34、病気のリス
今日もいつもと同じようにしっかり睡眠を取り目覚める。
普通なら森の中で野宿のはずが、箱庭のスキルがあるおかげで、森の中を進んでいる途中でも家にすぐ帰れるのはとてもありがたい。
朝ごはんを食べてすぐに出発しようかとも思ったが、とりあえずクレイに声をかけようと、家の外に出てみる。
「リオ、おはようございます。」
「わ!ビックリした。おはよぉ」
出入口のドアを開けると、クレイが真ん前に立っていた。
「そろそろリオが起きる頃かと思い、戻ってきた所だったのです」
「そうなんだ!」
「あ、これマジックリングにしまって貰えますか?」
「え?魔物の死体もあるじゃん?」
「はい、少しだけ狩りに行ってきたのです」
「そうなの?それなら誘ってくれたら良かったのに」
「いえ、リオだけレベルが上がっても箱庭が成長しないではないですか!リオは昼間魔物と戦うこともあるでしょうから、寝てる間に行くのが良いかと思ったのです。」
「ふふ、そうなんだ」
「ええ!昨日のフレーバーウォーターはとても美味しかったです。箱庭を成長させれば、リオの元いた世界の食べ物が増えるのでしょう?あんなに美味しいものがもっと増えるかと思うといてもたってもいられず……」
クレイはうっとりした顔で、フレーバーウォーターの味を思い出し、まだ見ぬ食材に思いを馳せているようだ。
……フレーバーウォーターってそんなに味しないと思うんだけどなぁ??ミントが効いてたのかな??
リオは疑問に思いながらも、クレイが気に入っているならまぁいいかと、途中で考えるのを辞めた。
家の中に戻り、朝ごはんを食べる。クレイも地球の食材はリオの血の次に好きだともりもり食べていた。
食べ終わり食休みをしていると、ウォーターボトルをもっと作って欲しいと言われ、10本ほど作る。
それを受け取り、クレイはフレーバーウォーターを作り始めた。
昨日教えてあげた物を作っているようだ。
「それ、イチゴとかぶどうとか、他のフルーツでしても美味しいよ」
「なんですって!!ちょっと詳しく!!」
かなり前のめりに身を乗り出してきた。
顔が近い……。
「う、うん。レモンとミントはそのままで、オレンジとグレープフルーツを違うフルーツに変えるの」
「レモンとミントはある方がいいのですか?」
「んー、なくてもいいけど、レモンを入れとくと、他のフルーツを入れても、フルーツが変色しにくいかな。ミントはその、スゥーッとした感じを出してるのがミントだからある方が私は好きかな?」
「へぇ、そうなのですね。イチゴとブドウはどれですか?」
「この赤いつぶつぶ付いたのがイチゴ、こっちの紫のがブドウだよ」
「なんと!これはどちらもとても甘くて美味しかったものですね!」
「うん。そのまま食べても美味しいよね」
「……でも、ちょっと試してみます」
「ふふ、うん」
クレイがフレーバーウォーターを作ってるのを見ながら、リオはまた回復魔術の練習を始めた。
昨日ワニに噛みつかれそうになったからだ。もし今後、強い魔物に出会ってしまって、大怪我をしたり四肢欠損をしてしまった場合はかなり困るだろう。なので、四肢を欠損しても、生やせるという[オプテォマールヒール]が早く覚えたいのだ。
オプテォマールヒールは回復魔術のレベルが35にならないと覚えれない。
毎日コツコツ手が空いたら練習をしていくことにした。
「じゃぁそろそろ行くね!」
「はい。何かあればすぐにこちらに避難してくださいね」
「うん!いってきまーす!」
ゲートを開き森に出る。昨日ゲートを開いて亜空間に入った場所だった。
やっぱり出る時は、入った所にしか出られないみたいだなぁ……。
周りをキョロキョロ見回し、木が切れていない方角へ進む。
しばらく進んでいると、森の中にクルクルと言う声があちこちから響いてきた。
昨日のリスに似た声だなと思いつつ歩を進めていると。
目の前に昨日と同じリスが現れた。
「クルクルッ」
「あ、昨日のリスさん?またさくらんぼ食べる?」
声をかけてみると、ぴょんぴょんと肩に飛び乗って来た。
肩でクルクルと可愛らしく鳴き、また地面におりる。
そのまま森の奥に少し進み、後ろを振り返った。
「……?付いてきてってこと?」
「クルルルッ」
言葉を理解しているのか、いないのかは分からないが、返事をしたように鳴き声を出し、ついて行くと、後ろを振り向きながらどんどん奥に進んでいく。
このままついて行ったら迷うかな?
