2、異世界転生-2
「ん………」
フッと意識が浮上して目が覚めた。なんか変な……いや、不思議な夢を見ていた気がする。不思議な空間にいて、骸骨に話しかけられて……かなりリアルな夢だったな……
骸骨と話した事まで鮮明に思い出せるような……
ぼんやり夢の事を思い出しながらゆっくり目を開け考えているとだんだんお腹が暖かくなっていく気がして、服の中に手を入れ触れてみる。
ペタペタと直接肌を触るが、触った感じはなんともない。
でも、だんだん熱さが増しているような気がする……いや、気がするだけじゃない!やっぱりお腹が熱い!
何?!と、ガバッと勢いよく起き上がり、かけられていた布団をよけ、服を捲り上げて確認する。
「え?なにこれ……?」
お腹を見ると、そこにはお臍を中心に魔法陣が浮かび上がっていた。
「な?!何これ?なんか変な模様が……??」
お腹に浮かぶその模様を確認したその時、お臍を中心に内から外に向け徐々に模様が発光し始めた。
淡い光からだんだん強い光に。 それと同時に体から力が抜けていく。
どんどん体から力が抜けていき、指先に力が入らない……指先の次は腕が、腕の次は体が…身体中力が入らなくなってきた。
そして、起き上がった体勢を維持できなくなり、仰向けに倒れ、そして目の前が真っ白になり、意識が再び闇に沈んでいった。
◇◇◇◇◇
「ん……ここは……」
次に目が覚めた時、目を開けると1人の青年が寝ている私を覗き込み、見つめていた。
「ご主人様お目覚めになられたのですね」
目が合うと嬉しそうに青年が笑った。
ニコリと笑う青年の瞳はとても美しいルビーのような赤色をしており、光を乱反射させキラキラと輝いていた。
「……綺麗な紅色……」
「紅色ですか?」
「宝石みたいだね」
「宝石……?」
「君の赤い瞳だよ」
「瞳……ああ、ありがとうございます!」
なんの事だ?と不思議そうな顔をする青年に、瞳だと自分の瞳を指さして伝えると、なんの事かわかったようで、嬉しそうにお礼を言われた。
ところで、この子は誰だろうと、疑問に思い尋ねてみた。
「君は……誰?」
「はじめまして。ご主人様。私はご主人様より産まれた従魔です」
青年は笑顔で誇らしげに胸を張りそう答えた。
「え?……従魔……?」
「そうです」
「じゅうまって何?」
ゲームではテイマーが連れていたのが従魔と呼ばれる魔物だったが、目の前の青年は人間だ。同じじゅうまという呼び方でも違うものだろうと確認してみた。
「従魔は、主となる人間と契約した魔物です」
ゲームの従魔と認識が同じだった。つまり
「君は人間じゃないの?」
「はい、私は人間ではありません」
どこからどう見ても人間と変わらない姿なのに人間じゃないなんて……
「人間じゃないなら何の……」
何の魔物かと訪ねようとした時だった。
「最後の者も目が覚めたようじゃな」
青年の後ろから声がかけられた。
そこには夢に出てきたと思っていた骸骨がいた。
「え……骸骨……もしかして、ゼン?夢じゃ……なかったの?」
「ふぉっふぉ、ちゃんと覚えていたようで安心したわい。きちんと記憶があるということは、上手く身体に魂が定着したようじゃの」
「えっと……色々聞きたいことがあるんだけど、何から訪ねたらいいか……」と頭を抱える。
目が覚め、リアルな夢を見た感覚でいたが、どうやら夢だと思っていた事は全て現実だったようだ。
ということは、夢だと思っていた空間で伝えられたように私は死んで、今のこの体に転生したという事か……?
混乱する中、必死に頭の中を整理しようとするが、混乱が収まらない。
「ふむ……ではとりあえず、他の4人と合流してからそなたらの身体についてや、この国のこと等を詳しく話していくとしようかの」
ゼンは優しげにそう言い、別室へ案内してくれる事になった。
骸骨なので表情は分からないが、ゼンの声はとても優しく安心感を与えてくれるような穏やかな声だった。
骸骨なのに、声帯どうなってるんだろ?と、余計なことを考えつつ、座っていた体勢から起き上がり、手を見ると色白の肌の細く長い指がついていた。もう透けてはいない。だが、見慣れた自分の手では無いようだ。
コレがゼンの作った体……?
