3、異世界転生-3
そして、先程の青年や皆の傍にいた動物は、この世界では魔物と呼ばれる存在で、ホムンクルスのお腹に描かれていた魔法陣、リオが熱いと驚いていた模様から生み出された従魔だそう。ホムンクルスに魂を入れると、魂の持つ魔力に反応して魔法陣が発動するようにゼンがお腹に魔法陣を描いてくれていたそうだ。
普通に存在する魔物をテイムして従魔にするのと違い、魔法陣から生み出す従魔は、主と一心同体で魂が共有されているのだそう。なので、主が死ぬと従魔も共に死ぬようだ。従魔が死んでも主が死ぬことは無いようだが、魂に少々影響がある場合があるそうで気をつけるようにと言われた。ゼンも以前は従魔がいたが、リッチになった今はいなくなってしまったと言っていた。リッチになる前に1度死んでいるようだと言っていたのはそのためで、細かく分析しようとしたが……なんせ自分の死亡時のことなので詳細は不明なようだ。
別世界の魂の方が、魔力が多い魂が多いらしく、別世界から魔力の多い魂を連れてくるつもりでいたようだ。なんでそんな事を知っているのかと不思議に思い尋ねてみると、生前……リッチになる前に一緒に研究をしていた仲間に魂の研究をしている者がおり、この世界だけに留まらず他の世界の魂まで研究していたのだとか……なんとも壮大すぎる話で、いまいち理解できなかったが、その仲間に他の世界の魂に干渉する方法を教えてもらった事があったそうだ。私達はその方法で見つけたらしい。急に他の世界に連れてこられて1人だと大変かと思い、相棒を作り出すため、ゼンが若い頃に流行っていた、自らの魔力から相棒となる従魔を生み出す魔法陣を刻んでおいてくれたのだそう。
魔物と戦う事もあるだろうからその際にサポートもしてくれるだろうと言っていた。
魔法陣で生み出す従魔は魔力の量によって強さが変わるらしい。私たちは5人とも魔力の量がかなり多いらしく、とても強い従魔が魔力から生み出されたようだ。
それからもう1つ、特殊な魔法陣も刻んでくれていたようだ。
戦うのには武器も必要だろうと、ホムンクルスの身体に魂を入れた時に、同時に魂から武器も具現化出来るようになる魔法陣だそう。魂に合った武器が具現化でき、使いたい時に具現化され、しまいたい時には消えるそうだ。その武器は魔法媒体にも使えるそうで、私の武器は具現化されたままで、ルビー色の瞳の青年が持っていてくれたみたいだ。
「リオの従魔?だけ人みたいだけど……魔物なの?」
サンちゃんに聞かれ、青年を見ると青年が答えてくれた。
「はい。私はヴァンパイアですので、人ではありません」
「「「「「ヴァンパイア……?」」」」」
と、リオだけでなく、皆驚き言葉を繰り返す。
先程までリオもなんの魔物か聞きそびれていたが、ヴァンパイアと聞き、青年を改めて観察する。ヴァンパイアって、顔が青白くて牙とか生えてて、昼間は寝てて夜活動するイメージだったけど、見た目は本当に人と変わらない。黒髪に赤い目、肌は白いけど青白いまではいかない、かなりの美青年だ。耳は上が少し人よりは尖ってるかな?手は……爪は少し尖っていて黒のネイルをしているように黒い……。服を着ているので体は分からないが、羽は……見当たらない。服の中に隠れているのか?それとも無いのか?それから、今は夜じゃなさそうだけど動き回ってて大丈夫なのだろうか……と、考えながら自分の事をヴァンパイアだという青年を見つめる。
「はい。ご主人様の魔力から生み出されました従魔で、ヴァンパイアです。よろしくお願いします」
「すごいな……」
「ヴァンパイアなんか初めて見た……」
「映画じゃなくて本物かぁ……」
と、みんな口々に言っている。
リオも、もちろんヴァンパイアなんか見るのは初めてだ。 映画などで見ていたヴァンパイアと随分違うんだな……と興味深げに眺めていると。
「それで、ご主人様。……大変申し上げにくいのですが……毎日少しでいいので血を分けて頂けませんか?」
青年はモジモジしながら頼んできた。
「血が……ご飯?」
