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プロメテウス・シスターズ  作者: umeune
姉妹の家出
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000-私の願い

「ねえ、メル。あたし、明日の晩この家を出る事にしたわ。お父様がいないうちにね」


 一族当主の筆頭後継者である姉は、ずっとこの家に不満を持ち続けていた。

 旧態依然で保守的、そして民衆に恐怖を植えつけ支配する、そんな家の在り方を嫌っていた。

 

 姉は現当主である父の長子であり、一族では父に次ぐ魔法の実力を持っている。

 力の強さこそが序列の高さとなる、それがこの一族の掟だ。

 しかしながら、使う魔法の種類が一族の中では異端であるせいで、一族には姉の事を後継者として相応しくないと言う人間が少なくない。

 中には姉の事を「一族の血を持たない余所者ではないか」などと宣う者もいた。

 それらの声が姉の不満をますます強めていたのは、“炎”を見るより明らかだった。

 

 そしてその不満は、後継者の立場と責任を全て投げ捨てての家出という、家の名前に泥を塗る最悪の形で爆発する事になった。


 姉はこの家出に「貴方も一緒に来ない?」と私を誘ってくれた。私はその答えをすぐには出せなかった。


 姉の家出計画は、一族の人間に筒抜けだった。

 姉は使うはずだった馬がいるはずの厩舎で、馬を見つけられず、それどころか兵団の長を務める従兄弟とその部下たちに取り囲まれてしまった。

 従兄弟は一族の中でも特に一族への帰属意識が強く、そして後継者でありながら一族の事を悪く言う姉に対して人一倍反発していた。

 そのため、立場を捨てて家出しようとする姉に対して、それまで見たことないくらいに激昂した。

 従兄弟とその部下たちは、容赦無く姉に向けて魔法を放った。それは生半可な魔法使いでは一秒と持たずに絶命するであろうほどの、魔法の弾幕だった。

 だが、姉は生半可な魔法使いなどでは決してない。

 攻撃する側もそれを踏まえて、殺す気で攻撃してようやく彼女を無力化出来ると考えたのだろうが、攻撃は一つも姉に到達していなかった。

 姉は全ての弾幕を相殺してしまったのだ。

 そこで私は確信した。

 姉の家出を防げるのは、今この街に不在の父だけだと。


 私は従兄弟の不意をついて彼を無力化し、姉の元へ駆け寄った。


「姉さん、私も行くよ」

「そう来なくっちゃ!! さあ飛ぶわよ、掴まって!!」


 姉は手に持つ杖を地面に向けた。

 それを見た私は上に向けて魔法を放ち、天井を破壊した。

 次の瞬間、私と姉さんが立っていた石の地面は浮き上がり、やがて一つの大岩となった。

 空へと向かっていく大岩に向かって、兵士たちが魔法を放とうとする。

 そこにすかさず私は閃光の魔法を放った。

 こちらを凝視していた兵士たちは、強烈な光により一人残らず視界を失った。

 当てずっぽうで放たれた炎の魔法が周りの建物に当たり、小さな火事となる。

 火事で死人が出てしまうのは嫌なので、私は魔法を唱え、地上に爆音を響き渡らせた。これできっと、眠っていた人も誰もが異常に気付いただろう。

 地上の人間が豆粒のような大きさになるくらい飛んだ頃には、たくさんの人たちが集まって消火活動に勤しんでいる姿が、炎の灯りに照らされていた。

 

       ◆

 

 目の前で眠る姉に、そっと毛布をかける。

 疲れから倒れ込むように眠ってしまった姉の寝顔は、まるで天使のように無垢で愛らしかった。

 その頬をそっと撫でても、姉さんは寝息を立てたまま起きる気配はない。

 無理もない。夜通し魔法を使い続けたのだ。身体も心も疲れ果てているはずだ。


 ようやく私も心が落ち着いてきた。

 毛布に身を預け、目を瞑り、今朝に至るまでの事を思い出す。

 皆を欺き、戦って、建物を壊し、生まれ育った故郷を飛び出した。

 ……大変な事をしてしまった。もう後には引けない。このまま帰れば厳罰確定だろう。


 だけど、この選択に後悔はない。

 逆にこうしなければ私は深く後悔していた。その確信がある。


 目を薄っすら開け、横で眠る姉の顔を見る。

 生まれた時からそばにいて、ずっと輝き私を照らし続けてきた姉さん。

 自分を強く持ち、罰を恐れず“家”の過ちにノーを叩きつける姉さん。

 類い稀な魔法の才能を持ち、訓練を積んだ兵隊たちが相手でも無双の強さを誇る姉さん。


 姉さんは、私の欲しいものをたくさん持っている。

 そんな姉さんは、私にとって眩しい太陽そのものだ。


 でも、だからこそ。

 あの日の姉さんの涙を、私は忘れられない。

 私の願いは、姉さんを――。

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