4、異世界転生-4
「ねぇ、ヴァンパイアさん?ヴァンパイアさんも一緒にやろ?」
従魔だと言っていたヴァンパイアに魔力を動かす練習を一緒にしようと話しかけると、嬉しそうに返事をした後、少し照れたようにモジモジしながら、
「はい。是非!しかしその前に、ご主人様、私にも名前をつけて頂きたいのですが……」と、お願いされた。
みんなと話しててすっかり忘れてた!
「本当だ!!確かに、名前あった方がいいね。……ねぇ、皆は従魔に名前つけたの??」
パッと振り返り皆に聞くと、私が目を覚ますより前に時間があったからもう命名済みだそう。
「そっか……んー……どうしようかなー……」
悩みながらヴァンパイアを見つめると、最初にとても印象的だったルビー色の瞳と目が合う。
「あ!そうだ!紅くて綺麗な瞳だから、紅麗はどう?私の前に住んでいた国の漢字で鮮やかな赤を意味する紅と綺麗の麗の字をとって紅麗。どぉ……かな?」
「紅麗……主人様、ありがとうございます。とても素敵な名前……嬉しいです」
クレイは少し照れたように頬を赤く染め、とても嬉しそうに笑った。
「クレイも、ご主人様っていうのやめて、リオって呼んでね」
「はい。リオ様」
「……様はいらないよ。リオ」
言い直しを要求すると。
「リ、リオ……」少しモジモジとしながらリオの名を恥ずかしそうに呼んでいた。
「これからよろしくね」
「はい」
ちょっと恥ずかしそうにしている姿がとても可愛い。
ヴァンパイアってこんなに表情豊かで可愛らしい感じなんだね……映画のイメージとかだと、上から目線で偉そうなイメージだったけど、クレイは全くそんなことはなく、とても可愛い。従魔が可愛い子で良かった!
「じゃぁ、名前も決まったしみんなと合流して魔力を動かす練習しよ!」
「リ、リオ、あの、魔力を動かすのはもう出来そうです……」
「え?!ほんと……?」
「はい」
「魔力から産まれたばっかりなのに……?うちの子天才か!!」
んー……じゃぁどうしたら……
皆が練習している方を見ると、皆が魔力を練っているのかうんうん唸っている横で、従魔達は魔術を放っていた。
おお!凄い……あれが魔法……
フルダイブのゲームでも魔法はあった。だが放って命中すると、エフェクトと共に消えていた。それが、氷はそのまま命中した所に留まり、炎は的を焦がしている。
ゲームと違う所が多く少し感動だ。エフェクトが無いので、ゲームより地味に感じる所もあるが、それが逆に現実なんだと思わされた。
従魔達は最初から魔術が使えるのはデフォルトなのかな……?
「ねぇゼン、ちょっといい??」
クレイが魔力操作はもう出来るようなので、次はどうしたらいいかゼンに聞いてみることにした。他の従魔達は魔術の練習を始めたようなので同じようにしてもいいが、クレイは人型なので同じでいいのか心配になったのだ。
「ほぉ、それは素晴らしいの!何か魔術も使えそうかの?」
「……闇魔術は使えそうです。あと、吸血と、これは……亜空間?」
「闇魔術は分かるが、吸血に亜空間?それはいったい……?どのようなものじゃ?吸血は血を抜き取るのかのぉ?亜空間とは次元収納のようなものかの?」
「えっと……吸血はそうですね。亜空間はヴァンパイア特有の能力のようです。真っ暗な亜空間に入ったり出たりできるようです。多分……」
「へぇー凄い……。旅の途中でも寝るのに良さそー!野宿しなくてもいいなら安全だね!」
「ヴァンパイアに会うのが初めてじゃから、そんな能力があるとは知らなかったのぉ……。ちょっと使って見せてくれんかの?」
ゼンも興味津々だ。
クレイも興味を持ってもらったのが嬉しかったのか笑顔で 返事をした後、亜空間に繋がるゲートを開く。
ゲートは黒いモヤが渦を巻いているような見た目だった。かなり怪しい……あんな所に入れるのか?とリオが胡乱気な顔でそのゲートを眺めていると、ちょっと見てきます。とクレイは中に入るとすぐにびっくりした顔でバタバタとゲートから出てきた。
「な、な、な、……中が……」
何に驚いているのか、クレイがとても焦っているので、どうしたのかと、ゼンと顔を見合わせてゲートの中を見せてもらうことにした。
ゼンが入っていく後をついて中に入ると、そこはとても広い平原だった。青い空が広がりとても明るい。ポカポカと暖かい春のような気候だ。見渡す限り緑の絨毯が敷き詰められたとても心地よい空間で、遠くに何かの木が生えている。
