134、報復方法
「んーん。潰す。」
ゾクッ「「っ……。」」
全員、リオの殺気に当てられ、ゾワリと鳥肌がたち、背筋が凍り、背中を冷や汗が流れた。
「こっちはもう何もなさそうだから、今度はあっち。」
「はい…」
通路を反対の方向へ歩いていく。
地下に降りてきた階段の横も通り過ぎ、檻を見ながら進む。
階段の反対側の檻も中は他の場所と同じような感じで、汚く散らかっていた。
「上にいた人が、スラムから誰か連れてきたって言ってたんだけど……。」
「俺らも、ちょっと意識が朦朧としてたから…」
「あぁ、気づかなかったな。人の出入りはたまにあったような気はするが……。」
リオのつぶやきに、男2人が答える。
「この人達でしょうか?」
檻の一番端と、その手前、2箇所に分けられて5人の人が捕まっていた。
5人とも大人の男女だった。
ボロボロの服を身にまとい、手足と首に枷を嵌められ、反対側で連れ出してきた男性2人のように上からの鎖と下の鎖に枷が繋がれ大の字の体勢でたっていた。
気絶しているのか、眠っているのか、体はダランと力なく項垂れ、鎖で引っ張られているせいでかろうじて立っているような状態だ。
リオはここの檻も力ずくで広げ、中に入り拘束を外していく。
全員の鎖を先に切ってから、枷についた錠を壊していく。
「アキュレイトサークルヒール」
少し打撲や擦り傷があったので、傷を治しておいた。
こちらも正面に扉があったので開けてみることにした。
「リオ様、私が開けます。」
「でも…。」
ルードはリオの言葉を最後まで聞かず、ドアを押す。
「な……。」
「どうしたの?」
シュバルツとリオが近づき、部屋の中を見るとこちらの部屋には拷問器具のような物や武器等が壁一面に飾られていた。
刃物は大きなものから小さなものまで、細い針から太い針まで、小さなハサミから大きなハサミ、ペンチや鞭、どうやって使うのか分からないような物まで様々な物が置いてある。
「……こちらには…人はいなさそうですね。」
「うん。」
捕まっている人は他にはいなさそうなので、2階より上を調べてくるからその人たち連れて屋敷の外へ避難して欲しいとリオが言うと、シュバルツはついてくると言い出した。
「ルード、そいつら連れて屋敷の外の衛兵んとこ行ってくれ。俺はリオ様について行くから。」
「…分かりました。リオ様あまり無理はしないでください。シュバルツもきをつけて。」
「うん。」
ルード達と別れて、シュバルツと2階の階段を上がっていく。
まだ気づかれたりはしていないようで、静かなままだ。
廊下を歩いている人もいない。
部屋を1つずつ確認していくことにした。
部屋の前まで行き、索敵を使う。
2階にあった部屋は10部屋。
そのうち4部屋に人がいた。
シャドーバインドは影だ。ドアの下の隙間でも通せる。
リオは索敵で相手の場所をしっかり把握し、中に影を忍ばせて拘束し、部屋に入る。
中に入ると拘束され、もがもがと言いながらもがいている人。
他の人同様に気絶させていく。
2階にいた人たちはリオ達の気配に気づかないままあっという間に無力化された。
あまり戦闘員という感じの人もいなかったので、警護は1階と庭の方のみなのかもしれない。
ジェネファー・ジェネシスはまだ見つからない。
外から見た感じだと建物は3階建てだった。
1階にも2階にもいなかったので、3階にいるに違いない。
リオとシュバルツは慎重に気配を消して階段を上がって行く。
3階は部屋の数も少ない。
索敵をかけるが、人が居そうなのは1部屋のみだ。
ただ、その一部屋には、人が5人ほど居そうだ。
そろりと足音を殺して部屋に近づいていく。が、気づかれたのかもしれない。
索敵をしながら近ずいて行く途中、5人のうち3人がドアの前に並び始めた。
「気づかれたかも…」
シュバルツに小声で伝える。
「どうする?」
「とりあえず、拘束できるか試してみる。」
「ああ。」
索敵でしっかり5人の位置を確認し、集中する。
5人の足元に魔術が展開するようにしっかりイメージして発動させた。
「シャドーバインド」
バタン!
