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第2話



 当然ながら皇帝ゴルミリスは私たちの事を警戒しています。

 左右に並んでいる騎士たちが緊張した面持ちでいつでも剣を抜いて飛びかかれるように腰に差した剣の柄に手を添えているのが見えます。


 少しでも判断を誤れば全てが水泡に帰します。

 私は彼らの警戒心を解かせる為に大袈裟なくらい(へりくだ)りながら答えました。


「皇帝陛下、シュトラー王国は人口も少なく技術力も乏しい為に復興に五年もの歳月を要してしまいご挨拶に伺うのが遅くなりました事どうかご容赦下さい。本日は帝国への服従の証として我らシュトラー王家に代々伝わる珍しい財宝の数々をお持ちしました」


 私の合図でフレンが台車に被せられた布を捲ると金銀財宝と美術品の数々が姿を現しました。


「ほほう、辺境の田舎国家にしては悪くない」


 さすがに王宮の地下に隠されていた宝物庫の中から厳選して持ち出してきた財宝だけあって掴みは悪くないようです。

 特に稀代の名工が造ったという女神ネクリア様を模った美しい彫像は建国以来国宝として大切に保管されてきた物です。

 本来ならば他国に献上する事などありえない一品ですが目的を果たす為に出し惜しみをするという選択肢はありませんでした。


 しかし本命は別にあります。

 私は跪きながら話を続けました。


「それから我が国の大地は女神ネクリア様の祝福により豊穣の力が宿っております。外の馬車に詰め込んであります我が国の土を帝国の田畑に混ぜて作物を育てれば秋には五穀豊穣が約束されましょう」


「ほほう、それはまことか」


「はい、それでは実際に女神ネクリア様の奇跡をご覧にいれましょう」


 私は台車の中からひとつの箱を取り出して中に入っていた小さな植木鉢を取り出しました。

 植木鉢の中にはシュトラー王国の土だけが敷かれています。

 私は献上品の中から小さな黄金の欠片を取り出してその土の中に埋めてみせました。

 次の瞬間植木鉢から眩い閃光が放たれ周囲を照らしました。


「おお、これは一体……」


「美しい……」


 皇帝ゴルミリスも含めて謁見の間にいる全ての帝国人から歓声が湧きました。


 瞬く間にその植木鉢から白銀の小さな木が生えてきて金色に輝く実を生らします。


 私は微笑を浮かべながら答えました。


「これが豊穣の力が宿った我が国の土の効力です。作物の種を埋めれば豊かに稔り、黄金を埋めればその何倍もの量の黄金の実が生る白銀の樹木に変貌致します。どうぞお収め下さい」


 土地は国家の根幹です。

 自国の土を差し出す行為は国家にとっては自らの血肉を差し出す事と同意義であり、その相手への完全なる服従を意味していました。

 皇帝ゴルミリスは満足そうに髭を擦りながら言いました。


「シュトラー王国の我が国に対する忠誠心覚えておこう。これを持って先の戦争の賠償とし、その戦争責任を不問とする。大義であった」


「有り難き幸せにございます。それでは失礼致します」


「待て」


 皇帝ゴルミリスに一礼をして退出しようとした私を、皇帝の隣に控えていたひとりの青年が呼び止めました。


「マリシアといったか。なかなか俺好みの女じゃないか。それに後ろの侍女も悪くない。どうだ、お前たち俺の女にならないか? 側室として可愛がってやるぞ」


「え……?」


 仮にも一国の王女である私に対しての無礼な物言いに普段は温厚なつもりの私も思わず頭に血が昇りましたが皇帝陛下の手前問題を起こす訳には参りません。


 私はあまりの横暴さに今にも抗議の言葉を口に出そうとしているフレンに目配せをして制しながら尋ねました。


「失礼ですがどちらさまでございましょう?」


 私の問いに皇帝陛下は苦笑いをしながら答えました。


「こやつは我が息子カストラだ。まったく誰に似たのか分からぬが美女を見ると見境がなくてな。どうじゃマリシアとやら。そなたがカストラの側室として後宮に入るのならばシュトラー王家を皇族の一員として我が帝国の保護下に入れて何かと厚遇してやろうではないか。そなた達にとって悪い話ではあるまい」


「は、はい……」


 あまりにも無礼な物言いに内心腸が煮え繰り返る思いでしたが私には王女としてシュトラー王国の臣民たちの為に果たすべき役割があります。

 ここで断って心象を悪くしてしまっては元も子もありません。


「承知致しました」


 私は全てはシュトラー王国の民の為と割り切ってこの屈辱的な要望を受け入れました。

 フレンも私に倣ってカストラ殿下に跪きます。


 途端にカストラ殿下は欲しかった玩具を買って貰った子供のように無邪気な笑みを浮かべました。


「話が早くて助かるよ」


「それでは皇帝陛下、この黄金の実が生る白銀の樹木は我が夫となりましたカストラ殿下に献上致したいと思いますが宜しいでしょうか」


「うむ。それが筋というものであろう」


 皇帝ゴルミリスの合図で女官が植木鉢を受け取りカストラ殿下の部屋へと運んでいきました。


 それを見届けた後にカストラ殿下は上機嫌で言いました。


「よし、今すぐ後宮に案内してやるからついてこい」





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