面接 (判定機 Ⅱ)
我が社の面接に来た人たち10数人をそれぞれ個室に案内し面接試験を始めた。
外部と連絡を取られると面接試験に支障が出るのでスマホなどは提出してもらっている。
それぞれの個室には隠しカメラが設置されていて、社員がそれぞれのモニターを眺め録画していた。
個室に案内された面接者は皆案内した社員が個室から退出すると、机の上のボタンを見てニヤリと笑いドアの側に置かれているラックから新聞や雑誌を手に取って読み始めたり机に突っ伏して眠り始めたりし始める。
その中の4番の個室に案内された男性だけは新聞を拡げた後、1メートル以上ある机の上にある2つのボタンに気がついたようだ。
正反対の位置にそれぞれ置かれている2つのボタンの台座やボタンその物には、押すななど押さないように警告する文字がところ狭しに書かれている。
4番個室の男性は椅子から立ち上がりあらゆる角度から2つのボタンを眺め始めた。
そしてある事に気がついた彼は半信半疑の面持ちで恐る恐るではあったが、片方のボタンを押す。
彼がボタンを押すと同時に私の頭上にあるスピーカーが「ピコン! ピコン!」と鳴った。
それを聞いて私は私の側にいる女子社員に合図を送る。
彼女は珈琲が入ったマグカップとショートケーキが乗った皿が乗っているお盆を手に4番の個室に向かう。
個室のドアがノックされびくつく彼の前に珈琲の入ったマグカップとショートケーキが乗った皿が置かれる。
空いたお盆にコードレスのボタンを2つ乗せて退出しようとした彼女に4番個室の男性が声を掛けた。
個室にマイクは設置されていないので声は聞こえないが、会話の内容はだいたい想像できる。
「あの、私は不合格なのでしょうか?」
「私にはその質問にお答えする権限は与えられておりません。
ただ、珈琲とケーキが貴方様の前に置かれている事で察してください。
他の方の面接は続いておりますので、時間になるまでお待ちください」
それから40分程の時間が経過して面接試験は終わった。
4番個室の男性以外の面接者達は社員が終了を告げに個室のドアをノックすると、皆万歳をするように両腕を頭上に振り上げる。
集められた面接者達に私は声を掛けた。
「4番の個室以外の面接者は不合格です。
自分のスマホを受付で受け取り、お帰りください」
合格したと思いニコニコ顔だった不合格を言い渡された面接者達が口々に抗議して来る。
「1時間ボタンを押さずに耐えきったじゃないか! 何で不合格なんだよ!」
「そうだ! そうだ! 耐えきったのになんで不合格なんだ?」
4番個室の男性を指差し抗議する者もいた。
「こいつと俺たちの何処が違うって言うんだ!」
「4番の個室の彼とあなた方との違いは、正しいボタンを押したのと押さなかったのが違います」
「え? 時間内にボタンを押しては駄目なのでは?」
「何時の話をしているのですか?
あなた方はたぶん以前我が社の面接試験を受けた方から面接試験の攻略方法を聞いて挑んだのでしょうが、その方が受けた面接試験、ボタンを押さない忍耐力や精神力を見る試験はとっくの昔に終わってます。
今回行われた面接試験はあなた方の観察力を見る試験だったのです。
だいたいその方が受けた面接試験の時はボタンは1つだけ、今回は2つあるのだから違いに気がつかない方がおかしいのでは?
4番個室の貴方、2つのボタンの違いを教えて頂けますか?」
「はい、2つのボタンの違いは、ボタンや台座に書かれていた文字の中の一文だけが違いました。
椅子に座った私から見てボタンの裏側に小さく書かれた一文だけが違ったのです。
片方には「絶対にこのボタンを押すな」と書かれていたのに、もう片方には「このボタンが正解、押せ」と書かれていました」
「ありがとうございます。
あなた方に与えられた1時間という時間は待機する時間では無く、2つのボタンをじっくりと観察し正しいボタンを見つける時間だったのです。
雑誌や新聞を見たり寝ていたりする時間では無かったのです」
「で、でも、彼処に雑誌や新聞が入ったラックが置かれていたから読んでしまったんだ、無ければ俺だってボタンを観察しているさ」
「面接試験に使用した個室は普段、従業員の休息室として使われています。
ですからラックが置かれていても不自然では無いと思いますがね。
あ、そうそう、不合格になったあなた方に2つ程忠告しておきましょう。
1つは、あなた方が以前の面接者に聞いて面接に挑んだように、此れから我が社の面接試験を受ける方達に面接内容を金銭を受け取って教えるのは自由ですが、内容が変わっている事も伝えないと詐欺で訴えられる可能性があるのでご注意ください。
もう1つは、我が社、世界No1企業であるAKMカンパニーや契約企業とその子会社や取引先の会社に仕事を求めて履歴書を送っても無駄ですからね。
面接試験中に面接官が現れないからと雑誌や新聞で暇を潰したり寝ていたりする方を採用する会社は無いでしょうから。
採用する会社があったら我が社なら即座に契約を打ち切ります。
あなた方のような方達を採用する会社なんて信用できませんからね。
では、お帰りください」