まだ頭の中で情報処理が追いついていないのに、更なる情報を被せてくるのでリオは若干混乱気味だ。
映画のヴァンパイアも血を飲んでいたが、血を飲まれた人は死んでしまうかヴァンパイアになってしまっていた。大丈夫なのか……?と不安げに青年を見る。
「はい。血液と一緒に魔力も分けていただきたいのです。ヴァンパイアの唾液には傷を治す力があるのでご主人様を傷だらけには致しません。それに、ほんの少しの量で大丈夫ですので……貧血を起こす心配はありませんし……」
とモジモジしながら説明をする。
青年の話では、量はほんの少しで良いので、失血しすぎで死んだりはしないし、血を飲んだからといってヴァンパイアになる事も無いようだ。さらに傷口は唾液で治るのだとか……どんな唾液だよ!?と、ツッコミたかったが、青年が真面目な顔で話しているので辞めておいた。
「う、うん。わかった」
にっこり笑って答えた。顔が引きつっていないか心配だ。
血をわけないと私が言ったせいで知らない人に襲いかかられても困るし、貧血にならないくらい少しでいいなら問題ないかな?傷も治してくれるって言ってるし……。
色々言われすぎて、頭がついて行かないが、まぁそれくらいならいいかと返事をしておいた。
「すげーな。ヴァンパイアかぁ……」
と、ランちゃんが声を漏らし、脱力している。
見るとランちゃんだけでなく、皆、情報過多で頭がパンク寸前のようだ。
「ちなみに、みんなの従魔はなんの魔物なの??かわいい動物みたいだけど……」
聞くとジオが、そうだった!聞いて聞いて!と、テンション高めに教えてくれた。
「そうそう!リオの従魔だけじゃなくて俺らのもすごいんよ!サンちゃんの従魔はガルーダ。ノアの従魔がアダンダラ。ランガの従魔がスコル。そして俺の従魔がクァール。やばくね?!どれも高ランクの魔物だって!」
魔物はランク分けされ、種族によって強さの基準があるそう。
いちばん弱い魔物でGランク。弱い順に、G→F→E→D→C→B→A→S。
私たちの従魔達はAランク~Sランクに分類される魔物ばかりだそう。
Sランク以上に分類されるのは災害級の魔物なので、Sランクな時点で街など一瞬で消しされる力を持っているらしく、Sランクより上は分類されていないようだ。
ペラペラと詳しく説明してくれる皆に、なんでそんなに魔物の種類に詳しいのかと聞くと、ゼンの記憶を分けてもらったそうだ。
「記憶を分けるって……ゼンの記憶は無くなるの?てかどうやって……」
「ふぉっふぉ。私の記憶はなくなりはせんよ。私の記憶と同じものを譲渡した感じかの?これも一種の魔術じゃよ」
つまりコピペしたみたいな……?
「凄っ……魔術便利過ぎ……」
「あと記憶を譲渡しておらんのはリオだけじゃ、今からしても良いか?」
「うん!お願いします!」
記憶の譲渡..….どんなものかドキドキしながら待っていると、頭にふわっと手を置かれ、骨だけの手なのに温かさが伝わってくるような気がする。……気がするだけじゃ無さそうだ。なんか頭が暖かくなってきた。不思議に思っていると、今度はだんだん頭がズキズキしてきた。
ズキズキするのがどんどん激しくなり目眩がしてきた。そのまま数分後、頭がグワングワンとなり、倒れそうになった頃に、やっと頭から手が離された。
「頭痛い……クラクラする……」
なんでだ?と、おでこを手で押さえながら、青い顔で呟くと、
「ふぉっふぉ。情報量が多いと痛くなることもあるのぉ」
と、笑いながらゼンがいう。
「うぅ……」リオは机に突っ伏して呻き声をあげた。
先に教えといて欲しかったな……
「記憶は上手く定着したかの?」
しばらくして、頭痛が収まった頃に、ゼンに聞かれ魔物について考えようとしてみると、今まで知らなかったはずの魔物が沢山思い浮かぶ。種類、強さ、攻撃方法、討伐方法、解体方法等。
「凄い……魔物の記憶が元からあったみたい!色んな魔物が思い浮かぶ。見たことがあるみたいに……不思議……」
「そうか、上手くいったようじゃの」
