86、再会
次の日、午前中は昨日買ってきた奴隷達の状態を確認した。
22人いるうち9人が女性で、13人が男性だった。他の奴隷商会にはルナみたいに子供がいるということはなく、皆大人だった。1番年下の人でも19歳だった。
種族は獣人が多い。11人もいた。次に人族が8人、エルフが1人、ドワーフが1人、魔人族が1人いた。
怪我などは昨日治しておいたが、ガリガリにやせ細っているのまでは治せない。
昨日もご飯はしっかり食べられていたようだし、今日はみんな顔色は良さそうだ。
夜の間に体調が悪くなった人もいなさそうだった。
なんで奴隷になったのか聞いていると、獣人の人は差別が酷い国で捕まった人がほとんどで、人族の男の人と1部の獣人、魔人族の男の人は戦争で相手国に捕まって奴隷にされたようだ。
女の人は人族が多かった。みんなお風呂に入って汚れを落とすと、とても綺麗な人ばかりだった。なので予想はしていたが、どこかの貴族に無理やりな感じで連れていかれ、結局飽きると奴隷として売られたのだそう。エルフの女の子もそんな感じだった。この子は特に傷が酷かった。加虐嗜好の強い人に売られていたのだろうか……?
ドワーフの男の人は、借金で奴隷落ちしたそう。ドワーフは経営などは苦手なのだとか。武器を作る腕はかなり良かったそうだが……。
ご飯を作れる人がいたらお願いしたいと言うと、人族の女の人3人と、獣人の男の人2人が名乗り出てくれた。
キッチンの中を5人には案内しておいた。
体力が戻るまでは、あまり無理せず買ってきてもいいしと伝えたが、作ってくれると言うので、おまかせすることにした。
今日の約束は遅れないようにと、昨日ギルドマスターに懇々と言われたので、午後になる前に少し早めに家を出る。
貴族街を奥に奥に進むと、一際大きな屋敷が見えてきた。
ここ、ペルカの街の領主、コンラッド・アシュフォード侯爵様の屋敷だ。
門の入口に兵が2人立っていた。
「こんにちは。領主様に、呼ばれていると言われ伺ったのですが……」
「身分証はありますか?確認させて貰います」
「はい」
冒険者ギルドのギルド証を渡すと、少々お待ちくださいと、1人の兵が走って中に入っていった。
数分後。
「リオーーーー!!」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、門の中を見ると、ノアちゃんが走って来て抱きついてきた。
「リオ!会いたかったよー!」
「え?ノアちゃん?何でこんな所にいるの?」
「リオらしき人を呼んでくれたって言うから来たんだよー!携帯無いのほんと不便ー」
「うん。それめっちゃ分かる!でも、会えてよかった!
ランちゃんとサンちゃんも一緒?」
「うん!一緒だよ。もうすぐ出てくると思う」
「ジオは?」
「……ジオにはまだ会えてなくて……」
「そうなんだ……ジオは何してるんだろうね?」
「「リオーー!」」
「あ!ランちゃん、サンちゃん!久しぶりー!」
「元気だった?」
「うん!みんなも元気?会えてよかったよ。冒険者ギルドには毎日通ってたんだけど会えなかったから心配してたんだよ……」
「え、マジか。冒険者ギルド全然行ってないからなぁ……」
「そうだよね。会わなかったもんね……」
「ペルカの街に着いてからは飲食店の経営をみんなでしてたんだよ」
「ノアが飲食店始めて、夜はランちゃんがBARをしてるんだよ」
「サンちゃんはホールとか買い出し手伝ってくれてるよ」
「あの森抜けるのめちゃくちゃ大変で、もう魔物と戦うのは嫌になってさ……」と、思い出したのか渋い顔をしている。
「従魔いても?」
「「従魔いても!」」
3人でハモった。すごく嫌そうな顔だ。
何があったんだろ……?
