129、生きててよかった
「「フエ?!」」
「クァーン……」
「え?フエだよね??」
「ヤバッ……なんでこんな……」
そこに居たのはジオの従魔のフエだった。
最後に見た元気な姿とは違い、身体中薄汚れ、やせ細ってガリガリになっている。
息も絶え絶えに、か細く鳴く姿が痛々しい。
リオはフエに近ずき、そっと抱きしめて回復魔術をかけた。
「フエ……。ヒール」
フエの体を白く優しい光が包む。
光は生まれてはフエの身体に吸い込まれてを繰り返す。
光が吸い込まれると徐々に浅く早かった呼吸は深く落ち着いたものに変わり、今にも抜け落ちそうだった毛はツヤを取り戻し、焦点があっていなかった目に光が戻る。
クァール特有の立派な髭もピンと根元が立ち上がった。
「フエ?大丈夫?」
「フエ、ジオは?」
「クァーン……」
声にも元気が戻ったようだ。
「とりあえず、ご飯だよね」
「あぁ」
「お肉でいいかな?あと水と……」
「クアーン!」ガツガツガツガツ
余程お腹が空いていたのだろう。
ひと鳴きするとリオが出した肉をガツガツと平らげていく。
「こんなにやせ細って……可哀想に……」
お肉をパクパク必死に食べるフエの背中をそっと撫でた。
「ジオも……こんなんなってんのかな?」
「え……!?」
ランちゃんの言葉にリオはサッと血の気が引き、顔を青くする。
「それか誰かに捕まってるとか?」
「やばいじゃん!……ジオ……。どうしよう……?」
「フエ、ジオの居場所分かるか?」
「クアーン!」
フエはこくりと頭を縦に振り、ひと鳴きする。
「フエが飯食い終わったらジオの所に案内してもらおう!」
「うん。……ちょっと衛兵さんにもついてきてもらおうかな?」
「あー、捕まってるとかならその方が良さそうだけど……フエどうなのか分かるか?」
「捕まってる?」
「クァーン」
鳴きながら首を横にふる。
「へ?」
「え?」
「捕まってるわけじゃないのに、フエあんな状態だったのか?」
「なんで??」
「とりあえず、案内してもらおう」
「うん……」
いったい何があったんだろう……?焦る気持ちを落ち着け、フエがご飯を食べ終わるのを待つ。
フエはオークのステーキを30枚ほど平らげると、お腹も落ち着いたようだ。
満腹になると、こっち。と言うように、ひと鳴きして後ろを振り返りながら進んでいく。
案内してくれたのは冒険者ギルドよりも東の方面の区画。風俗店が立ち並ぶ風俗街の方だった。
「この辺来たこと無かったわ……」
「そりゃ、リオは風俗とか用無いもんな……」
「うん」
まだ朝のこの時間は、風俗店から帰る客もいるようで、あちこちで店から出てくる男の人を見かける。
「うぉ!姉ちゃんめちゃくちゃいい女じゃねぇか!どこの店の子だ?」
「うっせぇ!黙れ!」
ランちゃんに話しかけた男に、ランちゃんが怒鳴る。
少し酔っていた様子だった男は、一瞬で目が覚めたようで、目を見開きビクリと身体を跳ねさせたあと、呆然と立ち尽くしていた。
「ランちゃん口悪ぅ……」
「いんだよ。ああいう絡んでくるやつは、バシッと言った方が!」
「え?逆ギレしてきたらどうするの?危ないよ?」
「大丈夫!」
「ならいいけど?」
路地を右に左に曲がりながら奥に奥にとフエが進むので、随分奥の方に来てしまった。
もうすぐ外壁の前という場所にある1件の店、その入口でフエは止まり、こちらを振り向いた。
「ここにジオがいんのか?」
「クァーン……」
「ちょっと中の様子を見てくるね」
「ちょ、リオ?俺も行く!」
「うん」
ガチャ
「今の時間は営業してないよ!」
ドアを開け、なかを覗くと、近くにいたお姉さんが声をかけてきた。
「こんにちは。弟を探してて……」
「ここにいるって聞いたんだけど……」
「え?……弟?」
「髪色と目の色がこんな感じなんですけど」
ランちゃんを指さして言う。
「……弟の名前は?」
「「ジオ」」
「はぁ、そうかい。こっちだよ」
お姉さんは少し悲しそうな顔でついてこいと言うので、お姉さんについて行く。
店内はなかなか広い。奥の方にある階段を上り、2階の1番奥の部屋に通された。
「入るよ」
ガチャ……
声をかけ、返事も待たずにお姉さんが中に入っていく。
お姉さんの後をついて中に入ると……。
「「ジオ……?」」
包帯でぐるぐる巻にされ、ベッドに寝ている人がいた。
頭も顔も身体にも包帯が巻かれ、あちこち血が滲んでいる。
手や足は長さが足りない……無いと言っても過言では無い程の長さだ。それも両手両足ともだ……
「ジオ……なの?」
「うちにいるシルバーの髪で青い目の男はこの男だけだよ」
「……ぉ?……ん?」
横たわる包帯で巻かれた人から掠れた声が微かに漏れた。
「ジオ……?」
「なんでこんな……ぅ……うぅ……」