魔物の記憶だけでなく、この世界のこと、国の名前、言葉や文字、施設や貨幣価値、魔術やスキル、武器の使い方や錬金術薬草や鉱石などゼンが知っている知識はだいたい譲渡してくれたらしい。
さっきまで情報過多で混乱していた部分があちこちつながり整理された気分だ。ゼンの知識のおかげでよく分からなかった所も分かるようになった事が多い。
「ありがとう。でもこんなに沢山の知識……良かったの?」
「構わんよ。まだ私も知らないことも多いしのぉ。それに私は引きこもってだいぶ経つからの。変わっていることもあるじゃろうから、そなたらが私の知らないことを知ったら教えておくれ」
「うん!」
特に国の名前や地理などは少々怪しいと言っていた。
ゼンが生きていた時ですら戦争があちこちで起きていたそうだ。リッチになってからは外界との接触が無かったので変わっているところが多いだろうとのことだ。
全く出かけていない訳では無いそうだが、研究を始めると集中し過ぎて気がついたら一月経っていたとかはざらだったそうだ。
ゼンは骸骨だけどとても優しい。私は笑顔で返事をし、これからどうしたらいいかを聞く。
「せっかく異世界に来たんじゃけ早く魔物倒しに行こう!」と、ジオ。
「ゲームとは違うんだから、戦闘はちょっと怖いな……」 と、ノアちゃん。
「そうだよな……」と、それに同意するサンちゃん。
「リオはどう思う?」と、んー。と悩んでいるようだったランちゃんに急に聞かれ考える。
私たちがしていたMMORPGのゲームみたいなファンタジー世界だという話だけど、ゲームと違って怪我もするし最悪死んでしまうこともある……。身体は高性能で知識を貰えたとはいえ、実戦したことはないから、いきなり魔物と戦闘っていうのは避けたいなぁ……。
リオはそれを皆に伝え、了承を貰えたのでゼンにお願いしてみる事にした。
「ねぇゼン、私たちに戦い方を教えてくれない?知識の記憶は貰ったけど、知ってるだけじゃ実践できるか分からないし……お願い出来ない?」
悩んだ結果、何から何まで甘えてしまうのもどうかと思うけど、実際知らない世界に来て知識だけじゃちょっとどうにもなりそうにないので、ゼンにお願いしてみると快諾してくれた。
ゼンの家はとても深い森の中にあり、家の裏は魔術の試し打ちができるくらいのスペースがあるそうで、そこで魔術の使い方、武器の使い方を練習をさせてもらうことになった。
魂を具現化したという武器も全員違っていて、ジオはクレイモアのような大剣。ランガはハルバートのような武器。サンは双刀。ノアは槍の先に斧が3つ付いたような武器。リオは槍だった。大きく分類するならだが……。どの武器も少々特殊な形状をしており、一般的には売ってなさそうだ。
形も特殊だが、色もだ。5人の武器はどれも白い。鉄等で出来た武器なら、グレーだったり黒だったりするのだろうが、真っ白だった。その白い武器に赤い宝石のような玉が数個ずつハマっている。
ゼンの話だと、この武器は魔術の発動媒体としても使えるようだ。
魔術は発動媒体がなくても使えるが、ある方が魔力が安定しやすいそう。強さの調整もしやすいし、着弾地点を絞るのもやりやすいからある方がオススメだと話してくれた。
説明が終わると、まずは魔法の属性の適性から調べてくれた。
「ほぅ、ほぅほぅ。素晴らしい!魔法の属性の適性はほとんどの者が1つ。多い者でも3つから4つなのじゃが、お主らは全員全属性の適性を持っておるのぉ。これは期待以上じゃの」
ゼンが嬉しそうに笑う。
ちなみに、ゼンもリッチになってから人の時には土と闇以外の4属性しか使えなかったのが全属性使えるようになったそうだ。
魔術には、基本の土、水、火、風、光、闇の6属性と、属性を2つ以上使いこなせば複合属性が使えるようになるそう。
武器の確認もしたし、属性の適性も調べてもらったので、まずは身体の中の魔力を感じ、動かす練習から始めることになった。
ジオ:はよ出発したかったのに、練習かぁ…
練習とか勉強とかって嫌いなんよね…
俺感覚派だし?
……でも皆やるって言うならしゃぁないか……はぁ……
ここまで読んでくださりありがとうございます。