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プロメテウス・シスターズ  作者: umeune
フランブルク商会の大事件
28/99

026-父親と母親

「あーっ、畜生!! あのクソ親父め!!」


 会長がフランブルク商会セルリ支部を訪れたその夜、アリアとメリアはロベルトに連れられ街の酒場に来ていた。

 ロベルトはジョッキに注がれた酒を一気に飲み切る。


「ちょっと、そんな飲み方危ないわよ。あたしは天才魔法使いだけど、飲み過ぎに効く魔法はないんだから」

「……悪い。でも今日は許してくれ」


 ロベルトは普段は嗜む程度にしか酒を飲まないが、今日は次々と酒を注文していた。

 こんなに荒れているロベルトを見るのは、アリアもメリアも初めてだった。


「そういえば、今日はザガさんはいないんですね。いつも一緒なのに」

「会長が来てるからな。部屋の準備とか色々あんだよ。……それに、あいつは俺よりずっと会長を慕ってる」

「意外。貴方とザガは切っても切れない関係だと思ってたのに」


 アリアのその言葉が余計にロベルトに火をつけたようで、ロベルトはまた酒を一気飲みした。


「……ザガは俺が生まれる前に両親を亡くしていてな。その両親と友人だった、親父や支部長なんかの当時のフランブルク商会のメンバーが、親代わりになって育てたんだ。当然、俺もそこで育ったから、ザガは俺の兄貴みたいなもんだ。会長の息子って立場上、あいつは俺を立ててくれるけどな。でもあいつにとって一番の恩人は会長をはじめとしたフランブルク商会の古参たちだ。こういう時は俺の優先順位は高くない」

「……まあ、久しぶりに育て親に会えたのだから、そっちを優先するか」

「そういうお前らは……いや、やっぱりいい」

「何よ、気になるわね」

「……お前らの親はどうなんだって訊こうとした。家出して来てるんだから、答えなんて分かりきってるのにな」


 ロベルトにそう言われて、アリアとメリアは共にきょとんとした顔を浮かべる。


「何だよ、その顔は」

「あたし、自分の家は嫌いだけど……両親には特別悪い感情はないわよ。メルもそうよね?」

「うん。……まあ、好きってほどでもないけど」

「……酒の肴に教えてくれよ。ここで言える範囲で構わねえから」


 今三人が話してるここは街の酒場で、他にも客が多数いて大変賑わっている。

 このざわつきなら、よほど聞き耳を立てなければ周りから話の内容を聞き取られる事はないだろうが、核心的な情報は避けながら、姉妹は話を始めた。


「お父様は……以前、ちょっとだけ話題に挙げましたよね」

「おう、最強のバケモンって話だけ聞いたな」

「一族の長として、ルールに則ってあの街を治めています。あの街では一族こそがルールなので、その気になれば無理を通して道理を引っ込ませる事も出来るんですが、父は極力それを避けます」

「アリアの話からてっきり暴君みたいな感じかと思ってたが、そうでもないのか?」

「一族単位で見たら暴君みたいなものよ。でも、お父様はすごくおとなしい人よ。権力を持ちながら、それを振りかざさないから、周りからは慕われている。だけど、それは決して行動力がないって意味じゃないわ。敵と認識した相手には一切の容赦なく、力を行使するわ。……この前メルが話した、プロメテウスの話みたいにね」

「おっかねえなあ」


 ロベルトはジョッキの酒をちびちびと飲む。


「家族としてはどんな人なんだ? さっきから当主としての話ばかりだが」

「多忙な人で、家族で過ごした時間はあまり多くありません。それに口数も少ないので、会話した記憶もそんなにありません。でも……家族を想ってはいたのかな、って思います」

「あら、そう思ってたの?」

「だって、姉さんがあれだけ奔放に振る舞って、しかも一族の他の人を怒らせるような事をたくさんしてきたのに、報復らしい報復は受けた事ないし、結局後継者の地位を降ろされる事もなかったでしょ?」

「あたしから降りてやったけどね」

「……もう。多分、お父様が私たちを守ってたんだと思うんだよね。最強にして最高の権力を持つ人に逆らえる人はあの家にいないよ」

「周りが勝手にビビっただけで、お父様は何もしてないかもしれないわよ? ……でも確かに、思い返せばあたしは不自然なくらいあの家で自由にさせてもらってたわね。一番手放したかった後継者の地位は、強引にじゃないと手放せなかったけど」


