球技大会の日
この物語に登場する世界・人物はすべてフィクションです
ぼちぼち書いていこうと思いますのでよろしくお願いいたします
キミは「幻想」と呼ばれる世界を知っているだろうか。
孤独な概念に囚われた人々が創り出す様々な色をした世界を。
***
「いやだァァァァァァァァァ!!!」
朝から耳を劈くような痛烈な叫び声をあげるのは宮本英玲奈。その傍らにいる橋詰 魁人は、叫び声をあげるのをあたかも予測していたかのように両手で耳を塞いでいた。いや、正確には完璧に予測できていたのだ。
「お前さ、なんで勉強もできて部活も完璧なくせにそこまでして学校に行くのは嫌がるわけ?」
呆れ顔で両手を耳から外しながら青年は言う。「知らんよそんなの」とでも言いたげに彼女は剥がされた布団をもう一度被った。
「おいバカ今日はお菓子あげねーぞ」
「申し訳ございませんでした。」
どうやら彼女の学校に行く目的は他の何でもなくカイトからもらうお菓子らしい。懺悔の言葉と共にエレナは起き上がった。
エレナの支度が終わるまで青年はエレナの家のダイニングでゆっくりお茶をいただいている。「いつも起こしてくれてありがとうねえ」とエレナの母親がお茶を出してくれるのだ。
「お構いなく」
そういって爽やかスマイルを零す青年は、エレナの家の隣の家に住む、所謂「幼馴染」というやつだ。こうしていつもの如く朝に特別弱い幼馴染を起こし、無理矢理学校へ引き摺ってでも連れていく。
エレナの母、宮本 霞は日本人なら誰もが知る存在である。なんと言おうと、彼女は日本を代表する実力派の大女優である。もちろん、言葉で言い表せないような美人だ。カイトの母親と同じ年齢であるはずなので、もう30代後半であろうにも関わらず年齢を感じさせないような若々しさ、いや、みずみずしさと表現した方が正しいだろう。まるでこの世に存在しない月の女神ような人だ。
もちろん、娘であるエレナもばっちりその遺伝子を引き継いでいる。サラサラと伸びた触り心地の良さそうな黒髪に、ぱっちりと開くまるで人形のような大きな目、くるんとカールした長いまつ毛に整った鼻立ち、ふっくらとした唇と文句をつける隙すら与えない。更にスタイルも良く、バストもヒップもふくよかで正に完璧女子高生と言っても過言ではない女性に育っていた。
そんな彼女の「ほぼ世話係」であるカイトであるが、苦難が耐えない。定期的に喰らう嫌味や、彼女との仲を取り持って欲しい人の頼みなど、昔は交わすのに一苦労した。今となっては、すっかりこれらも雑務のように淡々とこなせるようになっていた。
昔から長い時間を共にした幼馴染の2人だが、外見は立派な大人の女性になりつつあるエレナのことを高校生となったカイトは異性として見なくもなかったが、あまりにも共有している時間が長いため、どちらかといえば恋愛対象というより家族としてエレナを見ている割合がほとんどを占めているかもしれない。だが、大人になるに連れてそんな平穏な子供の時のままの「当たり前」もいつかそうではなくなるのだなというのも密かに感じていた。
「かいと〜支度終わったよ〜」
カイトが声の聞こえた方へ振り返ると身支度を終え制服に身を包んだエレナの姿があった。
「……今日ホントに学校行かなきゃなんない?」
エレナはカイトの顔色を覗き込むようにして言った。
「甘えんなばーか。今日球技大会だろ」
今日は2人が高校に入ってから初めての球技大会だった。2人は打ち合わせしてわざと一緒の高校に入ったわけじゃない。エレナは勉強の成績が非常に良かったため、学校からの推薦があり現在の高校に合格した。一方カイトは、勉強はエレナほどできるわけではないが、サッカーによるスポーツ推薦で合格し、たまたまエレナと同じ高校に入学が決まったのだ。
「俺らのクラスにはどう考えてもお前の戦力が必要だろ。」
しかも入学早々同じクラスと来たもんだから、腐れ縁にも程があるわけである。
エレナは小学の頃から続けているバスケ部に入部しているが、基本的な身体能力が非常に高いため、どんなスポーツもそつなくこなしてしまう。実際に中学の時もスポーツ推薦の申し出がいくつか来ていたほどである。2人の高校は県立高校で、サッカー部以外特に強いわけでもなく、部活動に熱心な学生が比較的少ない学校である。なので、今回の球技大会でも、エレナは3つあるバスケ、バレー、ドッジボールのうちバスケに正式な選手登録がなされているが、バレーとドッジボールにも補欠として登録がされているのである。
「そんな期待されても答えられる気がしないんだけどな〜」
エレナは渋い顔をしながら母親からお弁当を受け取り、家を後にした。
「お母さん、行ってきます!!!」