小六編 第71話 空気の読める猫
本日2話目の投稿になります。よろしくお願いいたします。
ミユキチが戻って来た事で子供達は大喜びだ。いなくなる前と同様、玄関周りで招き猫をやっている。あんまり構うと逃げちゃうぞ。四月以降にうちの教室に入った子はミユキチは初めてだな。例えば小一の未由とか。
「あっ、にゃんこだ!」
未由がミユキチを撫で回す。おいおい、あんまりやるとミユキチが怒って逃げるぞ……ってあれ? 逃げない。迷惑そうな顔はしてるけど、まだ小さいし初めてだから仕方ないか、みたいな感じか。ミユキチ恐るべし、空気の読める猫だな。
そういえばこいつもミユキチはお初だな。
「あっ、ぬこだ!」
いきなり「ぬこ」かい。彩音が触れようとした瞬間、それまで寝そべっていたミユキチが立ち上がり「シャー!」と威嚇してきた。それでも触れようと伸ばしてくる彩音の手に向かって猫パンチのラッシュ、てしてしてし、打つべし! 打つべし! 打つべし!
「なんで未由ちゃんと扱いが違うの!」
うーん、恐らくお前の邪悪なオーラを感じ取ったんじゃないか。さすが空気の読める猫だぜ。
修道教室の時間、基本的にミユキチは玄関に居る事が多いのだが時々パトロールとばかりに教室を巡回する事がある。この教室もミユキチの縄張りという事なのだろうか。一通り回った後は俺の席まで来て胡坐をかいている俺の膝というか太ももだな、の上で丸まる事が多い。で、撫でろとばかりに俺の顔をじっと見てくるのである。仕方ないので右手は仕事――主にPCのマウスやキーボード、筆記用具――左手はミユキチを撫でつつ仕事をこなす事になる。あまり仕事を邪魔しないで欲しいのだが、キーボードの上で寝そべられるよりは全然マシだからな。彩音がうらやましそうな顔でこっちを見ているな。お前、まだミユキチに撫でさせて貰えてないのか。
尚、書道教室の時、ミユキチは教室を巡回する事はあっても俺の所には来ない。書道の時は俺は正座していてミユキチが丸まるのには適さないという事もあると思うが、完全にお仕事モードというのを分かっているんじゃないかと思う。修道も仕事っちゃぁ仕事だが、書道に比べれば緩い雰囲気だからな。
教室以外の時間帯、午前中とか夜の事だが、ここでも俺が胡坐で仕事をしていると太ももで丸まる。で、撫でろの催促だ。ミユキチは撫でられるのが好きだが、猫耳の
内側を触ってやるのも気持ちがいいみたいだ。時々耳をひっくり返すというか裏返してやったりするのだが、頭を振って元に戻そうとするがなかなか戻らない。それが面白くてつい何回もやってしまい、最後は「シャー!」される。「裏返したな!シャー!」って事かな。
俺が仰向けで寝ているとミユキチはよく俺の腹の上に乗ってくる。そこで丸まって自分も寝るのだ。適度な弾力があって柔らかいと感じているのだろうか。昔、同じ様な感想を言われた事がある。ポヨポヨの感触がいいんだと。俺の腹はメタボってて丸いから寝にくいと思うぞ。傾斜がついてるから滑り落ちる可能性がある。滑らない様に爪を立てるのは勘弁して欲しい。あと俺が寝返りを打つと押しつぶしちゃうぞ。そこは気を付けてくれよな。
先日、外出した時に偶々公園の脇を通ったのだがそこでミユキチを見かけた。公園の端っこ、ちょっとした花壇と植え込みがあって開けた場所があるのだが、どうもそこが猫の集会場になっている様だ。ミユキチを含め、十頭以上の猫が集まっていた。ミユキチは花壇を作っているレンガの上に陣取っている。他の猫と比べると一段高い位置だ。ひょっとしてミユキチはこの辺の猫の中じゃボス的な地位に居るのだろうか。見てるとどうもそうらしい。うちから離れていた半年の間にこの辺り一帯を制圧したのか。その結果が獣医さんの所で指摘された傷痕なのだろう。ミユキチは俺がここに居る事に気付いている様だ。思いっきりドヤ顔である。配下?の猫に何か言ってる様にも見える。「あの人間は私の飼い主だから手を出すんじゃないぞ」とかそんなところか。いや、ひょっとしたら「あいつは私の手下だから手を出すな」かもしれない。うーん、犬は飼い主家族の中で自分の順位付けをすると言うが、猫はどうなんだろうか。せめて人間の中では俺が一番上だといいな。
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