小六編 第89話 決済いろいろ
本日2話目の投稿になります。よろしくお願いいたします。
「クレムリンは要らんから墨液用の容器を探してくれ。」
「墨液の容器? 400mlや200mlのボトルじゃ駄目なんか?」
「要求仕様を言うぞ。透明、若しくは半透明で中の墨液の残量が外から目視出来る様な材質の物。墨液の容器である事から再栓式キャップで中身が漏れない事。割れたり破れたりしない様にって事だな。容量的には400mlと200mlが希望だが、多少の差は許容する。理想を言えば、現状の400mlと200mlボトルが透明、または半透明になった物があればいいな。あっと、それともう一つ、200mlボトルだが、現状のボトルと太さが同等か若干小さい物がいい。高さは少々高くなってもいいけど。書道セットのカバンの隙間に入れられるってのが重要だからな。」
「透明、または半透明の意味が分からん。何故そうする必要がある?」
「墨液の量り売りを考えてるんだ。外から入ってる量が分かった方が買う方としては安心だろ。」
「また面倒な事を……量り売りなんて容器に移す時に絶対溢して墨液ぶちまける事になるぞ。」
「その場で容器に移すのであればな。事前にまとめて容器に充填しておくんだ。量り売りと言っても実際には空容器と充填済み容器を交換して、中身の墨液の分だけ売った事にする。空容器を持って来ないのであれば、容器代をプラスして払って貰う。」
「昔の瓶のジュースの販売方法みたいだな。」
「さすが同世代、分かってらっしゃる。」
今ではもうこの制度はほぼ無くなってしまっていると思うが、昔はお店で瓶のジュースを買う時に、その場で飲む場合は瓶をすぐに返せるのでジュース代だけを払えばよいのだが、持ち帰る場合は瓶の保証金として10円程加算された額を払って持ち帰っていたのだ。その保証金は後日店に空瓶を返すと返金してもらえるというシステムになっていた。
例えばお店で1本50円のジュースを持ち帰りで買うと店には保証金10円を加算して60円を払う。後日その瓶を返せば保証金の10円は戻って来るのだが、別の言い方をすれば空瓶は10円の価値を持った通貨として、そのお店で使えるって事にもなるのだ。だから瓶を返せば次のジュースを持ち帰りで買う時も保証金分は空瓶で相殺されて、今度は50円だけ払えばよくなる。昔は1.5リットルの瓶なんてのもあって、その保証金は30円位だったと思う。今では缶やペットボトルに代わってしまって保証金という制度も――多分だけど――無くなってしまったが……
「まぁやりたい事は分かった。ちょっと墨液のメーカーか、そこにボトルを卸している所に打診してみるわ。リットルクラスの容器は半透明だから400mlや200mlの容器にもそういう需要があるのかも……ひょっとしたら既にあるのかもしれん。」
「満タンになってる事が分かればいいんだから、上の方だけ透明になってればいいんだけどな。」
「逆にそういう作り方の方が高くなるような気もするが……言いたい事は分かる。探してみるけど期待はするな。だが少なくとも今の400mlや200mlのボトル、勿論透明では無いが、中身無しでボトルだけを仕入れる事は問題無く出来ると思う。」
「仮に透明なのが見つかってもあまり高くちゃ意味無いからな。コスト的に見合う物が無ければ現状のボトルでやる事にするよ。」
「お前が塾生からどれだけ信用されてるかだよなw」
「失礼な。まぁ信用出来ないのであれば現状の満タンボトルを用意しといて、それと重さを比べさせればいいだけだ。料理で使う様なデジタルの計量器を横に置いといてやる。」
「つまりその計量器を使う塾生はお前を信用して無いって事だなw」
「そういう事、言うんじゃない!」
うーん、さすが同級生、十数年ぶりの会話なのに遠慮無く俺に突っ込んでくる。まぁそれは俺も同じなのだが。気が置けない間柄というのはこういう奴の事を言うんだろうな。
「あと決済についてなんだが、掛けでの取引で翌月までに銀行振込で入金とかそんな感じか?」
「あぁ、そう思ってくれればいい。」
「どこの金融機関の口座だ? 数字が一番でかい地銀か?」
「その通りだ。あとゆうちょの口座もある。」
「ゆうちょが使えるのはいいな。ゆうちょダイレクト経由なら振込手数料がかからん。それと駄目元で聞いてみるんだがクレジットカード決済とかには対応してるのか?」
「対応してるが、掛けじゃ無くなるけどそれはいいのか?」