「わぁー綺麗……」
「うむ、見事じゃのぉ」
「あれ?でも、真っ暗な空間って言ってなかったっけ……?」
「そうだったのぉ?」
疑問を呟くとゼンもウンウンと頷いている。
骸骨だから表情は分からないがゼンも驚いているようだった。
振り向けばクレイも中に入ってきていたので尋ねてみる。
「ねぇクレイ、真っ暗な空間って言ってなかった?」
「……はい。私の知識では、そのはず……だったのですが……」
「うーむ、もしかしたら、リオの魔力から魔法陣で産まれたことが関係しておるのかもしれんのぉ?」
「どう言うこと?」
「うむ、あくまで推測じゃが、本来ならヴァンパイアの力だけで闇の亜空間を作り上げるが、ここの亜空間は、この亜空間を維持するのにリオの魔力とクレイの魔力のどちらもが使われており、リオの魔力の影響で本来なら真っ暗な空間が、このような平原のような状態になっておるのかもしれんのぉ……」
普通に生まれた魔物ではなく、魔法陣からリオの魔力を使って生まれた魂の繋がった魔物じゃからのぉ……あくまで推測じゃが……とゼンが話してくれた。
「へぇ……そんなことも起こるんだ……?」
「推測であって、調べてみたら違うかもしれんがのぉ……」
「そっか……クレイ、亜空間を扱うのに悪影響はなさそう?大丈夫??」
「はい。悪影響は特には感じません。確かにご主じ……リ、リオの魔力を亜空間の中から感じますのでその影響と言う可能性は十分に考えられます」
「ふむ、ではこのまま様子を見るのが良いかの?悪影響が出たら相談してくれたら私も調べようかの」
「ありがとう!ゼン」
「ありがとうございます」
何かあったら相談に乗ってもらえるのは心強いなと思いながらお礼を伝える。
「中、結構広いね。木とかあるけどなんの木だろ?」
気になって尋ねるがクレイにも分からないようで、3人で見に行くことになった。
周りも調べながら歩いていると、どこまでも続いていそうに見える空間ではあるものの、それは見た目だけで、クレイが盛大に頭をぶつけたことで亜空間には端が存在することが判明した。
だいたい20メートル四方の空間のようで端まで行くと、透明の壁のようなものが存在した。
「おデコ、大丈夫?」
「……はい」
クレイは、ぶつけて赤くなったおでこを恥ずかしそうに擦りながら答える。
「見た目はまだ先がありそうなのにね……気をつけてないと、分かっててもぶつかりそうだね……」
ガラスよりも透明だ。光を反射したり、自分が映ったりも全くない。コレは何でできているのだろうか?と、壁にぺたぺたと触れながら不思議そうな顔でリオがつぶやいている。
「そうですね…。何か目印になるようなものでも建てるようにしましょうか?」
「うん…その方が良さそうだよね?看板とか?」
話しながら見えない壁をぺたぺた触ったり、周りを調べつつ奥に生えている木の方に歩いていくと植わっている木は果樹のようだった。まだ少し離れている所からでも赤い実が見える。
「ほぉ、見たことの無い実がなっておるのぉ」
「え?!コレ……」
「色鮮やかな実ですね。この木は赤、あちらはオレンジ、そっちは緑、あちらは……紫……は毒もあるのでしょうか?」
近くまで行くと、不思議な色ですね。と、ゼンもクレイも木の実を眺めている中、リオだけが驚きの声を漏らした。
「え、まって、ゼン、この木の実知らない?この世界にはない??」
「ふむ……私は見たことがないのぉ……その言い方だとリオは知っていそうじゃな」
「うん……」
そう、リオは知っている物だったのだ。そこにあったのは、りんごの木、梨の木、みかんの木、ぶどうの蔓を這わせた棚、桃の木、柿の木が5本ずつ、綺麗に等間隔に並んで植えられていた。
「これ私が前にいた世界で食べてた果物だよ」
「……この紫のものもですか?」
クレイが渋い顔でぶどうを指さし、毒でもありそうですよ?と聞いてくる。
「見た目はぶどうなんだけど……食べてみていいかな?」
「ふむ、問題なかろう。その身体は状態異常耐性も高めにしてあるからの」
ゼンが毒があっても少々なら大丈夫だと笑いながら答える。
リオはクレイが大丈夫なのかと気にしていたぶどうをひと粒とって食べてみる。
「ん!!」
「!?リオ??大丈夫ですか?吐き出してください!やはり毒でしょう??」
