43、え?私を人質にとったの?!
カランカラン
「こんにちはー」
「はーい!いらっしゃい!泊まりかい?食事かい?」
「泊まりでお願いします」
「はいよ」
とても元気なおばちゃんだ。泊まりだと伝えると、宿の料金の説明をしてくれた。
宿泊は1泊3000ゴールドで朝晩の食事をつけるならプラス1000ゴールドだそう。
「とりあえず一泊で、食事付きでお願いします」
銀貨を4枚渡す。
「はいよ。ちょうどだね。これが鍵だよ。部屋は階段を上がって右の端の部屋だよ」
「ありがとうございます。後で外に出てきてもいいですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。街中なら鍵もそのまま持っていてくれて構わないよ。門から外に出る時には鍵は受付に預けとくれね」
「はーい」
まずは、と部屋に行ってみる。部屋の中はベッドと、机と椅子があるだけのシンプルな部屋だった。
ぽふぽふと軽く叩いて、ベッドのふかふか具合を確認する。もっと硬いかと思っていたら思ったより普通だった。
マットレスは無いようだが、敷布団の中は綿のようなものが詰まっているみたいだ。
部屋の中はシンプルな作りで、珍しいものも無さそうだ。見る物も少なかったので、早々に市場の方に向かうことにした。
妖精の奏亭を出たリオは、道向かいだという市場の方に歩いてきていた。
安いよ安いよー!
今朝とれたての野菜だよー!
いいの入ってるよー!
ガヤガヤと賑わう市場に来たリオは、見慣れない物が並ぶ異世界のお店をキョロキョロと見て回っていた。
不思議な形をした果物、変わった色の野菜。
以前ゼンが言っていたように色の薄い物も多い。
白いカボチャのような形のもの、クリーム色のキュウリのようなもの、薄い黄緑色の大根のようなもの、パステルカラーの野菜や果物が並んでいるのを興味津々に見て回る。
1種類ずつ買って味見してみようかなと気になったお店の前で立ち止まって物色しているとガヤガヤとした言い争いの声が近づいてくる。
「待てー!」
「アイツを捕まえろ!」
「逃がすな!」
「そっちに行ったぞ!」
タタタタッ タタタタタタッ
タタタタタタッ ダダダダダダッ
ダダダダダダッ
数人の走る足音と共に、1人が横を通り過ぎた。
「く……、来るな!」
耳元で声がしたかと思うと、後ろから首に手が回され、グイッと抱え込まれる。
「お、お前ら……!ち、近づいたらこの女を殺すぞ!」
「え……?!」
頭の上で声がした。
目の前にナイフが光る。
え!?私を人質にとったの?!
びっくりして男を見上げる。
「その人を離せ!」
「こんなことをすればお前の罪が重くなるだけだぞ!」
「落ち着いてその人を解放しろ!」
この男を追いかけてきた人達が、口々に解放しろと叫んでいるが、男は聞く耳を持たないようだ。
「うるさい!うるさい!」
男はプルプルと震えながら叫び返している。
「えっと……何か揉めごと?」
「う、うるさい!黙ってろ!」
人質にされたならしょうがないと、とりあえず理由でも聞いてあげようかと思って声をかけてみたが、男はこちらの言う事にも聞く耳持たないようだ。
だが、人質に取った相手が悪かった。
はぁ……理由くらい聞いてあげようかと思ったのに……。
追っていたのが衛兵っぽい人達なので捕まえてしまうか……と、リオはため息を吐き、ナイフを指先でつまむ。
「な、何を!……ぐっ……な……?」急に首元に突きつけているナイフを摘まれ男は狼狽える。
しかも摘まれたナイフが、どれだけ力を入れても動かないのだ。元々の身体能力に加え、森で43日間の魔物の討伐でレベルが上がったリオの力で摘まれたのだ。男とはいえ、多少鍛えたくらいの力では動かす事など不可能だった。
ナイフを引いたり押したりともがいている。
その間に首に回されていた腕を捻りあげる。
「よっ!」
グキッ
「ぐぁぁぁ!」
「今だ!」「取り抑えろ!」
ダダダダダダッ
腕を抑えてうずくまる男を衛兵達が取り押さえた。
「ご協力ありがとうございます!」
「うん。どういたしまして」
はいと、男から取り上げたナイフを渡す。
話を聞くと、あの男、どうやら女性を拐おうとしていた所を偶然巡回中の衛兵に見つかり追われていたそう。
拐われそうになった女性は倒れて少し膝と手に怪我をしたが、それ以外は無事だそう。
最近女性や子供を狙った誘拐が頻発しているから気をつけるようにと言われた。
人攫いとかいるんだな……日本とは違って治安はあんまり良くないのかな?等と考えながら、話が終わると野菜と果物の物色に戻るのだった。
衛兵A:さっき人質に取られた子、すごい可愛かったな……。なのにあんなに強いなんて……。
いや本当に凄かった、男の腕をひねりあげるのなんか一瞬で……
しかし、あの綺麗な顔に傷がつかなくて本当に良かった……
もっと巡回に力を入れなくては!
いつも読んで下さりありがとうございます。




