第十四話『 死者たちの獲物 』
死者たちの獲物
『魔獣詩歌断片集』 曰く──
大陸西部の開拓時代、グィドーとよばれる大山のまわりのことだ。不気味な『毛無し』の大猪が、長年、土地の人々を脅かしていた。
猪魔獣の大きさは牡牛さながら。無毛の赤肌にぶあつい筋肉で、太い牙を振り立てた突進は岩をも砕いた。
しかも『毛無し』は、何十年たってもすがたが変わらず、老いることを知らないかのよう。力は衰えず獰猛さが増すばかりだった。
さらに赤肌の狂猪は、ふだん魔獣深森の樹海の奥にいたが、なぜかグィドー山に時折姿をみせた。まわりの人里はその度、散々荒らされた。
土地のハンターは赤肌の狂猪を討伐しようと苦心したが、なかなか上手く行かず、ある時は力ずくで包囲を破られ、またある時は、山中でやり過ごされて手薄なふもとを荒らされた。
ある年のこと。赤肌の狂猪は不意打ちで、山中の宿営地で七人もの腕利きのハンターを殺した。
さらにその十日後の夜。
宿営地の生き残りを追うようにして、狂猪はふもとの村の防柵の外にあらわれた。後ろには ─── グィドー山で仮埋葬された七人のハンターの亡骸が並んでいた。
屍はアンデッドと化していた。
呪詛のよどみが葬った場所にあったのだろうか?
死んだハンターの息子や娘や弟子。さらに、近隣の応援に来ていたハンターは武器をとり、狂猪と狂猪のしもべに成り下がったかに見えるアンデッドたちを迎え撃った。
だが、どうも様子が違った。
狂猪はゾンビに追われていた。
死んだハンターたちは「狩り」をしていた。
村を囲む高い柵の際で、追うもの追われるものは一塊になり、赤肌の巨躯は横倒しに。
アンデッドの怪力や執拗さを、魔獣は知らなかったのか ── どこか反応は鈍く、動きはぎこちなかく、叫びには怯えがあった。
最期は相討ち。
生者たちはかれらを取り囲んでいたが、手を出しかね。赤肌の狂猪は死肉と黒血にまみれて絶息。ハンターのアンデッドたちも、ことごとく首や手足がちぎれ、踏みにじられた無残な姿で動きを止めた。
巨大な猪を調べてみると、鋭い骨のカケラを眼窩や鼻孔や耳孔に突き込まれ。大きな口は、腐肉や骨片であふれるほど …… よってたかって、アンデッドたちに刺され、ねじ込まれたのだ。
だが、窒息死ではなかった。
魔獣の心臓は、身体の奥で破裂していた。
おそらくは、限界を超えた恐怖のせいで。
***
死せるハンターたちは、一夜の出来事が知られると多くの人に「英雄」ともてはやされた。
故郷の村を救うため、アンデッドになってまで駆けつけ、戦って散ったのだと。
もっとも、立ち会った生者は必ず否定した。
── あれは墓穴から這い出た狩人の妄執。かりそめの命を、大物狩りに使い切ったのだと。七人のアンデッドはだれ一人、家族や旧友やハンター仲間に注意をはらわず逝ったとされる。
◎ シナリオソース
ここでは、赤肌の狂猪・ハンター(生者)・ゾンビの三者の戦いはいたずらに長引きます。
『主人公たち(旅のハンターチーム)』は、村人から協力を依頼されて山中の戦いに加わりますが、やがて、グィドー山の地下に古代遺跡があり『ナゾのパワーをおびたモノリス』が隠されていることが判明。
毛無の不老の狂猪は、この遺跡に落ちてモノリスの影響を受けたミュータントで、山に周期的にあらわれた理由もパワーの補充。
グィドー山に埋葬されたハンターたちが、異様に活動的なアンデッドに転化したのも、偶然、亡骸が同じパワーにさらされたからでした。
山奥で追いつ追われつして。
ミュータント・イノシシ魔獣、ハイパワー・ゾンビ、そして、主人公たちの加わった討伐隊の三者は、最後に事故に遭遇し、地下の危険な遺跡迷宮に落ちてしまいます。