「問題無い。クレカ決済してから実際に引き落としがかかるのは翌月とかだから結果的に掛けと変わらん。 VISA、Master、JCBが使えればいい。」
「その辺は全部使えるよ。ただクレカ決済は5%程上乗せさせて貰うぞ。」
「おまっ、それクレジットカード会社の規約違反だろ!通 報しない代わりに俺だけ上乗せ無しにしろや。」
「参ったなぁ……知ってたのか。」
「当たり前だ。その口ぶりだと確信犯かよ。バレたらクレカ決済出来なくなるぞ。通報はしないでおいてやるから、上乗せをやめるかクレカ決済自体をやめるか、どちらかにする事をおすすめするぞ。」
「うー、ちょっと考える。」
「少なくとも俺の分については上乗せ無しな。」
「くそー、やられた。」
「まぁ手が無い事は無いんだがな。上乗せしても規約違反にならずに済む方法……」
「その辺詳しく!」
「俺の決済は上乗せ無しって約束してくれたら教えてやる。二つ程やり方があるんだが、一つは大がかりになるし多分数百万以上のレベルで費用がかかる、もう一つは簡単で費用もかからないけど払う側に色々やってもらわなきゃならんから、その説明が結構大変だぞ。」
「お前のは上乗せ無しって事にするから教えてくれ。数百万の方はとてもじゃ無いが出来んから費用がかからない方。」
「約束、違えるなよ。PayPal決済を使うんだ。」
「ペイパル? 何とかPayみたいなもんか?」
「スマホやコード決済では無いな。数十年前からある決済方法で、海外通販なんかだとスタンダードな決済方法だ。払う側にやって貰うってのはこのPayPalアカウントを作って貰わなきゃならんって事だ。金のやり取りはこのPayPalアカウント同士でする事になる。PayPal経由で客が10,000円決済するとPayPalは確か4%程の手数料を引いて9,600円を請求者のPayPalアカウントに入金してくれる。だから請求の段階で400円を上乗せして10,400円を請求する訳だ。そうなると400円引かれても10,000円が入金される事になる。客のPayPalアカウントに残高が無ければ登録したクレカへ請求して残高を作ってから送金するので、実質的にはクレカで決済した形になる。規約違反にならないというのは、PayPalはアメリカの会社であり日本のクレカ会社、あるいは決済会社の規約適用外にあるからだ。実際、PayPal経由の支払いに手数料を上乗せされたとしてクレカ会社に通報した奴が居るんだが、クレカ会社としては上乗せ禁止は国内の決済に限るものであり、海外の会社には適用されないって見解だった筈だ。請求者はあくまでPayPalとのやり取りで入金を受けたものであり、クレカ会社とのやり取りはPayPal、つまり海外の会社だからな。またPayPalの規約では決済手数料を負担するのは請求者と支払者の間で決めていい事になっている。なので、事前に決済手数料がかかる旨を明記しておけば、それを納得した上で支払者が決済手数料を負担した事になり、規約違反にはならないって事だ。」
「く、詳しいんだな。」
「クレカやキャッシュレスについてはちょっとな。クレカは20枚以上保有している。まぁ半分は持ってるだけで殆ど使ってないが。」
「持ち過ぎだろ。」
「これでも減らした方だ。一時期は30枚くらい保持してた。」
「そ、そうか……」
「クレカ決済やめてPayPal決済に移ればいいんじゃないかな。顧客には5%だった上乗せを4%にします。その代わりPayPalアカウント作って下さいって事で。使い方のレクチャーとかしないといけないかもだけど。」
「PayPalに入った金はどうやって引き出すんだ?」
「日本国内の銀行口座へ払い出せるよ。手数料が数百円かかったと思うけど五万円以上の払い出しで無料になったと思う。だから五万円以上になったら払い出せばいいんだ。あっ、でも法人アカウントだとどうだったかな。その辺は自分で調べてくれ。」
「自分なりに調べてみるわ。サンキュ。」
「墨液の容器についても頼むな。あと俺への上乗せは無しだからな。」
「分かった、分かった。ちゃんと調べるし上乗せも無しにするから。」
「って事でよろしく。後でそちらのメアドにうちの連絡先やなんかの情報入れとくから。それに返信して書道物販の注文書を送ってくれや。」
十数年ぶりの会話はこうして終わった。さて、ボトルも気になるが物販品の値段はどんなものかな。少なくとも白鳳よりは安いんだろうからちょっと楽しみだ。
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