322、豹の牙 (8/5)
よし!あとは、スタンリーさんだけだな!
今日は予定通り、朝食を食べ終わるとすぐにお花見の用意を始めていた。
サンちゃん、ジオ、ランちゃんが屋台の準備を、ノアちゃんがお弁当の準備を、クレイと今回はセリオン達従魔も一緒に飲み物の準備をしてくれている。
リオはビンゴ大会もすると言っていたので、そちらの準備をしようとしていると、皆に何をしてるんだと言われた。
「え?ゲームの準備だけど?」
「リオは別の仕事があるだろ!」
「え?」
皆に言われた別の仕事とは、ゼン、コンラッド様、ジョヴァニー様、クリストフを呼びに行ってきて!というものだった。
皆で手分けする?と尋ねたが、ゼンはいいけど、他は領主様だから気が引けるそうだ……
という事で、珍しく丸投げされて、ゼン、ジョヴァニー様、コンラッド様、クリスと、順に声をかけてきたところだ。
ゼンは呼びに行った時に変身薬を飲んですぐに一緒に箱庭に来た。昨日あの後効果時間を確認していたがゼンも効果が切れたのは8時間後だったようだ。
前に私にくれた時計と同じような作りの時計にタイマーをセットできる機能を追加したとかで8時間でセットしてから30秒後に変身薬を飲んでいた。タイマーが鳴ったらすぐにトイレに駆け込んでまた変身薬を飲むのだと言っていた。
まぁトイレが空いてなかったら最悪ゲートを抜けて家に戻ればいいから何とかなるだろう。それにしてもタイマー機能を付けたって、サラッと言っていたがさすがゼンだ。
ゼンを箱庭の皆に紹介すると初めてのお客さんに子供達はテンション高く遊びに引っ張って行ってしまった。子供達に囲まれて少し戸惑ってはいたが、私達以外の人と話すのは久しぶりだからか少し照れたような顔で楽しそうに笑っていた。
その後、領主様達の執務室直結のゲートを抜けて領主様を順番に呼びに行ったが、3人ともなにやら準備があるそうで、準備が終わったら行くと言っていた。
人を呼んでもいいかと尋ねられたのであまり多くなければと答えておいたが、一体誰を連れてくるのだろうか?
とりあえず、3人とも来てくれるようなので、先日顔繋ぎをして欲しいと言っていたスタンリーに声をかけてあげようと思い、ルゼルの街にやって来た所だ。
冒険者ギルドに行くと、ギルド内は沢山の冒険者で混んでいた。
以来掲示板も、良い依頼を取り合っているのか、ギャーギャーと叫んでいる人もいて騒がしい。
奥の食堂も朝食を食べている人だけでなく、朝からお酒を飲んでワイワイと騒いでいる人もいるようだ。
店内を見回しながらも、受付の方へ向かっていく。受付は6箇所あるがどの受付もかなりの人が並んでいる。
少しでも少ない所に並ぼうと、1番人の少ない奥の列に向かって歩いて行っていると、後ろから声をかけられた。
「なぁ!」と肩をポンッと叩き話しかけてきたのは、剣と盾を携えた、なかなか大柄の男性だった。赤というより朱色に近い色の短髪、ブラウンの人懐っこそうな瞳、ニカッと笑った口は大きかった。
「ん?」
「この間の猫の姉ちゃんか?」
「……え?何それ?」
「へ?俺の見間違えか?この間ここで黒猫と話してた……」
「あ!うん、黒猫とは話してた!」
「そうか!やっぱり!凄かったよなー!あの凶暴な猫が大人しくなるなんて!」
男は昔なじみの友人にでも話すような調子で話しかけてきた。
「そう?お兄さんは、あの黒猫に弄ばれてた人?」
「な?!ちょ、言い方!!!……まぁ、あの猫すばしっこ過ぎて捕まえられなかったけどよ……」と、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにごにょごにょと言っている。
「怪我は?大丈夫だったの?」
「ああ、ちょっと頬と腕を引っ掻かれたくらいで、なんともねぇよ!」
そう指さした頬には、頬の中央辺りから耳下の辺りまで4本の傷があり、左の腕辺りにも傷があったが、もう瘡蓋になっているようだ。
「そっか、良かった」
「俺はデビッド!Cランク冒険者だ」
「私はリオだよ、ランクはD」
「え?D?!マジか!」
「え?うん?」
「あの凶暴な猫も収めちまったから、高ランクの冒険者かと思ってたぜ!」
「あはは、全然だよ」
「あの猫は今日は一緒じゃないんだな?」
「うん、家にいるよ」
「へぇ、テイムしたのか?」
「んーん、テイムはしてないよ」
「は?テイムもせずに家にいて大丈夫なのか?」
「うん、人の言葉が分かるみたい」
「え"?!」
「うちは小さい子供もいるけど、言ったら怪我させたりすることも無く仲良く遊んでるよ」
「マジ?」と青い顔をしている。
「うん」
「てことは、俺らが話してた事全部分かってたってことか?」
「何話してたの?」
「猫を捕まえる作戦を……」
「……猫の前で?」
「猫の前で……」
「ぷッあはは!ヤバッ!それは作戦筒抜けだね!」
「ッ〜〜〜!!!クソー!そりゃねぇぜ!!」
「ドンマイ!」
「はぁ……」