「そ、そうなんだ……。従魔達は?」
「家だよ。庭で遊んでると思う。庭付きの家買って、1階が店で、2階が住居に使ってて」
「リオも一緒に住もうよ!」
「いいの?」
「部屋は5部屋ある家を選んだからな!」
「みんなで住めるようにね」
「貴族街と商業区の間にある家だよ」
「治安は貴族街にも近いからすごくいいよ」
「それで、かなりお店が有名になって、領主様とも知り合ったの」
「リオとジオを探してるっていうのも伝えてたら、それらしき人がいるって教えて貰って、な!」
「そうそう、それで今日呼んでもらって待ってたの!」
「やっぱりリオだったな!」
「そうなんだ!街中で全然会わないからみんな違う街に移動したのか思って、ちょっと不安になってたんだけど、会えてよかった」
「うん」
ぎゅーーっ と ノアがハグしてくる。
「コンラッド様も中で待ってるから、移動しようか」
門の入口で立ち話をしていたせいで、領主邸の騎士たちや客人?らしき人達からの視線が刺さる。
領主様がお待ちだという部屋に移動した。
3人の話を聞く限りでも、領主様はとても気さくで良い方のようだ。
コンコンコンとサンちゃんが部屋をノックすると、中からどうぞ。と、渋くて低めな声が響いた。
「「失礼します」」
「待っていたよ。君がリオかな?私はペルカの街の領主のコンラッド・アシュフォード侯爵だ。コンラッドと呼んでくれ」
「初めまして。リオです。よろしくお願いしますコンラッド……様」さん付けしようとして、サンちゃんが様をつけていたなと、思い出し、様を付けて呼ぶ。
「うむ、まぁ皆かけてくれ」
ソファーに誘導され、みんなで座る。
メイドがお茶を運んできてくれた。
「君の噂は方々から聞いていてね、1度お礼を言いたくて、会ってみたいと思っていたんだよ」
「?……噂……ですか?」
はて?と小首を傾げる。
「リオ何したんだよ?」
ランちゃんも知らない噂のようで、小声で聞いてきた。
「ん?噂になっているのを知らないのか?珍しい果物や野菜の事や、ポーションの事、大量の高ランクの魔物の解体をしに来る美女がいるという物や、街の人のために水の出る魔石の魔導具を作ってくれたという物、治療院に行けない沢山の人の治療をしてくれたという物、悪徳奴隷商会から騙されて奴隷にされた多くの女性を助けてくれたというもの、ああ、ゴブリンの巣から女性を救出してくれ手厚く回復魔術までかけてくれたというものもあったかな?街中君の噂で持ち切りだよ」
「え……」
「リオ、そんなことしてたの?すごいな……」
「さすがリオだね」
「うん。万能すぎ……」
「えっと、お金が必要で、自分のためですよ。……そんな噂になってるとか知りませんでした……あはは……」
「その噂の果物はうちでも購入していてね、とても美味しかったよ。あれはどこの国の果物なんだい?」
「えっと……私達の故郷の果物なんです」
「……そうかい。ではあのポーションは?」
「あれは師匠に教わって作ったものです」
領主様は噂のことについて順に質問してくる。
ちょっと答えずらい質問も多少あったが、雰囲気も優しく、なかなか気さくで話しやすい人だった。
「そうか。随分遠くから来たんだね。何か困ったことがあったら私に言いなさい。できる限り力になろう」
「ありがとうございます。あ、そうだ、お招き頂いたお礼に、こちら良かったら使ってください」
マジックバッグを1つ取り出して渡す。
「これは……?!」
かなり驚いた様子で、マジックバッグを受け取り、周りを見たり、中を開いて見たりしている。
「リオ、あれなに?」
「マジックバッグだよ?」
「「は?」」と、3人とも驚いている。
「え?そんなもんどうしたんだ?」
「作ったんだよ?あ、鞄はオーダーして革製品のお店で作ってもらったけど」
「ハ、ハハハッ、これは驚いた。こんな性能のものは初めて見たよ。本当に貰っても?」と、とても嬉しそうに鞄を見ながら再確認してきた。
「ええ、大丈夫です。宜しければ、使ってください」と、ニコリと笑って答えておいた。
手土産を渡すのが最後になってしまったが、手土産も渡し、みんなで領主邸を出る。
今はどこに住んでるの?と聞かれ、妖精の奏亭という宿だと答えると、すぐに引っ越しておいでと言われた。
ランちゃんがついてきてくれ、宿を解約し、マーサさんとトマスさんにお礼を言い、ランちゃん達が住んでいる家に向かう。
南門からは少し離れているが、周りは静かで住みやすそうな場所だった。
1階の飲食店は一般の人もお金持ちの人も来るそうだ。なんのお店か聞くと、ハンバーガーとホットドッグのお店だそう。
確かに街についてあちこち見て回ったが、サンドイッチはあったが、ハンバーガーもホットドッグも見たことなかったな……
