表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/183

小六編 第7話 はらい

 横画はねを教えた後、縦画の指導に移る。縦画も横画同様うったては筆先を左上45度から始めて真っ直ぐに下へ送る。縦画の最後をとめる、はねるを教え、横画には無い『はらい』に行くのだが……


「縦はらいの前に左はらいの練習をしよう。縦はらい、左はらいは筆を送る過程でだんだん細くなる、ということは?」


「筆を持ち上げながら送るってことですね?」


「そうだ、はねもそうだったがはらいも筆を半紙から抜く感じでスッと持ち上げる。極端な言い方をすれば長いはねだな。」


 左はらいの次は縦はらいだ。


「縦はらいも左はらいと基本は同じだ。だんだん抜いて細くしていくのは同じなんだけど最後の所だけで抜く、つまりほとんどの部分は同じ太さの方がカッコいいかな。」


そしていよいよ右はらいだ。


「右はらいはちょっと特殊なんだ。最初はうったて有りと無しがあるが、うったて有の場合でも横画みたいに筆を押し付けたりしない。トンじゃなくてチョンって感じだな。うったて無しの場合はトンそのものがなくていきなりツーで始まる。筆送りでだんだん太く、つまり筆を押し付けていき一旦とめてそこからはらう、つまり筆を抜いて細くするというパターンだな。」


 彩音もさすがにちょっと苦戦している様だ。慣れればどうって事無いんだけどな。反復練習あるのみだ。


「これで横画とめ、横画はね、縦画とめ、縦画はね、縦はらい、左はらい、右はらいまで行った。そこでこれを書いてみよう。」


 そう言って俺は一文字の手本を書きあげた。


「『木』ですか?」


「そう、横画、縦画、左はらい、右はらいが含まれている丁度いい題材だ。」


「二画目の縦画はとめですか? 私いつもはねて書いてましたけど。」


「そういう書き方もあるがここでは手本通りにとめで。確か学校教育ではとめで教える様になってた筈だ。小学生の頃、漢字の書き取りテストではねて書いてバツされた経験がある。」


「き、厳しい先生だったんですね。」


「まぁそういう時代だったんだ。あと分けるって字『分』だな。一画目と二画目の八になってる所、くっつけて書いてバツになった。」


「えー、それ位いいんじゃないんですか。」


「その先生曰く、分けるんだから分かれてないといけない、だそうだ。まぁ八ならくっついてちゃおかしいし。」


 雑談はこれ位にしてちゃっちゃとやろう。


「『木』書けましたけど何かイマイチ……」


「一つ一つの画は出来てるけどやっぱり字となるとバランスも考えなくちゃならんからな。」


「『木』って画数少なくてシンプルな字ですけど、それだけにバランスって難しいですよね。」


「そうだな、プレーンって言っても分らんか、飾り気が無い字は余白、白い所が多い分、粗が目立つってのもある。」


「うーん、まさかこんな所で苦戦するとは……」


「手本を見て左はらいや右はらいの先っぽが横画や縦画のどこまで延びているか、そういう風に注目して書いてみるのも一つの手だぞ。持永さん的にはアレンジしてみたいんだろうけど、今はまだ基本の段階だから手本に忠実に書く事を心掛けて。」


「まずは大まかな形をイメージしてデッサンするみたいにやってみます。」


「そういう発想でもいいと思うぞ。それならこういう方法がある。ちょっと手本貸してみ。」


 彩音から手本を受け取るとその上に新しい半紙を被せ細筆を手に取る。下から透けている「木」の字の輪郭をなぞる。


「こうやって手本を透かせて細筆で輪郭をなぞって白抜きの字を作るんだ。そんで……」


 細筆から太筆――と言っても普通の筆だが細筆と区別する為に太筆と表現した――に持ち替え、白抜きを埋める様に「木」を書く。


「なぞり書きとでも言えばいいかな。これで全体のレイアウトを掴む練習にするんだ。細筆で手本の白抜きを作り太筆でなぞる。これを何枚か繰り返すといい。」


「これ、毎回細筆で書くんじゃ無くて一枚書いてコピーしちゃ駄目ですか?」


「白抜きを書くのも練習だぞ。これやると色々と応用が利くようになる。それに半紙は腰が弱いからコピー機に入れるとジャムってうまくいかないと思うぞ。」


「ジャム?」


「クシャってなって詰まるって事。とりあえず一枚作ってからなぞってみ。」


 半信半疑ながらも彩音は白抜きを作っている。まぁ十枚も繰り返せばいいだろう。時間はかかるが。


「とりあえず十枚分やってみて。あぁ最初に白抜きばかり作るんじゃなくて、白抜き→なぞり→白抜き→なぞり……で十枚な。その後普通に「木」を書いてみ。かなり良くなってるはずだ。」


「これ面倒くさいけど何か面白いかも。輪郭なぞる事でうったて、とめとかデッサンしてる感じ。」


「んで、それが終わったらこれだ。」


 俺は半紙に「永」を書いて手本として渡す。


「この『永』も白抜き、なぞりを十枚分やってから普通に書いて。」


「先生、いきなり教えるペース上げてきてません?」


 む、バレてしまったか。確かに急ぎ過ぎたかな。


「次回以降もやる事がたくさんあるんだ。基礎的な所は今日中に終わらせたい。」


「むぅ……やってみます。」


 さて、今日はそろそろ時間だ。他の子の最後の指導してそろそろ帰さんといかんなぁ。そんな事を思いながら自分の席に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