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小六編 第79話 天使の帰還

 俺に続いて莉紗と月子が教室に入って来る。玄関先ではミユキチがお出迎えだ。


「ミャー」


「先生、ねこだ! ねこちゃんがいる。」


「莉紗は初めてだったか。莉紗が引っ越した後にうちに来たんだ。ミユキチだ。ミユキチ、こっちは莉紗だ。よろしくな。」


「莉紗だよ。ミユキチ、よろしくね。」


「ミャ!」


 ミユキチと挨拶を済ませた俺達は教室の前方、いつもの俺の席の周りに座る。せっかくだから飲み物くらいは出してやろう。


「ちょっと飲み物持って来るから暫く待ってろ。」


 事務所、というか居住エリアに引っ込み冷蔵庫からジュース、それとコップ三つに氷を入れて教室に戻った。


「ほれ、こんなもんしか無いけどカンベンな。」


 二人のコップにジュースを注いで出してやる。自分も席に座ってジュースをと思っているところに、ミユキチがトコトコ歩いて俺の胡坐の中で丸まった。いつもの「撫でろ」アピールかなと思ったが、そのまま目を瞑ってまどろみ始めた。


「ミユキチ、かしこいね。そうすれば先生のお腹が目の前だ。」


「別にミユキチは俺の腹が目当てじゃないと思うぞ。」


「いいなぁ……莉紗も今度やってみよっと。」


 莉紗がここで丸まるのはさすがに厳しいと思うぞ。三年生にしては小柄とは言え、三歳当時に比べればおっきくなったんだし。


 暫く三人で雑談していると、美紗さんが再入塾の手続きにやって来た。


「先生、お久しぶりです。またよろしくお願いします。」


「いえいえ、こちらこそ。またこっちへ戻って来られて良かったです。哲夫さんは大丈夫でした?」


「いつもの事です。お気遣いなく。適当に締めときましたから。」


 哀れ……哲夫氏。


 おっと、美紗さんにも飲み物を出さなきゃマズいな。俺たち三人の前にコップがあって美紗さんに無いのは駄目だろう。


「ミユキチ、ちょっとごめんな。しばらく俺の膝はお預けだ。」


 ミユキチの体を抱き上げ、そっと床に下ろす。せっかく気持ちよく寝てたのにと、非難めいた視線で睨んでくるミユキチ。まぁ怒るな。コップに氷を入れて戻り、ジュースを注いで美紗さんの前に出す。ミユキチは……どっか行っちゃった様だな。拗ねちゃったか。とりあえず美紗さんと手続きだけ済ましとこう。


「えーと、以前と同じく書道教室と修道教室の両方という事でいいんでしょうか。」


「はい、それでお願いします。」


「里子先生の教室はどうでした?ってこれは寧ろ莉紗に聞いた方がいいのかな。」


「先生のお口利きもあって良くしていただきました。ね、莉紗。」


「うん、先生もでこちゃんもやさしかったよ。」


「段位も三段までいけましたし、本当にお世話になりました。」


「そうですか。三年生で三段はトップクラスですからね。俺も嬉しいですよ。それにしても里子先生も莉紗が戻って来るのを教えてくれてもよさそうなものなのに……」


「莉紗がないしょにしといてっておねがいしたんだよ。先生をびっくりさせようと思って。」


「そうか、サプライズを演出したのか。」


「さぷらいず?」


「吃驚させるって事だ。莉紗の思った通りになったって事だよ。」


「えへへ。」


 あいかわらず莉紗はかわいいなぁ……


「莉紗、教室には明日から来るのか?」


「うん、あしたから学校おわってすぐ来るよ。」


「そうか、また一緒に頑張ろう。」


「とくたいせいになるからね。そんで次はしはんだね。」


「宿題や勉強もな。」


 そんな会話を交えつつ、再入塾の手続きを済ませた美紗さんは莉紗を伴って帰って行った。


「月子、また莉紗の事、よろしく頼むぞ。」


「はいはい、まぁ莉紗も初めてって訳じゃ無いし問題無いでしょ。」


 予定より大分早かったが莉紗が復帰する事になった。里子先生には後でお礼をしておこう。こうしてまた日常が戻って来るのである。

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