従魔だという青年が渡してくれた靴を履こうと、前屈みの体勢になると、肩から赤い髪がハラリと垂れた。
髪色も……凄い色……
立つと目線の高さにも違和感があった。キョロキョロと周りを見るがどうやら日本にいた時より背が高い気がする。自分の身体を見てみるが胸の膨らみが凄く大きい……長袖の服、足首まである細身のズボンを履いている。鏡が無いので、身体をあちこちペタペタと触って確認してみるが手足は以前より長く、腰も細い……触った感じはかなりスタイルが良さそうだ。顔は……見ないと分からないか。
身体をあちこち触って確認すると、靴を履き、青年とゼンの後をついて行く。
ゼンが案内してくれたのは数個隣の部屋だった。ノックもなくドアをゼンがガチャりと開け中に入っていく。
ゼンの後を追い中に入るとそこには、シルバーの髪でサファイアのようなキラキラした瞳の男性が1人女性が1人、プラチナブロンドの髪でサファイアのようなキラキラした瞳の男性が1人女性が1人。4人とも顔立ちがとても整っており、美男美女だった。それから見たことも無い動物が4匹いた。
「リオ?」
その内のシルバーの髪の女性が、そう声をかけてきた。
リオは名前を呼ばれるたことに驚き、目を見開いた。ゼンにも名前を名乗っていない。なのに自分の名前を呼ばれたのだ。
こんな美女の知り合いはいないし、声も聞いたことの無い透き通った美しい声だった。どうして名前を知っているのか……と驚きを隠せない。
すると、先程リオの名前を呼んだ女性が、続けて話し出した。
「俺、俺、ランガ!」と、ニコッと笑う。
それに続けて、他の3人も自己紹介をしてくれた。
「俺はサン」
「リオー、ノアだよー」
「リオ、起きるのおせーじゃん。あ、ちなみに俺、ジオな」
と、みんな笑顔で声をかけてくれた。
その4人の名前には聞き覚えがある。
それもそのはず、そこに居たのは、見た目も声もすっかり変わってしまっていたが、ずっと一緒にゲームをして遊んでいたいつもの仲のいいメンバーだった。
「え……他の4人って……」
今の身体に魂を入れられる前に、先に4人の魂を送ったとゼンは言っていた。それってまさか……。
「他に4人いるって聞いたなら、俺らのこと。ゼンが皆まとめて転生させてくれたみたいでさ!」
と、ランちゃんがそう言いながら笑った。
リオは、みんなを見つめ、見た目は変わってしまったが、また会えた友達に目をうるうるさせながら抱きついた。
「ちょ?!」
「わぁ?!」
「おい?!」
「……リオ、大丈夫か?」
「う"ん…うん!みんなが一緒でよかったよォ……」
今まで1人で、現実離れした事が沢山ありずっと不安だったのが、友達に会えた安心感で涙が止まらなくなったようだ。
涙が止まるまでしばらくみんなに慰められ、少し落ち着いて来るとまたランちゃんが話し出した。
「そんで、みんなでなんで死んだんか記憶を掘り起こして話してたんだけど……」
「どうも、オフ会の帰りに乗ったバスが事故ったっぽいんだよな……」
「リオ事故ん時の記憶ある?酔ってたから皆曖昧で……」
聞かれ、思い出そうとしてみたが、リオも記憶は曖昧で、首を振る。
飲み会をお開きにして、泊まる予定のホテルの近くまでバスで行こうと、バスに乗ったところまでは覚えている……バスに乗ってからの記憶がない。すぐ寝てしまったのだろうか……?
リオ達が遊んでいたゲームとは、MMORPG、フリーライフオンライン。通称フリーオンだ。
ゲームではほぼ毎日この5人で遊んでいたが、住んでいる地域がバラバラでリアルに会ったのはその時のオフ会が初めてだった。
ゲームをしている時以外でも連絡を取り合うほどお互いとても気が合い仲が良かったので、初めて会った時も初めましてな感じが全くしなかった程だ。
まさか、初めてのオフ会で全員事故死とか……
「リオ、顔、顔っ。あははは」
事故の時を思い返していたのが顔に出ていたようで、ノアがリオを見て凄い顔だよー!と爆笑している。
リオは爆笑しているノアにアハハ……と、苦笑いを返した。
「でも、他の4人っていうのが、全然知らない人じゃなくてみんなで良かったよ」
「だよな!それは俺もめっちゃ思った!」
「マジで転生とかってあるんじゃね!」
「私はまだ信じられないよー」
「ノアさっきもほっぺたつねってたろ?」
「うん……でも、まだ信じられない」
ノアちゃんも信じられない気持ちでいっぱいなのか……私だけじゃなくて良かった……
このモヤモヤとなんとも形容し難い不安な気持ちなのが自分だけでは無いと知り、リオは少し安堵する。
「死んだのに、神様とかに会わずに転生するって、異世界転生物の小説より凄いんじゃないか?」
漫画やアニメが好きなランちゃんは少し嬉しそうだ。
「確かに、見た事ある転生小説は神様にチートスキルとかもらって無双するのが多いもんな?」
「え?俺らにはそのチートないん?」
「「さぁ?」」
「見た目はチート級にみんな美男美女だよ?」
「確かに!」
「だよな!」
