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第4話



 時間と共にゾンビのようだったイエリスの肉体は少しずつ修復され、生前と同じ状態にまで戻っていました。

 事実蘇生の力によって完全に蘇ったイエリスは生きている人間となんら変わりはありません。


 イエリスは私に跪いて言いました。


「マリシア王女殿下、まだ皇帝ゴルミリスが残っています。後は我々に任せてどこか安全な場所に身を隠していて下さい」


 私は首を横に振って答えました。


「あなたの傍よりも安全なところなんて思いつかないわ」


 イエリスは深く溜息をつきながら言いました。


「あなたという人は昔から一度言い出したら聞かないのですからね……分かりました、絶対に私の後ろから離れないで下さいよ」


「ええ。お願いねイエリス。それじゃあ行きましょう」


「はっ」



 カストラ殿下の部屋から飛び出して廊下を進み中央の広間に出るとシュトラー王国の兵士たちと皇城の衛兵たちが激しい戦闘を繰り広げられていました。


 何度切り伏せても即座に復活して何事もなかったように向かってくるシュトラー王国の兵士たちの前に次第に皇城の衛兵たちは押され始めました。


 その隙をついてイエリスと私は国王の寝所へ向かって走ります。


「侵入者を通すな!」


「邪魔だ、退け!」


「ぐああっ!」


 私たちの前に立ち塞がった衛兵たちは瞬く間にイエリスに斬り捨てられました。

 カストラ殿下はシュトラー王国の兵士たちの事を弱兵だと嘲笑いましたが私はそうは思いません。

 あの時帝国との戦争に敗れたのはただ数の暴力に負けただけです。


 更に先に進むと一際豪華な装飾が施された扉の前に辿り着きました。


 イエリスがその扉を蹴破り中に躍り込むと果たして側近の騎士たちに守られた皇帝ゴルミリスの姿がありました。

 ただひとつ想定外だったのが、その中に騎士たちに捕縛されたフレンの姿もあった事です。

 皇帝ゴルミリスはフレンに剣先を突き付けて言いました。


「お前たちよくも余を謀りおったな。おっと動くでないぞ。少しでも変な動きをしてみるがいい。この女の命はないと思え」


 掴まった時にそうとう痛めつけられたのでしょう。

 身体中を痣あだらけにしてぐったりとしているフレンの姿を見て堪らずイエリスが怒りを露わにしながら言いました。


「卑怯者め、今すぐ妹を離せ! 仮にも皇帝ともあろう者が人質を取るなど後世までの汚名を残す事になるぞ」


「黙れ! 今すぐ武器を捨てて投降しろ。さもなくばこの女がどうなっても知らぬぞ」


 そう言って皇帝ゴルミリスがフレンの首筋に剣先を当てたその時でした。

 フレンは息も絶え絶えに声を絞り出して言いました。


「あなた……馬鹿なんですか?」


「な、何だと小娘!? 余に向かって……」


「私に人質としての価値がある訳ないでしょう」


 フレンは付けられた剣先に向けて自らの首を押しつけました。


「な、何をする!?」


 その刃はフレンの柔肌を易々と切り裂き、傷口から噴き出した鮮血が皇帝ゴルミリスの身体を赤く染め上げました。


「ひ、ひぃっ……この女なんて事を……」


 もうフレンの身体はピクリとも動きません。


「おのれ、貴様たちだけは許さん!」


 次の瞬間怒りに我を忘れたイエリスが皇帝ゴルミリスの下に突き進み、近衛騎士たちを次々と斬り捨てていきました。

 ひとり残った皇帝ゴルミリスはその恐ろしさに腰を抜かして地面にへたりこみました。


「ひい……違うんだ、余はこの娘を殺すつもりなどなかった……ちょっと脅すつもりだったのにこやつが勝手に死んだんだ……余は悪くない……どうか余の命だけは助けてくれ……」


 顔をくしゃくしゃにして泣き喚きながら見苦しく命乞いをするゴルミリスの姿を見てイエリスは呆れた顔で私を見ました。


「……などと申しておりますがどうなさいますかマリシア様?」


「そうですねえ。ゴルミリス陛下、本当にフレンを殺す気は無かったんですか?」


「本当だとも。女神に誓ってもいい。余は決してこの娘を死なせるつもりはなかったのだ」


「そうね。じゃあ今回のは事故という事で見逃してあげるわ」


「ほ、本当か……! 感謝する、この通りだ。お主が話の分かる人間で良かったわい」


「……でもね、五年前にフレンを殺したのは事故ではないでしょう?」


「は? 何の事だ?」


「あなたが五年前に私の国に送り込んだ兵士たちによってフレンは一度死んでいるのです。その恨みは晴らさせて頂きます」


 私が蘇生の力を放出すると床に横たわっていたフレンの屍がむくりと起き上がりました。

 その首でパックリと開いていた傷口は跡も残らないほど綺麗に塞がっています。


「ひ、ひいっ」


 恐ろしさの余り今にも失神しそうなゴルミリスを横目に、フレンは先程自分の首を切り裂いたゴルミリスの剣を拾い上げて言いました。


「マリシア様、宜しいでしょうか?」


「ええ、気が済むようになさい。シュトラー王国王女マリシアの名において許可します」


「有難うございますマリシア様。それでは……」


「ま……待て……話せば分かる……ぎゃあっ!」


 フレンはあの日殺された多くの人々の怨念が乗り移ったかの様に無言で何度も何度もゴルミリスの身体を突き刺しました。


 やがて後に残ったのは穴だらけになって動かなくなった真っ赤な肉の塊のみ。


 夜が明ける頃には王国の兵士や首塚から蘇らせた他国の将兵たちは帝都から全ての帝国兵を駆逐していました。


 皇城の陥落を見届けた私たちは蘇った兵士たちと共に勝ち鬨を上げ、東の地平線から昇ってきた太陽を背にしながらかつてシュトラー王国と呼ばれた土地へと引き上げていきました。


 首塚から蘇らせた人たちは私にお礼を述べるとある者は故郷に帰り、またある者は私たちに恩返しをしたいと王国への同行を願い出ましたのでそれを許しました。


 皇帝とその世継ぎを失った帝国は大混乱の末に皇帝の身内を名乗る野心家たちが次々と現れて国が分裂し群雄割拠の時代に突入していきましたがもはや私たちにはどうでもいい話なので割愛します。




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