目を大きく見開き動きを止めると、クレイがやはり毒だったのでは?と、焦った顔で声をかけてきた。
「めちゃあまぁー!美味しー!」
と2人に笑いかけると、クレイにジト目で見られた。
「毒味したから、ゼンもクレイも食べてみてー!めっちゃ美味しいよー。あ、そういえばクレイって……血以外も食べれるの?あぁ、ゼンもじゃん……骸骨だった……骸骨って食べ物食べれるの?」
2人に聞くと、 ゼンは大丈夫とウンウンと頷きながら手を差し出してくるので、ゼンにぶどうを渡すと、ゼンはぶどうをパクリと口に入れながら、教えてくれた。リッチになってからは食べ物を食べなくても問題ないのだそう。だが、食べようと思えばどこに入るのかは分からないが食べれるし、味も匂いも分かるのだとか。クレイも血を飲んでいれば食べる必要はないけど、普通に食べれるそうだ。ただ味覚の違いか血ほど美味しくは感じられないみたいだと言っていた。みたいというのは生まれた時から持っていた知識にそうあるようで、まだ実際に食べてみたことがないからだ。今回はせっかくということで食べてみることにしたみたいだ。
「ほぉ、こんなに甘い食べ物は初めて食べるのぉ。美味じゃのぉ」
「ん!リオの魔力の味がします!」
「え?魔力の味……?魔力って味あるの??」
クレイに聞くと、しまった、という顔をして目をそらすクレイ。じーっと見ていると、ちょっと慌てながら謝ってきた。
「そ、その……あの……リオが寝ている時に少し血を分けていただいたのです……。勝手に飲んですみません……。その時の血に混ざっていた魔力の味と同じ味がこの実からします。とても……美味しいです」
少し気まずそうな顔をしながらチラチラ伺いつつ話してくる。
「……まぁいいよ。ゼンもクレイの言う魔力の味?みたいなの分かるの?私は普通のぶどうの味しか分かんなかったけど……?」
リオが聞きたかったのは魔力の味についてだ。魔力に味などがあるのか?そもそも魔力とは何なのかと思い尋ねたのだが、思わぬ暴露話が飛び出した。
とりあえず、しょうがないなぁ…と、クレイの頭をぽんぽんとなでながら、ゼンに聞くとゼンにも魔力の味というのは分からないそう。
「血を飲む種族特有の味覚なのかのぉ?」
「そっか、じゃぁみんなで食べても大丈夫だね!ゼン、ハサミと籠ないかなー?」
どれもしっかり熟れていて美味しそう。食べ頃のものばかりだから収穫しようと思い、ゼンに聞いた。
「ふむ、それなら、ちょうど良いからこれも渡しておこうかのぉ」
と、ハサミと籠の他に腕輪も何も無い所から現れた。リオは急に目の前に、籠とハサミと腕輪が現れたことに驚いていると、それをゼンに渡された。
渡されたのでとりあえず受け取りはしたものの、何も無い所からものが現れた事に驚いていると、ゼンはリオの反応に笑いを漏らしながら何処から出したのか説明してくれた。
今取り出した腕輪は、魔法収納腕輪という魔導具、要は次元収納の魔道具らしく、物を収納するのに使える物だそう。ゼンも同じ物を使っており、そこから取り出したようだ。収納の中は時間経過も止まっており、入れた物の重さも感じない。さらにこの魔法収納腕輪は特別製で中の収納容量も制限が無いのだそう。リングをつけて仕舞いたい物に触れ収納しようと思うだけで収納でき、中に入っている物を思い浮かべ取り出そうと思うと取り出せるという便利アイテムだそう。
「え!!嬉しい!ほんとにいいの??」
「うむ、全員分あるからのぉ。ここから出発する時に渡そうと思っておったのじゃが、その木の実を取るなら、取ってすぐマジックリングに収納しておけば傷む心配もないからの」
「ゼン、ありがとう」
マジックリングはとてもオシャレな腕輪だった。虹色に光る石が真ん中に1つ嵌っており、太さは3センチ程だろうか、シルバーの腕輪部分は細かい細工がされておりとても可愛かった。
ゼンには何から何までお世話になりっぱなしだ。
果物の収穫をするから魔法の練習は後にすると伝え、果物狩りを開始する。
ゼンはみんなの様子を見に行ってくれると亜空間から出ていった。クレイは手伝ってくれると残って、一緒に果物狩りをすることになった。
クレイ:ふ、ふふ、ふふふ、私の名前は紅麗…ふふ…名前つけて貰えました!クレイ…良いですね…クレイ…とても気に入りました!
紅くて綺麗、クレイ…ふふふ
ここまで読んで下さりありがとうございます。
楽しんで頂けていると幸いです。