家に着き、リビングで、トマトとレタス取れるようになったよと伝えると是非使わせて欲しいとノアちゃんが抱きついてきた。
じゃがいももあるからフライドポテトも作ってと頼んだら、リオの畑見に行きたいと、ノアちゃんは興味津々だ。
亜空間に人がだいぶ増えたことを伝えるとみんな驚いていた。
リオなにしてんの?と、サンちゃんは呆れ顔だった。
あはは……と、笑って誤魔化し、貸してくれる部屋に亜空間を開き、3人を中に案内する。
従魔達も連れていくと、広い草原に大興奮で走っていった……。
……見えない壁に激突しなければいいけど……
伝える前に走って行ってしまったのだ……ずっと家にいたなら動き足りなかったのかもしれない。
リオが心配したように箱庭の中には端がある。その端は見えない壁になっているのだ。先がありそうなのでそのまま進むとぶつかる……
今はどのくらいまで広さが広がっているのかリオもクレイも把握出来ていない。
かなりの勢いで走っていった従魔達があの勢いのままぶつかるとかなりのダメージを受けるのは必至……ぶつからないようにと願うしか無かった。
さて、ノアちゃん達と奴隷達を顔合わせし、お互いを紹介してから畑に案内した。
これキャベツ!こっちは玉ねぎ!米あるじゃん!と3人とも大興奮だ。
こちらの食べ物は味も見た目も地球のものと全然違うので、その気持ちはすごくよく分かると思いながら、クレイに、固定型のゲートを借りる部屋に設置して欲しいと頼みに行く。
その後ノアちゃん達に、ここの人達が家を出入りしてもいいか聞くとOK!と軽い返事が返ってきた。
みんなが畑を物色している間に、昨日買ってきたばかりの奴隷の人達の様子を見ていく。
上手く馴染め始めているようで、1人ずつ大丈夫そうか声をかけていく。
クレイもシバもイオも、前に貰ってきた奴隷達も仲良く親切にしてくれているようで今の所は問題もなく快適に過ごせていると言っていた。
1人ずつ話して見た感じも、悪い人はいなさそうだ。良かった。
みんなにちょっと出かけてくると伝え、冒険者ギルドに行く。
ギルドマスターに取次をしてもらい、領主邸に行ってきたことを伝える。
領主様はいい人だっただろう?と、少し話に花を咲かせ、10分ほど話し、帰ろうとすると、ギルドスタッフに捕まった。
また怪我人を治して欲しいとの事だった。
一昨日治したばかりなのに、みんな怪我し過ぎだろう……
全員を昨日の部屋に押し込んで置いて欲しいと伝え、先に解体の依頼をしに行った。
また魔物を大量に預けたせいで、またお前は次から次から……とゼバンに呆れた顔をされた。
ブーブーと文句を言われるが、まだマジックリングに山のように入っている。奴隷の子で解体出来る人にも手伝って貰おうか……?などと考えつつ、解体依頼を押し付け、治療で借りている部屋に向かう。
部屋には60~70人ほどが集められていた。
これで全員か聞くとそうだと言われたので、アキュレイトサークルヒールをかける。
~アキュレイトサークルヒール~
範囲内の対象に一度にアキュレイトヒール(中級回復魔術)をかける。
一昨日は自重して1人ずつ治していたが、自重していては自分の身が持たないと学んだのだ。
上級の範囲回復魔術はまだ使えないので、中級で治らなかった人だけ、別で治そうと、とりあえずアキュレイトサークルヒールをかけた。治りきっていない人はいないかと確認したが、それで治らなかった人はいなかったようで、後はよろしくとギルド職員に丸投げして冒険者ギルドを後にした。
今日はみんなに久しぶりに会えたから早く帰りたかったのだ。
先日行った酒屋で、お店にあるお酒を全部買い占め、家に急ぐ。
入口を抜け、各部屋をノックするが誰もいない。
亜空間に戻るとまだみんな畑にいた。
「あ、リオー!この野菜や果物全部取り切れないの??」
「え?うん。毎日朝にはまた成ってるから、一日だと無理だね……多すぎて。いるものから優先的に収穫してるよ」
「勿体ないね……取っても取ってなくても朝には全部成ってるなら取りたいよね」
「んー……今度はスラム街の子供の様子を見に行こうと思ってるから、働いてくれそうな子がいたらスカウトしてくるよ」
「「へ??まだ人増やすの?」」と、3人とも驚いている。
「うん。シバとイオみたいに子供だけで生活してる子も多いみたい。昨日孤児院に行ってきたけど、人数いっぱいいっぱいでもう受けいれできそうに無いって言ってたからね。ここで働いて貰えるなら、子供達はご飯も食べれて屋根のある家で寝れるし、こっちも野菜や果物収穫する人手増えるしお互いに良いでしょ?」
「……うん……まぁそうか」
「うちに今いるメンバーと合わないとかなら、その子は悪いけど出ていって貰うから。それならいいでしょ?」