シャドーバインドは2人は拘束できたが、ドアの前に並んだうちの2人と、左の奥にいた人は避けられてしまったようだ。
ドアを開け、ドア前にいた2人が飛び出してきた。
「んのヤロー!」
「こすい真似しやがって!」
「死ねや!」
ヒュン シュン と剣を振り攻撃してくる。
リオとシュバルツはバックステップで攻撃を避けつつ、体制を整える。
「ライトボール ライトボール ライトボール」
リオは足を狙ってライトボールを連射する。
「うお! チッ コノヤロー!」
相手は攻撃を避けながら、斬りかかってくる。
リオとシュバルツが別方向に逃げた為、二手に別れて追ってきた。
リオの相手は1人だ。
もう1人拘束できなかった人がいたがが、こちらを追って来ているのは2人だけだ。
もう1人はシャドーバインドを外そうとしているのかもしれない。
リオはとりあえずこの人を無力化しなければと、ライトボールを下半身中心に連射しながら近づいていく。
相手もライトボールを上手く避けながら、剣をブンブンと振り回している。
「オリャー!」
上から斜め下に振り下ろされた剣を体を引いて交わし下に下がった腕を手で押さえ、目と目の間に向けデコピンをした。
バチィーーーーーーーン
「ぐあぁぁぁぁぁぁ…」
デコピン、しかしただのデコピンではない。リオの怪力とスピードから生み出されたデコピンだ。
デコに穴は開いてないようだが、デコピンを受けた男は顎を上げ、上体を反らし宙を数メートル吹き飛んだ。
ダンッ ダンッ ズザザザザザー
数度バウンドし、背中を地面に擦りながら少し進んで止まった。
男はビクビクと体を痙攣させ気絶しているようだ。
デコピンが当たったデコは腫れており、血も流れている。
吹っ飛ぶほどの衝撃がデコの中央に集中したのだ、デコの骨は砕けているかもしれない。
だが、リオはそんな男の事など気に止めず、シュバルツを追いかけている男の方に向かう。
が、シュバルツの所に着いた時には、ちょうど男を倒した所だった。
「シュバルツ!」
「リオ様、大丈夫か?」
「うん。」
「部屋にあと3人だな。」
「うん。行こ。」
部屋に戻ると、拘束から逃れていた男が2人の拘束を解いてしまっていた。
「……2人を殺ったのか?こんなガキ共が…」
拘束を逃れていた男がつぶやく。
「あなた達、ここはジェネシス男爵家の屋敷よ!何しに来たのかしら?」
真ん中の席に座っていた女が言う。
「ジェネファー・ジェネシスっていうのはあんた?」
「な?!この私を呼び捨てにするなんて!チャンドラー、このガキ共を早く処理してしまいなさい。」
女はかなり怒っているようだ。キーキーと金切り声で叫ぶ。
「はい。ジェネファー様。」
ジリッと大きな剣を構えてにじりよってくる。
「ッリャー!」
横からもう1人の男が剣を振り下ろしてきた。
キィーン
「リオ様、コイツは俺が!」
「ありがとう。」
「うぉーー!」
と、太い声をあげ、奥にいた男が斬りかかってきた。
ギィーーン
キン キンッ キン
リオも槍を構えて応戦する。
ギャギーン キンッ キンッ
いつもなら簡単に切り落とせる敵の武器が、リオの槍と撃ち合っている。
相手も魔力を武器に纏わせ強化しているのか、魔剣の類なのだろう。
さらにリオの怪力と撃ち合っても弾き飛ばされることなく対応している。
この男もかなりの高レベルなのかもしれない。
殺してもいいとは言われたが、あんまり殺しはしたくない。
リオは剣を交えながら、どうやって無力化しようかと考える。
とりあえず足元を…
「ライトボール」
足元にライトボールを連射する。
「ぐっ、く……クソがァ!」
が、上手く避けながら斬りかかって来る。
キンッ キンッ キンッ と剣を交えながらも、リオは詠唱なしで、ある魔術を発動した。
~オペレイトスティング~
可視化出来ない光の糸で付着させた相手を操る。
