小六編 第81話 奪還
ミユキチに負け、ぐったりしていた莉沙だがようやく復活してきた様だ。当のミユキチはと言えば暫く俺の胡坐の中で丸まっていたが、満足したのか今は教室の中をウロウロとパトロール中だ。
「もぉー、くやしー!」
莉紗は空いた俺の胡坐へ倒れ込むと腹に頭を押し付けてグリグリしてきた。慰めろって事か? あんまり派手にグリグリしてるとまたミユキチが奪還しに来ちゃうぞ。と、思っていたがミユキチはあいかわらず教室内をウロウロするだけで、特に気にした様子も無い。うーん、猫特有の気まぐれか、あるいは莉紗に譲ってやったのか。譲るって事は自分が強者だから出来る事であり、それを莉紗に誇示する事でどちらが上かを知らしめようとしてるのか。単純に優先権は我に有り、自分が望まなければ好きにせよって事なのかな。
「ほれ、もうすぐ修道教室で皆が来る時間だぞ。そろそろ俺の膝から離れろ。」
「むぅ……」
ぶーたれ乍らも俺から離れる莉紗、これが幼かった転校前なら頑としてしがみついていたところだが、小三ともなるとさすがに分別が付く様になったという事か。少し寂しい気がしないでも無い。
「「こんにちわー。」」
修道の子達が何人か来た様だ。
「あっ、莉紗ちゃんだ。久しぶりー。」
「あいかわらずかーいいね。こっち戻って来たの?」
既知の塾生が莉紗に声をかける。さもありなん、莉紗は皆から可愛がられてたからな。
「こんちわーっス。」
そうか、こいつがいたんだった。
「何々、この子! かわいー!」
彩音は脱兎の如く莉紗に駆け寄り、思いっきり抱きつくとほっぺたをスリスリする。莉紗はいきなり過ぎて吃驚したのかされるがままになっている。
「先生! 何でこんなかわいい子隠してたんですか! 謝罪を要求します!」
落ち着け、莉紗が怖がってんぞ。
「この子は前うちに居た子だ。引っ越しで離れてたけど戻って来たんで今日からまたうちに通う事になった。」
「ひょっとして白鳳に載ってた上位の段の上手い子?」
「そうだ、河田莉紗、小三だ。いい加減放してやれ。」
「いや、この子は私が貰います。うちに連れて帰って世話します。」
「お前は何を言ってるんだ? ほら、解放しろ。」
「ヤダ! うちに連れて帰る。連れて帰ってうちで飼うの!」
そう言うや否や、彩音は莉紗を小脇に抱え直したかと思うと、これまた脱兎の如く玄関に向かってダッシュした。この野郎、本当に連れ帰るつもりか。
「ミャー!」
玄関で待ち構えていたのはミユキチだ。ミユキチは一声鳴いたかと思うと、正面から迫り来る彩音の顔面目掛けて体当たりをかます。「ボスン」と音を立てて一撃を食らわすとその反動を利用して下駄箱の上に着地する。思いもよらぬとことから攻撃を食らった彩音は思わず抱え込んだ莉紗を放してしまう。「シャー!」と威嚇するミユキチに牽制され、動けなくなったところに俺が後ろからウメボシをみまう。
「全くお前というヤツは!」
グリグリグリ……いつもより強くグリってやった。
「イダダダ……痛い痛い、痛いですってば。」
「痛くしてるんだよ! 莉紗、大丈夫か?」
「このお姉ちゃん、怖い……」
莉紗はすっかり涙目だ。トラウマにならなきゃいいんだが……。ミユキチは莉紗と彩音の間に入って、警戒態勢を崩さない。彩音を威嚇し続けている。ミユキチ、よくやった。さっきまで莉紗と争っていたのに今回は莉紗を助けてやった形だな。これも強者の証という事か。
彩音をグリったまま俺の机の所まで連れて行く。セッキョーだ、この野郎! 莉紗はミユキチに守られながら自分の席に着く。ミユキチが莉紗に何か話しかけてる様にも見えるのだが……まぁそんな事は無いんだろうけどな。暫く莉紗の癒し要員となってくれ。
結果としてミユキチは俺の膝の上を奪還するんじゃなくて、莉紗を奪還するのに成功したって事だな。
「で、申し開きがあれば言ってみろ。」
「あんまりかわいかったのでつい……」
うん、完全に小児性愛者の発言だ。同性だからと言って何でも許されると思うなよ。と言うかこいつ、中身はおっさんだからなぁ。ともあれ相手、特に小さい子の嫌がる事をするんじゃないときつく言っておかねば。少しは反省しろ。
「先生、今日はもう帰るね。」
莉沙が俺の所へ来てそう告げる。ミユキチと決闘?したり彩音に拉致られそうになったりして肉体的にも精神的にもダメージが大きかったのだろう。
「おぅ、この彩音にはきつく言っておくから。今日はゆっくり休め。」
フラフラとよろけ乍ら帰っていく莉沙をミユキチがエスコートする。護衛のつもりかな。まぁミユキチに任せとけば大丈夫か。莉沙は幼いしかわいいから、彩音でなくとも今後ちょっかいかけてくる不埒な奴が現れないとも言いきれん。何らかの対策が必要かもな。