 アリアはコップに注がれた水を口に運び、勢いよく飲んだ。


「そういえばあたしも成人してるんだから、お酒飲んでもいいのよね」

「今日は我慢してね。ロベルトさんだけじゃなく、姉さんまで酔っ払っちゃったら、私の手に負えないよ」

「ええー!! ……仕方ないわね、もう」

「はは、悪いな。今度奢ってやるから許してくれ。……お前らの母親はどんな人なんだ?」

「厳しくされた記憶ばかりだけど……真面目な人よ。他所の街の名家から嫁いできた人でね、昔は一族の意地の悪い連中から嫌がらせを受けてたみたい。ほんとクソな一族よね」

「貴族社会も大変なんだな。今は違うのか?」

「ええ。どうやら母についても、父が守っていたみたいなんです。母に嫌がらせをしていた人たちが、ある日父から呼び出しを受けたかと思うと、次の日には母に非礼を詫びて心を入れ替えたんだとか。……これは屋敷の使用人さん情報です」

「話だけ聞いてると、お前たちの父親は多忙で愛想も良くないが、家族のために出来ることをやってる、立派な父親に思えてくるな」

「……まあ、否定するほどの根拠はないわね。お母様の話に戻るけど、あの人は自分に与えられた役割を果たすため、全力で努力していたわ。あたしたちに質の良い教育を施すのもあの人の役割だった。……ジェーン先生を屋敷に呼んだのは、お母様なの。覚えてるわよね? ジェーン先生の話」

「……ああ。お前がいつか会いたいって言ってる人だよな」


 話がジェーン先生の方に行き、メリアは一瞬ドキリとする。

 実はランビケがジェーン先生の姪だったという話は、まだアリアにはしていない。

 アリアがその話をされて、冷静を保っていられるわけがないし、ランビケとしてもアリアに話すのはメリアに話すより心の準備がいるとの事だった。

 つまり、メリアはジェーンの手がかりを掴んでいながら、姉にそれを黙っている。


「だから先生が罰を受けた時には、お母様も責任を追及されてたはず。……やっぱりこれもお父様がお母様を守ったのかもしれないわね。どうせなら先生も……言っても仕方ないか。……さっきメルが言ったように、あたしは色々あってあの家が大嫌いになって、好き勝手にやってたわ。だから、真面目なお母様とはぶつかる事も珍しくなかった。……でもお母様は立場的に、あたしの振る舞いを許せるはずがないの。そう思ってるから、あたしはお母様を嫌いじゃない」

「……久しぶりにお母様の事を思い出したら、なんだか申し訳なくなってきちゃった。私たちの家出のせいで、お母様また責められてるのかな……」

「……どうせ、今回もお父様がお母様を守ってるでしょ!! はいはい、この話終わり!! 次、ロベルト! 貴方の番よ!!」

「ん、俺か?」


 感傷に浸る姉妹を酒を飲みながら眺めていたロベルトだったが、突然話の手番がやってきたので、ジョッキをテーブルに置いた。


「貴方の父親は今日見て話通りだと分かったわ。母親はどんな人なの?」

「よく覚えてない。魔法使いだったんだがな、俺が三つか四つくらいの時に事故で亡くなった」

「……それは」

「……その、ごめんなさい」

「おいおいやめろよ、辛気臭い顔すんなって。ほら、ポテトでも食って元気出せ。なんならチキンも注文するか?」


     ◆


 親の話からヘイル会長の愚痴で散々盛り上がってから、姉妹はテーブルで眠りこけるロベルトを眺めていた。


「やっぱりこうなったね……」

「全く、これ絶対明日に響くでしょ。普通に仕事なのにどうするつもりなのかしら」


 二人がそんな事をぼやいてると、店主がテーブルの近くまでやってきた。


「なんだ、ロベルトのやつ寝ちまったのか」

「店主さん、連れが酔い潰れた時って、どうするのが正解なんですか?」

「いやいや、こいつは酔ってなんかいねえよ」

「え? だってロベルト、お酒をあんなにたくさん飲んで……」

「あれは全部酒じゃなくて炭酸水やジュースだよ。ザガから予め言われてたんだよ、今日ロベルトが来たら酒を飲ませないでくれって」


 それを聞いて姉妹は顔を合わせ、可笑しくなって揃って大笑いした。

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