「んー。まぁそれならいいのか……?」
「でも、リオ、犬猫でもこんなに拾ってこないと思うけど、奴隷の数ヤバすぎだし」
「獣人の奴隷の人は何もしてないのに奴隷にされてる人も多いみたいで……」
どういうこと?と聞かれ、最初にシュバルツとミーシャを引き取った時に聞いたことから順に話す。
ノアちゃんは泣き出してしまい。ランちゃんもサンちゃんも複雑な顔をしていた。
こういう話を聞くと、日本は本当に平和で住みやすい、いい所だったんだなと思う。
水道をひねれば水が無限に出てきて、外が暑ければクーラーを付け、外が寒ければエアコンやストーブを付け、移動には電車、バスなど公共交通機関も車や自転車、バイク等便利な乗り物も多かったし、道も綺麗に舗装されていた。
この世界ではそうはいかない。
街の塀の外は魔物が沢山いて、常に危険と隣り合わせだし、塀の中も快適とはいかない。
水を手に入れるのも大変だし、薬もかなり高価だ。おちおち風邪もひけない。風邪をこじらせて亡くなる人も多いのだ。
今はポーションを商業ギルドが上手く行き渡るように努力してくれているが、まだ必要な人は多いし、足りてもいない。
それに貧民街などの人達には手が出ない金額の物も多くある。
気をつけてないと人攫いもいるし、スリや窃盗もよくある事のようだ。
リオもまだ街に着いて一月も経っていないのに、人質にされそうになったり、奴隷商人に捕まりそうになったりしている程だ。
「だから手が届く範囲だけ。せっかくゼンが色々出来る優秀な身体にしてくれたからね。出来なかったじゃなくて、やらなかったって後悔するのはやだなと思って……」
「うん……」
みんなも出来ることがあれば言ってと言ってくれた。
奴隷の人数も昨日だいぶ増えたから、お店の人手も足りないようなら手伝ってもらってとも伝えておいた。
昨日来たばかりの人達はまだ体力が全然戻ってないが、先に引き取った人達はもう1週間程経つし大丈夫だろうと思ったのだ。
めちゃくちゃ忙しいから助かると喜んでいた。
ノアちゃん達のお店は大繁盛のようだ。
ついでにと、先程買ってきたお酒も出す。
久しぶりに会えたから宴会しようと伝えるとみんな喜んでくれた。
青い屋根の屋敷にはパーティホールがあり、かなり広いので、こちらでする事になった。
食堂でも良さそうだけどと伝えたがここが使ってみたいと準備を始めた。
オケに氷と水を入れお酒を沢山冷やしておく。
料理はノアちゃん達が作ったハンバーガーや、リオが屋台で買い漁っていた串焼きやサンドイッチ、肉を焼いたものなど、宿やギルドの飲食店で買っていたものやスープなどなど、テーブルもクラフトで大量に作り並べ、料理も並べて立食形式だ。壁際には椅子を並べておいた。
みんな楽しそうにしていたが、中でもガンツとドノバンのドワーフコンビはお酒の量にテンション爆上がりだった。
もちろんお酒だけじゃなくてジュースの種類も色々だ。
クレイ渾身のジュースコレクションだ。最近はミックスジュース作りにもハマっているようで、色々掛け合わせてオリジナルブレンドのミックスジュースを沢山作り出している。教えてもないのに野菜ミックスの物まで作っていた。コレはかなり驚いた。
子供たちも、女性のお酒が苦手な奴隷達も喜んでいた。
「そういえば、お店の名前ってなんて言うの?」
「あー、今日休みにしたから看板だしてなかったっけ?」
「お店の名前は[フリーオン]だよ」
「え?フリーオンって……」
「そそ、俺らが遊んでたゲームの名前から取ったんだ」
フリーライフオンライン、通称フリーオン。みんなで遊んでいたフルダイブのMMORPGのゲームだ。
「これなら、店が有名になったら、リオもジオも気づくと思って!」
「そうなんだ。フリーオン……懐かしいね」
「……そうだね」
ちょっとしんみりしてしまったので、街に着いてから今までどんな感じだったかなどと話題を変え、日にちが変わる頃まで話し続けた。
コンラッド:あの子がリオか……次から次から凄い噂や報告を聞いていたから、どんな子かと思っていたらまだかなり若そうな子だったな……
うむ……噂や報告だけでも信じられん事が多かったが、実際リオ本人に会ってみると尚更信じられん……
さらにコレ……マジックバッグなんか……手土産ですとおいそれと渡すものでは無いだろう!
はぁ……セノーデルも信じられる子だと言っておったし、ローカストも調べたが怪しい所はなかったと言っておったし……本当にあの子達は何者なのだろうか……
にしても、ノア、ラン、リオと並ぶと凄かったな……あんな美人姉妹……この歳になっても女性を見てドキドキすることが有るとは……
読んで下さりありがとうございます。




