ」

「そこは大丈夫よ、ここには優秀な魔法使いが四人もいるんだから! 人間を持ち上げるくらい訳ないわ。人間に直に浮遊魔法を使うのは事故が怖いから、担架みたいなものは欲しいけどね」


 ロベルトの疑問に、アリアが自慢げに答える。

 アリアの言う“優秀な魔法使い”に自分が含まれていることに気付き、レインは少し頬を赤らめた。

 しかしレインは申し訳なさそうに、アリアの言葉に注意を付け加えた。


「あの、アリアさん。実はあたし、今杖を持ってなくて」

「ああ、そういえば商会に貴方とメルの杖が転がってたわね。あれ? でもさっき、メルは杖持ってたわよね」

「俺が貸したんだ。一本だけ持ってたんでな」

「なんで会長が杖なんて持ってるのよ。……いえ、その話は今じゃなくていいわね。まああたしにリセ、それにメルがいれば……って、メル、大丈夫?」

 

 アリアの横にいるメリアは頬を赤らめるどころか顔が真っ赤で、ふらふらと今にも倒れそうにしていた。


「おい、メリアちゃん大丈夫か? さっきより具合が悪そうだが」

「大丈夫……じゃないです……」


 ヘイル会長の問いかけに、しゃべるのもだるそうにぽつぽつとメリアが答える。

 魔法の匣の中の空間で、メリアは突如原因不明の発熱に襲われた。

 原因自体は不明だが、メリアはこの発熱が何なのか知っていた。

 これは、ハイスバルツ家の人間が十五歳の誕生日を迎える頃に必ず発症する高熱だ。

 誕生日を数日後に控えたメリアは、近いうちに熱に苦しむであろうことは覚悟していたが、まさかもう熱が来るとは思ってもいなかった。

 そしてその熱は、先ほど蒼炎の魔法を放った時からより一層強まった。

 身体の内側が燃えるように熱く、頭がぼーっとして、今では立っていることもままならない。


「……メルを休ませるためにも、早く帰った方が良さそうね。みんなに聞きたいことはまだあるけど、それはまた後で聞くことにするわ」

「そうですね。……あの箱のあたりに、丈夫そうな木の板がいくつか立てかけてありました。あれを担架がわりにして、怪我人たちとメリアを運びましょう」

「ええ、その通りです。……あなたたちは、もっと早く行動すべきでした」


 それまで会話に参加していなかった声が突然聞こえ、みんな一斉に声がした方を振り向いた。

 言葉を発したのは、アリアの魔法で拘束されたビットだった。


「……どういう意味よ」

「言葉通りの意味ですよ? ……これで私の望みは果たされる。理想の形とはいきませんでしたがね」


 ビットがその言葉を言い終えないうちに、周りを取り囲んでいた倉庫の木箱たちが一斉に燃え出した。

 さらに、いくつかの木箱は爆発し、破片を周囲に撒き散らした。


 ビットはロベルトとザガから隠れる間、この出口周辺の空間を囲む木箱に仕掛けを施していた。

 元々準備していた時限式の発火装置と爆弾を起動したのだ。

 ビットたちを追ってくる者たちがこの倉庫を通り抜け出来ないように。


 一気に周囲が炎で囲まれ、地下空間が熱と煙に包まれる。


「地下でこの炎はやばい……! 燃えるのもそうだが、坑道での火事みたいに空気がなくなっちまうぞ!!」

「はっはっはっ!! 気付いたところでもう遅いのですよ、若造!!!」


 アリアとリセの二人は咄嗟に魔法での消火を試みるが、火の勢いがあまりに強くほとんど効果がない。


「本当にまずいわね……! リセ、あなた超高速で動いて、ここの全員を一気に避難させたり出来ないの!?」

「悪いがそれは私の身体が持たない!! 高速で動くほど多く煙を吸うことになるし、そうじゃなくてもあの魔法は身体に負担がかかるんだ……! そうなれば全員を助ける前にきっと私は倒れる……!!」

「全員生還を諦めた後の最終手段って事ね。でもどうしてくれようかしら、こんな状況……!!」


     ◆


 周りの炎とは関係なく、身体中が熱くて頭が回らない。

 この大火事を何とかしないといけないのに。

 私もみんなと協力して、炎を消さないといけないのに。

 

 炎。

 守りたい。

 敵。

 カラダ。

 お姉ちゃん。

 水。

 熱い。

 メルティア。

 風。

 ハイスバルツ。

 呪い。

 契約。

 消す。

 解放。

 十五歳。


 何も答えが出ないまま考え続けていくうちにも炎は激しさを増している。

 このままだときっと、もうすぐ、ここにいるみんな死んじゃうんだろうな。

 私も、お姉ちゃんも。

 ロベルトさんも、ザガさんも、レインも、リセさんも、ヘイル会長も、ヒョウさんも、それにビットとボクスも。

 ……このまま死んじゃうの?

 ……私、まだ、何一つ成し遂げられていないのに。

 ……いいえ。

 たとえ、何も成し遂げられなくても。

 私の大切な人が、大切な人たちが、死んじゃうのは、いや――!!!


「――それがあなたの意思ならば、あなた自身の手で成し遂げるのです。――力はここにあるのですから」


 メリアの頭の中に、聞いたことのない、しかし何故か親しみを感じる、女性の声が響いた。


     ◆


 それは、一瞬の出来事だった。

 メリアが杖を真上に向けると、そこから蒼炎の色をした魔力が周囲に拡散した。

 その魔力は燃え盛る炎に触れると、たちまち炎と熱を消し去り、後には消し炭となった大量の木箱とその中身だけが残った。

 一同は呆気に取られていたが、ドサリと何かが倒れる音で我に帰った。

 メリアが意識を失い、その場に倒れたのだ。

 

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