木に槍で矢印の傷を入れ、印をつけながら進むことにした。
しばらく進むと木の枝に数匹のリスが乗っている。とても可愛い。だが、そこで止まらずさらに奥に奥に進んでいく。
奥に進むにつれ、リスの数がどんどん増えていく。
「わぁ、リスこんなにいっぱいいたんだー。可愛いー」
周りをキョロキョロと見ながらさらに進むこと数分、周りに比べてもかなり太い幹の大きな木があった。
タタタタッとリスが駆け上がっていく。
リスを目で追っていると、上の方に穴があいているようだ。
駆け込んだリスが顔を出す。
「あそこに案内したかったのかな?」
「よっ、ほっ」
タッ タンッ タッ スタッ
さすがゼンの最高傑作のホムンクルスである。
木登りもぴょんぴょんと走って登れる跳躍力だ。
穴の近くの枝に腰をかけ、穴を覗く。
「クルクルッ」
「その子は…」
ぐったりとしたリスを穴の入口まで咥えて引っ張ってきていた。
「回復魔法で治るといいけど…。アキュレイトヒール」
リスにそっと触れ、中級回復魔術のアキュレイトヒールを発動させる。
パァァァァァっと明るい光がリスを包む。
徐々に光が収まっていき、光が消えると、ぐったりしていたリスがパチッと目を覚ました。
「クルルルルッ」 「クルクルッ」
鳴きながら数匹で頬を寄せあっている。
「はわわわ。可愛いー。可愛すぎる!」
ほっこりした気持ちでじゃれ合うリスを見たあと、ぶどうをひと房取り出し、1粒ずつリスに渡していく。
「クルクルッ」
お礼を言うように鳴いて受け取り、穴の奥に入っていった。
トンッ トンッ スタッ
「はぁー、可愛かったなぁー。携帯あったら絶対ムービー撮ったのになぁー」
木から降り、頬を擦り寄せじゃれあっていたリスを思い出す。
さて戻るかと、来た方を見るとあちこちからリスが沢山集まってきていた。
…あ、ぶどう持ったままだった……これのせいか?
「はい、どうぞ」
しゃがんでぶどうを1粒ずつリスに渡していく。
ぶどうを貰ったリスからあちこちに走り去っていった。
果物や木の実が成ってるの見かけなかったけど、餌があんまりないのかな?等と考えつつ、みんなに行き渡ったようでリスが足元にいなくなると、出発した。
「動物園のふれあいコーナーみたいだったなぁー。あ、でもふれあいコーナーでもリスはなかなかいないかー?しかもミントグリーンって。めっちゃ貴重な体験したんじゃない?めっちゃ可愛かったし!ふふ」
木の印を目印に元の場所まで戻りながら、アキュレイトヒールを実際に使えたのと、可愛いリスに囲まれてご機嫌な様子だ。
こんな可愛い生き物しか出てこなかったらいいのになぁー。等と考えつつ、また先を進んでいく。
リスA:た、大変だ!大変だ!
リスB:どうしたんだ?
リスA:俺の家族がー!家族がー!
リスC:倒れてるじゃねぇか!どどどうしたら…
リスB:そうだ!昨日の初めて見た生き物!
リスA:はっ!確かに良い奴そうだった!相談してみよう!
リスA:お、おい!助けてくれー!!俺の家族が大変なんだ!
お?通じたのか?……なんでそんなにゆっくり歩いてるんだ!早く早く!もっと早く来てくれ!
こっちだ!もっと早く!うぐぐぅー……通じてないのか?
リスD:おい、俺らの家もあるのに、あんな見たこともない生き物を連れてきて大丈夫なのか?
リスA:分からねぇ……だが、俺の家族の命がかかってるんだぞ!
リスD:う、うぐっ……。
リスA:うおー!治ったァー!ほ、本当に大丈夫なのか?
病気だったリス:すっかり良くなったわ!ありがとう!
リスA:良かった!本当に良かった!
リスB:凄い!あんな簡単に治っちまうなんて!
リスC:お祝いしないと!
リスABC:それにしても、あの生き物すげぇー!!!
読んで下さりありがとうございます