切り結ぶ度に、手、指、肩、頭、背中、足、足元、とあちこちに糸を付着させていく。
「はぁ、はぁ、なかなかやるな…だが、これで終わりだー!」
その最後だと男が気合いを入れた攻撃がリオに届くことはなかった。
男は急に動かなくなった体に焦る。
「な?な…身体が…動かない…?」
「私の勝ちだね。」
リオはスっと男の目の前に中指と親指で輪を作った手を差し出す。
ピンッ
バチィーーーーーーーン
「グガッ………。」
ドサッ
オペレイトスティングに拘束され、吹き飛ぶことはなかったが、その分衝撃を全てデコで受けたのだろう。
男は微かに言葉を漏らすと、白目を剥いて倒れた。
「な……そんな……。」
女は焦っている。
「私にこんなことをしてタダで済むと思っているの?」
「許可は貰ってる。」
「な…?きょ、許可ですって?」
「許可してくれた人は、殺してもいいって言ってた。」
「じょ、冗談じゃないわ!ふざけるのも大概にしなさい!私が誰だと思っているの!」
「…黙れ!」
ゾクッ「ヒィッ……そ、そんな、そんなことをして、後であなたがどうなるかわかっているの?」
「どうもならない。後処理はしてくれるって言ってたからね。」
リオは殺気を滲ませながら、女に近づいていく。
「ま、待って、お願い、話をしましょう。」
「……。」
「お金?お金が欲しいの?」
「……。」
「宝石はどう?私は宝石商をしているの。珍しい宝石もあるわ。」
「……。」
「好きなものをあげるわよ。何が欲しいの?」
「指。」
「へ?」
「オバサンの指を1本ずつ切り取るね。」
「な、何言って……」
「拘束して、指を切り取ったんでしょ?」
「あ…はぁ…はぁ…」ガクガクガクガク
「手の指の次は、足の指がいいかな。」
「ま、待ってちょうだい。」ガクガク
1歩1歩ジェネファー・ジェネシスに近づきながら、これからどうしようと思っているかを言葉にしていく。
「指が全部終わったら、耳?それとも鼻?」
「はぁ…はぁ…」ガクガク
「目は後からの方がいいよね。血がいっぱい出るから。」
「や、やめ……」ガクガク
「なら腕を落とすのが先かな?足でもいいけど。どっちがいい?」
「ヒィッ……たす……て…」ガクガクガクガク
ジェネファー・ジェネシスは恐怖で失禁し、震えている。
それでもリオの殺気は変わらず、さらに1歩1歩近づいていく。
「ジャッジメントドリーム」
リオは時空属性魔術のジャッジメントドリームをジェネファー・ジェネシスにかけた。
光が放たれ、ジェネファー・ジェネシスの中に吸い込まれていった。
今から死ぬまでずっと、ジオや他の人達にしてきたことを、寝る度にジェネファー・ジェネシスが夢の中で体感するように。
~ジャッジメントドリーム~
対象が眠っている間に術者が見せたい夢を見せ続けることができる。
悪い夢も良い夢も可能。
ビクッ「ヒィ……な、何をしたの?」
「そのうち分かるよ。」
ヒュっ トスッ ドサッ
ジェネファー・ジェネシスを気絶させ、シュバルツの方を振り向くと、ちょうど男を倒し、こちらに向かってきている所だった。
「リオ様!怪我は?」
「大丈夫だよ。」
「ぎゃぁぁあああああああ」
後ろで絶叫が上がる。
「な?なんだ??」
「ヒッヒィィ。」ガクガクガクガク
絶叫の声の主はジェネファー・ジェネシスだ。
「あぁ、気絶させたのに起きちゃった…。」
「……何したんだ?」
「寝ると悪夢を見るようにしたの。」
「え"?!」
「気絶させれないみたいだから、アレも拘束してー。」
「え、あぁ、わかった。」
シュバルツに部屋に転がっている人達も拘束してもらっていると、バタバタと階段を駆け上がって来る音が聞こえた。
来たのはペルカの領主 コンラッド・アシュフォード侯爵の騎士団と衛兵達だった。
外や1階、2階に気絶させていた人達も回収してくれたようだ。