リオとランはジオの近くに駆け寄った。あまりに凄惨な光景に涙が溢れて止まらない。
「騙されたみたいだよ……」
お姉さんが知っている限りだがと教えてくれた。
ペルカの街に着いてすぐくらいに、金持ちの女の人から専属護衛にならないかと話をもちかけられたそう。
給料もかなり良かったので、その話を受けたが、内容は護衛ではなく、その女の悪趣味で、鎖に繋がれムチや棒で叩かれたり、ナイフで傷付けられたり、針を突き刺されたりとかなり酷い事をされたそうだ。
反応が薄くなってくると、指を切り落とされたり、指からだんだん腕の方に。その女は、痛みに叫ぶ声を聞くのが好きなイカれた人物だったそうだ。
足も同じように……
どれくらいの期間捕まっていたのかは分からないが、ズタボロにされ、風俗街の片隅に捨てられていたのをここの店の経営者の男が拾ってくれ、手当してくれていたのだそう。
数日前まではまだ今よりは話ができていたそうだが……今では声も微かにしか……と、案内してくれたお姉さんも辛そうな表情だった。
「それで手も……足も……」
「リオ……大丈夫か?」
「うん……ジオを手当てしてくださってありがとうございます。グスッ」
「いいよ。……その状態だけど連れて帰るのか?」
「はい。あの、拾ってくださった方はいますか?」
「あぁ、呼んでくるね」
先にジオの傷を治そうかと、ジオの方に向き直るとすぐ、待たせたねとお姉さんが戻ってきた。
「君たちの弟だって?」
「あ、ジオを手当して下さりありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いや、こちらの事は、気にしなくていいよ」
「何かお礼出来ることはありますか?」
「大丈夫だよ。大したことはできなかったしな。連れて帰ってゆっくり……休ませてやってくれ」
「「はい。ありがとうございます」」
「ジオ動かすな」
「ぅぐっ……」
ランちゃんが抱き抱えると、痛そうに声を漏らす。
リオとランは何度もお礼を言い、ジオと、外で待ってくれていたフエを連れて店を離れた。
周りの様子を確認して、ゲートを開き中に入る。
入ると直ぐにリオが回復魔術をかけた。
「オプティマールヒール」
ジオは柔らかい光に包まれる。
傷口は強い光に包まれていた。強い光は無くなった手足だけでなく、背中やお腹、首周り顔や頭までも強く光っていた。
光がだんだん手や足の輪郭を作り、吸い込まれていく。
数分後、無くなった手足も、傷だらけだった身体も傷のない綺麗な状態に戻った。
包帯を外してみる。
頭にも顔にも巻かれていた包帯を外すと、元のジオの姿が現れた。かなりやせ細り、頬もコケてしまっているが、ジオだ。
「「ジオーーー!!!」」
「うぉ!手が……足も……ぅ……グスッ……ありがとう……っ……マジで死ぬかと思った……ぅぅ……」
「もぉ!ジオのバカー!!」
「うわ!いてっ、痛いって!」
「心臓止まるかと思ったじゃんー!あんな状態になってるなんて……うぇーん……」
「ジオ、ビビるわ!マジで……何してんだよ」
「や、わりぃわりぃ……もう死ぬんかなと思ってたとこだったけ……本当に助かったわ……」
ジオは涙と鼻水を垂らしながら苦笑いしている。
「クァーン……」
「フエも悪かったな……こんなに痩せて……。ぅう……ごめん……」
数分後、ジオとリオがやっと泣き止むと、家の方に案内する。
ジオよりもリオの方が泣いていた。目が真っ赤になり、少し腫れているようだ。
リオが大泣きしていたせいで、亜空間内にいた人達はみんな集まって来ていた。
弟が見つかったこと、酷い状態だったこと等をリオが泣いている間にランちゃんがみんなに説明してくれていた。
とりあえずご飯を食べてお風呂に入ると、飯うまっともりもり食べ、風呂やば温泉じゃん!とフエと2人ではしゃいでいたようだ。
お風呂から出てくると、ベッドに案内し、休んでもらう。
フエも一緒にだ。
部屋に着くと、ゼンに貰った骸骨を渡した。
使い方を説明して、何かあったら鳴らしてと、全員の連絡先を登録し歯の部分に名前を書き込んでいく。
赤い屋根の家の食堂には誰かしらいるから、そこに行ってくれてもいいと伝え、リオとランは部屋を離れた。
食堂に一旦戻り、温かいお茶を飲んで少し落ち着いた。
「リオ、大丈夫か?」
「うん。ごめん……ありがとう」
「いや、凄い状態だったからな……はぁ……」
「「本当に、生きてて良かった……」」
ジオ:……あー…生きとる……
手も……指も……ちゃんと動く……
足も……多少ふらつくけど、歩けるわ……
そうか、助かったんじゃね……
そうか……生きとるんって、こんなに嬉しいことだったんじゃね……
今まで何となく過ごしとる事も多かった……生きとるだけで、こんなに嬉しいなんて知らんかったな……
いつも読んでくださりありがとうございます!