第五話 アンモニアの作り方
アンモニアの作り方
①人間や哺乳類の尿を集める。人間の尿には2%ほどの尿素が含まれている。これを煮詰め濃度を上げる。この時、すごく臭い。煮詰まってくると液が真っ黒になってくる。弱火で常にかき混ぜて無いと泡があふれてくるので気を付ける事。大体10分の1に煮詰まったら水酸化カルシウム(4話)・または水酸化ナトリウム(3話)を投入する。そしてこれを蒸留する。アンモニアは冷やすほど吸収効率がいいのでアンモニア水がたまる容器は氷水で冷やすといい。もしくは冬にやる。蒸留装置はガラスか陶器がいい。最初は5%ぐらいのアンモニア水をいくらか作り、密封して貯めて置き、集まってきたら再び蒸留して濃度を上げるほうがいい。ちなみに尿に尿素が含まれるのは人間が肉を食ったあとタンパク質を分解する時にアンモニアができるので無害な尿素にしてから尿として排出している。尿を採取する時には襲ってきたオークの肉などをよく食べる事をお勧めする。
②サメやエイは浮力を維持する為に体内の筋肉などに2%の尿素を持っている。なのでこれを潰して煮詰めて水酸化カルシウムか水酸化ナトリウムを入れ蒸留する。
③皮をはいで肉と骨になった牛の死骸を土に埋める。腐った頃に掘り出して大鍋で煮て蒸留する。
タンパク質を地中のバクテリアに分解させアンモニアを作る方法。牛の代わりに大量におしっこを貯めて土を入れてもアンモニアは発生する。トイレのつんとした臭いは尿がバクテリアによって分解されアンモニアになったからだ。
牛の死体を腐らせる方法は日本初の写真家・上野彦馬が薬品としてのアンモニアを得る為に使ったやり方で、おそらくオランダ人に教えてもらったやり方だろう。まだ肉食が普通ではなかった時代だし化学のかの字も無かった為に周囲からは理解されず、気が狂ったと思われたらしい。だろうな。俺もよく思われる。
④小麦を石うすでひき、小麦粉を用意する。それに水を含ませこねる。それを流水でもむ。するとでんぷんが洗い流され白いガムのようなグルテンになる。このグルテンを細かくちぎって塩酸(別項目予定)に入れ少し温め根気よく混ぜるとグルタミン酸と塩化アンモニウムができるので結晶化して高濃度アルコールで洗うと塩化アンモニウムが少しずつアルコールにとけてゆきグルタミン酸が残る。得られた結晶に水酸化ナトリウムを加えるとグルタミン酸ナトリウム、つまり味の素になる。これは初期のグルタミン酸ナトリウムの作り方(現在は行われていない)だけど、副産物として塩化アンモニウムが得られる。塩化アンモニウムと水酸化ナトリウムを混ぜると塩化ナトリウムつまり食塩、とアンモニアが発生する。まあでも採取できるのは微量。
現代
ハーバーボッシュ法が今も主流。
これは水素と空気中の窒素を酸化鉄(鉄鉱石)などの触媒に触れさせて高圧にして高温に加熱する。個人が実験するのは難しい。当時の化学者も実験中に失敗したり死んだりしてる。高圧というのが厄介だし、水素は扱いが難しい。酸素が入れば爆発するし。しかしハーバーボッシュ法が無ければ現在の地球では半分近くの人間が飢えて死ぬともいう。小麦やコメを栽培するのにつかわれる化学肥料の元になってるから、アンモニアが化学的に合成できない世界では今のように数十億の人口は維持できないし、大量の穀物も作れない。今の地球には70億人ほどの人がいるけど、ハーバーボッシュ法が無い異世界では(もし地球と同じ環境なら)どんなに医療が発達してもせいぜい人口は20億人以下だろう。
家庭でアンモニアが欲しいな、なんてよく思うよね?そんな時はホームセンターで園芸コーナーの硫安というのを買ってくる。硫安は硫酸アンモニウムだ。これに同じく園芸コーナーの牡蠣殻石灰を入れる、消石灰つまり水酸化カルシウムだ。水を耐熱ガラス容器に入れ温めてお湯にして硫酸アンモニウムを溶かし、そこに水酸化カルシウムを入れるとアンモニアと硫酸カルシウムが発生するのでこれを蒸留する。間違っても周囲に人がいるところでやらないように。アンモニアも濃度が上がってくると毒です。副産物の硫酸カルシウムはいわゆる石膏です。
日本初の人工的な冷凍機、つまり氷を作る装置にもアンモニアが使われています。福沢諭吉が風邪を引いたときに熱さましの為にその人工的な氷が使用されたと聞きます。興味のある人はネットで「アンモニア吸収式冷凍機」とか検索するといいかも。
追記
アルミを溶かすと空気中の酸素や窒素がアルミと結合して表面に膜を張る。酸化アルミや窒化アルミになる。アルミはリサイクルに向いてる金属だけど、溶かして再生する時には3%が窒化アルミニウムとして失われている。いわゆるスラグ(カス)になる。窒化アルミは水に漬けるとアンモニアを放出して水酸化アルミになる。なので炭火を起こし風を送り高温にしてステンレスの容器にでもアルミ缶などを入れて溶かし、鉄の棒で空気と混ぜながらわざと窒化アルミをたくさん作って、それを冷ましてから水に入れるとアンモニア水になる。現代日本で空気からアンモニアを作りたいんだ、という人にはアルミを使った実験がおすすめ。尚、気化したアルミは体に悪いので吸わないようにする事。この場合、水酸化アルミを金属アルミに戻すには大量の電気で電気分解(精錬)しないといけないので、工業的には現実的ではない方法です。
スチールウールを使ったハーバーボッシュ法の簡易実験もできるがやはりちょっと危ない実験になりそうなのでここには書かない。試薬でギリギリアンモニアの存在が判る程度の実験であればYouTubeに出ている。 https://www.youtube.com/watch?v=6isPa3gilQw