01.あの、よろしいかしら?
勢いのみで書ききりました。
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「あの・・・陛下、聖女様の召喚に、せ、成功致しました」
カルサイト王国の王城の一室で、国王サードニクスが魔法師団団長のショールから報告を受けた。
「おお、成功したか。して、聖女は今どこにおる?」
「あ、はい、王宮の孔雀の間に・・・」
孔雀の間とは、他国の王族等身分の高い賓客が来た際に泊まってもらう部屋で、数ある客間の中でも一番高級な部屋だ。
「なんだと?なぜ孔雀の間なんて高級な部屋を与えたのだ!?聖女と言うても今後は我が国に仕える臣下に過ぎぬのだぞ!」
「そ、それが〜その〜・・・」
ここでようやく、ショールの困惑顔にサードニクスが気付いた。
「なんだ、召喚した聖女に何か問題でもあったのか?成功という事は聖女としての力は確認できたということでは無いのか?」
「あ、はい、力の方はそれはもう、素晴らしいの一言なのですが・・・」
「・・・なのですが?」
「その、ですね、聖女様の・・・その・・・」
「はっきり言わんか!もうよい、何が問題なのか我が直接見てくれるわ!」
「ヒッ!申し訳ありません・・・」
国王サードニクスは苛々しながら孔雀の間へと向かい、その後ろには青ざめたショールが小走りで付き従った。
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バン!とノックもなく孔雀の間の分厚い扉が開かれた。
「へ、陛下!お声掛けも無しに入られるのはっ」
ショールの言葉を無視して開かれた扉の向こうには、鏡台に備え付けられた椅子に優雅に座る後ろ姿の女性と、何人かの侍女が居た。
「お主が聖女か、こちらを見て名を名乗れ」
座ったままゆっくりと振り返った女性は、銀糸のような艶やかで真っ直ぐな髪に、アメジストをそのままはめ込んだかの様な瞳を持った絶世の美女だった。
「へ、陛下!お名前はベリル様と仰るそうです」
しばらくベリルの美貌に惚けていたサードニクスは、ショールの言葉で我に返ると、数歩、ベリルに歩を進めた。
「そうか、お主はベリルと申すのだな。侍女にドレスに着替えさせて貰ったのか?ちょうどいいサイズが合ってよかったな、うむ、アクセサリーもよく似合っておるではないか」
「へ、陛下、ベリル様は召喚した時からこのお召し物です・・・というか、身に付けられているもの全てベリル様の物です・・・」
サードニクスはショールの言葉にぎょっとし、改めて目の前の美女のドレスやらイヤリングやらネックレスやら指輪やらを、上から下へ、右から左へと舐めるように確認した。
やがてどこをどう見ても『ザ・高級品!』を纏うベリルから目を逸らし、ショールに小声で問いかける。
「・・・ショール、これは平民ではないのではないか?もしくはあれか、劇団の衣装とか・・・いや、あれは小道具にしては高級過ぎるか?」
「はい・・・陛下、その・・・」
記録に残る過去に召喚した聖女は全員、異世界では平民だった。
その為、まさか貴族の令嬢っぽいのが召喚されるなど、露ほども考えてなかったのだ。
「あの、よろしいかしら?」
ふいに、歌うような美声がサードニクスの背中越しに聞こえ、ベリルだと気付いた2人が慌てて彼女の方に向き直った。
「な、なんだろうか?」
「失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいかしら?わたくしショール様のお名前しかお伺いしておりませんの」
ベリルは「名前聞く前に名乗れやゴラ」という副音声が聞こえそうな、美しくも低い、さらに威厳に満ちた声でサードニクスに尋ねた。
「わっ、わ、我はサードニクス。カルサイト王国の国王、サードニクス・カルサイトである!」
「あら、国王陛下でしたの。わたくしはベリル・ターフェアライト。こことは違う異世界の、ターフェアライト王国という王国の王妃ですわ」
ピシッと部屋の空気が凍った。
貴族令嬢どころか、まさかの王妃。
サードニクスはようやくショールが言い淀んでいた訳がわかり、なぜ先に言わないのだと、目で射殺す勢いでショールを睨みつけた。
「どこぞの高位貴族のご令嬢かとは察しておりましたが、まさか王妃様とは知らず・・・!申し訳ありません申し訳ありません・・・」
サードニクスは土下座しそうな勢いで申し訳ありませんを繰り返すショールを一瞥し、改めてベリルに向き直った。
しかし向き直ったものの、何から話せばいいのかさっぱりわからない。
「ベリル、ええと、だな」
「あの、よろしいかしら?」
先程とは打って変わって、声だけで部屋を氷漬けにしそうな、怒りを隠しもしない声でベリルが遮った。
「はひ!」
「わたくし、立場は王妃と申し上げたはずですが。何故に陛下に呼び捨てにされなければなりませんの?それとも、ここはわたくしの仕える国でも星でもありませんから、陛下の事をサードニクスと呼び捨てにしてもよろしいのかしら?」
「なっ我を呼び捨てだと!?ふ、不敬であるぞ!多少見目が良いからとッ!」
サードニクスがキレかけたその時、部屋に向かってくる新たな来訪者の足音が聞こえた。