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小六編 第94話 サンプルボトル

 墨液ボトルのサンプルが届いた。450mlと180ml、半透明でキャップ式のボトルなのだが、量り売り前提なので充填が容易に出来なければならない。キャップ全体が外れてある程度の大きさ――例えば直径10から20mm位――の充填口が確保できるような物でないといけないのだ。それでいて注ぎ口用の穴は小さい物でなくてはならない。そこから硯に注ぐんだからな。送られてきたサンプルボトルは注ぎ口が小さなキャップで開閉する物で、その注ぎ口を含むボトル上部がさらに大きなキャップになっており、それを外せば中にアクセス、つまり墨液の充填が出来る仕組みになっていた。成程、これならいけるかもな。180mlの方は従来の200mlボトルよりスリムだから、書道セットのカバンの隙間にも収まるだろう。あとは耐久性だが他メーカーとはいえ墨液用のボトルなのだから実績有りと言う事だ。大丈夫だろう。


 気になるお値段の方はと言うと、白井物産からの見積もりによると450mlが単価42円、180mlが24円、但し、いずれも10ダース(120本)以上で発注した場合の単価になりますって条件付きだった。まぁ仕方ないね。


 墨液の見積もりも貰えた。10リットルで9,200円、18リットルで15,400円、そんなものか…思ったより安くならないんだな。整理してみると、


400ml     700円(1,750円) ※白鳳経由での仕入れ値

2リットル  2,200円(1,100円)

5リットル  5,000円(1,000円)

10リットル  9,200円 (920円)

18リットル 15,400円 (856円)

( )内はリットルあたりの単価


 それでも18リットルなら従来の半値以下で仕入れる事が出来る訳だ。早速発注しよう! あっ、でも白井物産の発注リストには載ってないよな。まぁいい、良樹に電話してと……


「クレムリ……」


「それはいいから。俺と電話する時の枕詞か何かか?」


「見積もり見たのか?結構頑張ったんだがな。」


「あぁ、ありがとう。何点か質問があるんだがいいか?」


「何かな?」


「まず墨液ボトルの件だが、120本以上の発注ってのは理解した。これ、120本を超えて発注しようとしたらどうなるんだ?120本単位だから240本、20ダース無きゃならんのか?」


「いや、120本、10ダースってのは最低発注量って意味だが、それ以上は1ダース単位で増やしてくれ。つまり120本の上は132本、144本……と1ダース12本単位なら問題無い。」


「そう言う事か。」


「20ダース以上なら単価はもう少し下がるかもしれん。」


「20ダースとか発注する事は無いと思うが、一応覚えとくよ。それと早速発注しようと思うんだが、発注リストに載ってないよな。どうすればいいんだ?」


「この電話で……と言いたいところだが、一応エビデンスを残しておきたいんでメールで品名と数量を送ってくれるか。そしたらうちから発注受付メールを送る。以後は通常の発注行程と同じだ。お前んとこ用に項目を追加したExcel発注リストを作り直して後で送るわ。今後はそれを使ってくれ。」


「分かった。メール入れておく。450mlと180mlボトルを10ダースずつ、あと18リットルの墨液を1つ発注するから。因みに18リットルを超える物もあるのか。」


「いや、あの墨液メーカーでは18リットルが最大だそうだ。それ以上となるともう要相談という事らしいが、多分トン単位の取引になるんじゃないかな。こっちからタンク車で引き取りに行かなきゃならんレベルだと思う。」


「さすがにそこまでやるつもりは無いな。分かった。それで18リットル物の容器ってどんなんだ? 一斗缶みたいなのに入ってるのか?」


「イメージとしては灯油のポリタンクがあるだろう、あんな感じの容器に入ってる。半透明の容器で取手もある。」


「取手付きはいいな。他の容器に移す時には灯油用のポンプ使おうかな。」


「しかし18リットルか……発送が大変そうだ。液体だから重いし。」


「そういう時はゆうパックを使え。ゆうパックは25kg以下なら(かさ)、つまり縦横高さだけで料金が決まるから密度が高い物を送る場合にはかなり重宝する。25kgを超えても30kg迄なら500円位追加すればOKだ。もっともお前んとこは配送業者と包括的な契約してるんだろうから、単発でゆうパック使う場合と比較したらどうなるかは分からんがな。」


「そうなのか。よく知ってんな。日本郵便もなかなか侮れんな。ちょっと調べてみるわ。」


「あと、俺の所に18リットル送るんなら墨液メーカーに直送させればいいんでないか? どうせ白井物産に送るんだから俺の所に送るのも同じだろう。県内と県外じゃ送料が違うけど、墨液メーカーは県内だっけ?」


「いや、どちらにしても県外だ。そうか、一旦うちに送るくらいならお前んとこに送らせればいいんだよな。」


「これもDrop-shippingだ。在庫持たなくていいから発送業務の効率化、ひいてはコストダウンにつながるぞ。消耗品なんかの確実に需要があるものは自分の所で確保しといた方がいいけど、滅多に出ない物、あまり数が出ない物なんかはメーカーから直送させればいいと思うぞ。」


「ちょっと考えてみるわ。そうなるとうちの発注や発送のシステムを改修しないといけないし。」


「おう、じゃメールで発注入れとくんでよろしくな。」


 さて、見積もりも出揃った事だし、売価をはじき出すことにしようか。

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