第十七話 『三匹のオークと狼の城』
『 三匹のオークと狼の城 』
『魔獣詩歌断片集』 曰く──、
大陸西部の戦乱の時代、ある小国の王城をおそるべき三匹のオークが襲った。
朝早く、大きな影が三つ。
どこかからかおそろしい速さで飛んで来ると、城郭都市の壁をやすやすとこえ、市街地の家々の屋根をかすめて王城の奥へ飛び込んだ。
降り立ったのは園庭…… 転げまわる着地、墜落だったともいう。
押し入ったのはオークの上位種だった。
赤毛の獣の頭、肉厚のからだ。三匹ともに古代の飛行魔術具を身につけていた。城に降り立つと、それぞれの得意で城兵相手に暴れまわった。
赤毛の一匹はオーク・シャーマン。
不思議な模様のマントをまとい、まわりへ見えない大型ハンマーのような暴風を放った。
やり方は風変わりで、杖は持たず。マントの内側に小さな麦わら人形を何十と吊り下げ、人形を握って念じると、わらクズを散らして弾けて魔法が発動した。
もう一匹の赤毛のオークは、剛力無双の巨漢だ。
長い丸太を一本、長槍のようにかかえて城に乗り込み、たくましい腕で軽々と振りまわして、兵士を木っ端のように薙ぎ払った。
三匹目のオークは、石斧使いの戦士だった。
もっとも若く、もっとも巧みな身のこなしで、煉瓦色の大きな斧刃は鋭く素早く。手練れの騎士の剣もさばき、盾を砕いてみせた。
この国の王は「狼」の異名をもつ武勇のものだったが、このとき他国へ親善訪問中だった。
オークたちは王の留守を襲い、不意をついて、玉座のある城館にまで踏み込んだが攻勢はそこまで。城の武人たちは魔獣狩りの玄人ぞろい。一時の混乱を脱すると、たちまちオークたちを押し返し、城下から集まる騎士や兵士やハンターたちも加勢して園庭に追いつめた。
三匹のオークは、最期は満身創痍で飛び立ち、西空にすがたを消した。
**
狼王は帰国後、赤毛のオークを捜し出そうとした。懸賞金すらかけた。
三匹はどこから来たのか。空を飛ぶ魔術具をどこで手に入れたのか。そもそも、なんのために城に殴り込んで来たのか ── 行方を知る手がかりはみつからず、結局、すべて謎となった。
狼王は事件の後、戦場で精彩を欠くようになり。わずか五年後、呆気なその王国は滅んだ。
「紅の豚」あるいは「三匹の豚人」。
くだんの小王国のあった土地の言い回しで、突然、思いもよらない災難に襲われることを指す。
今も現地に残る、事件のわずかな痕跡である。
『三匹の子豚』のまじゅう童話化です。
攻守は逆で、留守の家(城)を三匹で襲っていますが。
空を飛ばしたのは、飛べない豚はただの豚だから。
(意味不明)
☆ 例えばこんな裏設定が?
狼王はもともと小さな傭兵団の長でしたが、オーク大侵攻のおり、オーク王種が樹海から持ち出した古代の「とある遺物(飛行デバイスではない)」を奪います。一代で国を興したのは秘密裏にその力をつかったから。
一方、三匹のオークはオーク王の遺児(三兄弟)。
狼王は外遊中、大事な「古代の遺物」を城の庭園の地下に隠し、裏仕事の部下に監視までさせますが、三匹は人目を無視して城に押し入り、力づくで強奪してしまいました。
(……力ある遺物がなんなのか未設定)
さらに事件の背後には「ナゾの女」がいて。古代の遺物の濫用を阻止するため、三匹の王城襲撃に手を貸します。狼王の外交日程、城の見取図を手に入れる情報支援、飛行の魔術具の調達と調整です………
(小説「蜘蛛の意吐」の、とあるキャラクターの過去につながります)
**
もちろん、先の裏設定は「ひとつの例」です。
本文をベースにして、まったく違う三匹のオークの素性、襲撃の動機、狼王と王城の秘密も考えられます
**
[さらに蛇足]
…… 歴史の闇を知ってか知らずか。
『三匹の豚と、狼王の城』なる童話が、後日、世に出た。
筆者は不明。赤毛の三匹の豚が、邪悪な狼が平和な森につくった城を、麦わらと丸太とレンガを武器にして攻め落とす話。
この童話の狼王は、城を無くしたあと、野山をさまよう痩せ狼にもどってしまうのです。
NOMARさまより。城を無くした王の後日談を頂戴しました。
( ̄▽ ̄;) そして、後の狼王。
その後、狼王は酒に溺れるようになる。一方で光の神々教会に通い熱心に祈るようにも。
『禁忌に触れる者、破滅を招く、という光の神の教えは真実だった。今もあのときの声が耳の奥に残って消えない』
晩年、狼王が残したのは光の神の使徒を怖れながら讃える言葉だった。
… 力づくで奪取する動きとは別に。
狼王の心に囁きかけて、遺産を手放すように仕向ける「光の神(自称?)」が暗躍していた! その正体と真意は⁉︎