「鏡無くて、まだ自分の顔は見れてないけどな」
「それにしても、なんでランちゃんは女の子になってんの……?」
リオの質問にランガは苦笑だ。
「男の身体が足りなかったらしい……。ゼンが用意してた体は6人分で、男3人女3人だったらしいんだけど……残りのもう一個の男の身体は自分用なんだって……」と、ため息を漏らした。
「自分の魂を移し替えるのはまだできなくて、出来るようになるまでに、体の性能テストを先にしてて欲しいって事らしいよ」と、サンちゃんが補足してくれた。
「そうなんだ……」
そういえば、私たちは魂の状態で見つけた、魂を抜きだすことは出来ないって言ってたっけ?ゼン……自分の魂を抜き出そうとしたのかな……?……怖っ
リオが言ったように、日本にいた時はランガは男だった。フリーオンのゲームアバターも女性ではなく普通に男性のアバターを使っていたのだ。それが今はとても綺麗な美女だ。違和感があるのは仕方の無いことだろう。
「でもランガめちゃくちゃ美人になったんだし、いーじゃん。リオとノアもだけど、なかなかこんな美女おらんよね?」
ジオがニヤニヤと笑う。
「確かにランちゃんもノアちゃんもめちゃ美人だし、サンちゃんもジオもめちゃカッコイイよね」
「だよな!ブサイクにされんで良かったわ」
「ジオ、言い方……」
「でも、日本と美的感覚が似とんのは有難いよな」
「確かに……」
「この、顔や体型はゼンの好みなの?」
会話に参加せずに傍で私達が話しているのを静かに見ていたゼンに話しかけた。
4人とも目鼻立ちがハッキリしており、顔立ちが整っているだけではなく、体型もランちゃんとノアちゃんはメリハリのあるボンキュボンの女性らしい理想的な体型だし、サンちゃんとジオも背も高く筋肉の付き方も綺麗なソフトマッチョ体型だ。自分の顔や身体は鏡が無いので分からないが……。さっきジオがリオもノアも美女だと言っていたので、なかなか美人になっているのだろう。なので、体型や見た目はゼンの理想や好みなのかと聞いてみた。
「ふぉっふぉ。素晴らしい出来じゃろ!!」
と、ドヤ顔だ。多分……骨なので表情は分からないが……声はドヤっている感じだ。
面食いなのかと少しからかうつもりで聞いたのだが、自信満々に言い切られれば、逆に返す言葉が見つからなかった。
「おぬしらの身体は私の魔術研究の全てを集約した6体のホムンクルスの内の5体じゃ。見た目もかなり、かなり、かなりこだわり抜いた!良い出来じゃろ?じゃが、その真価はその性能じゃ。身体能力をはじめ、体力、筋力、魔力伝達力、回復力、全てにおいて最高傑作じゃよ。そしてそなたらが元々持っておった類稀なる魔力量!完璧じゃ!」
と、力説していた。そしてそのまま、ゼンは人造人間の身体の性能や、この世界のことについて話してくれた。
この世界は剣や魔法、スキルがあり、魔物も存在する日本でいう所のファンタジーな世界なようだ。私たちが遊んでいたゲームのようにレベルやステータスも存在する。私たちは人造人間の体だが、普通の人と同じようにレベルを上げたりステータスレベルを上げたりもできるとの事だ。
聞けば聞くほどフリーオンのゲームにそっくりだ……
ホムンクルスの元々の性能自体がAランク冒険者と言われるランクの冒険者並の性能になるように作り上げられているらしく、そこからさらにステータス値が上がっていくそうだ……かなりチートだよね。チートなのは顔だけじゃなかったようで、みんなチートだチートだと盛り上がっている。
人造人間の身体は普通の人間と全く同じでは無く、怪我をすると血は出るし痛みは感じるが、食べた物は全て魔力に変換されるため、排出行為、つまりトイレに行きたくなることは無いのだそう。さらに生殖行為はできるけど生殖能力は無いので子供は作れないみたい。
ゼンが言うには、生殖能力もつけたかったが、構造が難しすぎて無理だったそう。生命の神秘だとか言っていた……人造人間を作れた時点で十分すごいと思うけど……。ちなみに人造人間の体は不老ではあるが不死ではないので怪我には気をつけるようにとの事だった。不老って……どれくらい寿命があるか聞いたら不明との事だった……。その辺も体の性能テストの範囲内だそう。
とにかく人族よりは余裕で長くは生きれるはずだと言っていた。
ゼンの事も聞いてみた。ゼンは元は大賢者と呼ばれるほどの魔法使いだったが年老いて死ぬはずが今の骸骨になっても魂がそのまま身体に定着しておりなぜか死霊骸になってしまったそうだ。きちんと人の時の自我も記憶もあり、暴走したことは無いから安心しておくれと言っていた。ただ、死霊骸のままだと不便なことも多い為、自分の魂を入れ替えるための人造人間を作っていたこと。その人造人間の性能テストの為に私たちが呼ばれたこと等を話してくれた。
従魔:この人が……私のご主人様……。
可愛い……見ているだけでドキドキします。
とても優しそうな人で良かった……。
読んでくださりありがとうございます。