受付の列に並んだまま話していると、「デビッド!」とデビッドの仲間らしき人達が依頼書を持って歩いてきた。
「おう!依頼決まったか?」
「おめぇも選ぶの手伝えよ!」と仲間の男は呆れ顔だ。
「リオ、俺の仲間を紹介するな!」仲間の言葉は無視して、リオに話しかけている。
こっちがステファンと依頼書を持った腰に剣を帯剣している男性を親指で指し、こっちがケンドールだとローブを着た男性を指した。
「初めまして、リオです」
紹介された2人に名前を名乗ると、2人はリオを見て顔を真っ赤にした。
そして、デビッドに、こんな美人ナンパするとか、お前何考えてんだ?デビッドじゃ絶対無理!などと、コソコソ声で話しているが、耳のいいリオには丸聞こえだった。
「いや、ナンパじゃねぇし!この間の猫の姉ちゃんだよ」
「「猫の姉ちゃん?!」」なんだそりゃ?と聞き返している。
確かに猫の姉ちゃんという言い方は意味が分からんなと、リオは2人の疑問に最もだとうんうんと頷いていると、デビッドは苦笑いで2人に説明していた。
説明された2人は思い出したようで、あー!と大きな声を漏らしていた。
どうやら2人もあの現場にいたようだ。
リオはかわいい黒猫の事しか見えていなかったので、体格のいい冒険者の男の人が十数人いた事くらいしか覚えていなかったが、皆はリオの顔も、言われてみれば!と思い出したようだ。
「いやぁ、こんな美人1度見たら忘れねぇはずなのに、見たことあるけど、どこで見たんだっけと思ってたんだよ!」
「うん、猫のインパクトが強すぎて抜けてたんだな」
「俺は覚えてたぜ!」と、デビッドは自慢げだが、珍しいこともあるなと、一蹴されていた。
デビッド達は豹の牙という男ばかりの3人パーティのようだ。意外にもデビッドがパーティリーダーらしい。
3人とも生まれも育ちもルゼルの街で幼なじみなんだとか。
ステファンは青い髪で青い瞳、ケンドールは金髪で目も茶色ががった金色だった。赤い髪のデビッドと3人並ぶと頭の色がまるで信号機のようだとリオは笑いそうになっていた。
笑いそうなのを誤魔化すために、ケンドールはローブを着ていて魔法使いみたいな服装だねと尋ねると、見たまま魔法使いだった。魔法を使える人って珍しいんでしょと尋ねると、ケンドールはルゼルの領主様の息子だそうだ。
だが、4男だと跡を継ぐことも出来ないし、自立しないといけないので、デビッドとステファンと冒険者をしているようだ。3人とも23歳で18歳の時から冒険者活動をしているらしい。
少し話していると、リオの順番になったようだ。
じゃぁね!と声をかけ受付に行くと、受付のお兄さんに、スタンリーに会えないかを尋ねた。
受付は女の人がいることが多いのに、今日はすらっとした細身のお兄さんだった。お兄さんはすぐに確認しますと、行ってしまった。
すると、またデビッド達に絡まれた。
「お前、ギルマスと知り合いなのか?」
「うん、まぁ顔見知り程度だけど……」
「え?じゃぁ、なんの用だよ?」
「この間も、猫連れたままギルマスの所へ行ってなかったか?」
「そうだった!何事もなく出てきて、それにも驚いた」
「え、そ、そうだね」
「で?」
「え?」
「なんの用だ?」
「何でもいいじゃん?」
「いやいや、ギルマスなんてなかなか会える人じゃねぇんだぞ!」
「そうだぜ!特にルゼルのギルマスは元高ランク冒険者で憧れてる人も多いのに!」
「そうだぞ!」
「はあ」
「そんな気の抜けた返事してる場合じゃねぇ!」
「えー、いや、そんな事言われても……」
と、詰められていると、受付のお兄さんが戻ってきた。
「すぐに会えるそうなのでご案内します」というお兄さんの言葉に、「俺らも一緒に言っていいか?」とデビッドが言い出した。
「ダメに決まってるだろ」「それはさすがに……」と言うステファンとケンドールの言葉に耳を貸さず、我儘な小さい子供のようにごねてくる。
ギャーギャーと騒いでいると、スタンリーの方が2階から降りてきた。
「何を騒いでるんだい?」
「あ、スタンリーさん!助けて!」
「……へ?」
とりあえず、受付はずらりと人が並んでいて、これ以上ここで言い争うのも他の人の迷惑になるからと、豹の牙の3人も一緒に一旦移動することになった。
ゼン:リオ達以外の人に会うのは久々じゃのぉ……う、上手く話せるじゃろうか?
だ、だんだん緊張してきたのぉ……
こんなに緊張したのは、死んでからは初めてかもしれん……
いや、死ぬ前も大して緊張したことなど無かったかの?
はぁ、人数がかなり増えておると言っておったが……
な、何とも大人数じゃ!誰が誰やら、自己紹介してくれたが覚えられんのぉ……
え?え?ほぉほぉ、ゲームじゃと?なに?!そんなに種類があるのか?それにしても、ここにおる子供達はいい子ばかりじゃのぉ!
上手く話せるか心配じゃったが杞憂だったようじゃ!ふぉっふぉっ楽しいのぉ!
いつも読んで下さりありがとうございます。




