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小六編 第68話 本を買いたい

 何だかんだと言いつつ八月が過ぎていく。修道教室の方では、彩音があいかわらず毎日来ては「グへへへ」と気持ち悪い笑い声と共に「創作活動」に勤しんでる様だ。家族には内緒にしているそうだからその反動もあるのだろう。まさに水を得た魚と言うヤツだな。水は濁って、というより白濁(意味深)してて、魚は腐ってるけどな。


「先生、先生、お盆は帝都出撃するんですか?」


「えらい古い言い回しを知ってるんだな。今は誰も使って無いぞ。」


「これが分かるって事は行くんですね。」


「コミケだろ。行かねぇよ。行った事も無いし。」


「えー、そうなんですかぁ。行くんだったら色々買って来て欲しかったのに。先生だったら18禁モノも買えるでしょ。」


「ちょっと待て、仮に行ったとしてもお前のお目当ては一日目だろが。そんな所に俺が行ける訳無いじゃないか。それに18禁モノをお前に渡す訳にはいかん。」


「ちぇー。」


「本を買いたいだけなら通販で買えよ。」


「18禁は私じゃ買えないんですよ。」


「お前なら何とでもしそうだけどな。」


「無理ですよ。未成年はクレカも作れないんですよ。」


「コンビニ支払いという方法があるだろうが。少なくとも密林なら出来た筈だ。」


「受け取りはどうするんですか。家族にバレるかもしれないじゃないですか。密林が気を利かせて『パソコン部品』って品名にしてくれるとは思えないんですけど。」


「『パソコン部品』って、よくそんな事知ってるな。」


 アダルト系通販で送り状の品名の指定で、「パソコン部品」というオプションがあったのを見た時は笑ってしまった。いや別に俺がそのアダルト系通販を利用した訳では無いからな。勘違いしない様に。


「それもコンビニ受取りと言う方法があるぞ。」


「マジっスか! ちょっと確認してみます。」


 しまった。変態に知恵を付けてしまった。彩音は嬉々として通販サイトの支払い方法や発送方法について確認している。


「先生の言う通りコンビニ支払いが出来るみたいですけど、商品によってはコンビニ支払いを認めていない物があって、私の欲しい本はそれに該当してるみたいです。」


 あー、成程、R-18作品はクレカで成人確認してるのか。ザルだな。そんなもんはいくらでも抜け道がある。しかしこれを教えてしまっていいものか……悩ましいな。


「ヒントをやろう。世の中にはプリペイドカードという物があってだな。あとは自分で調べろ。」


「えー、教えて下さいよ。」


「お前の目の前にある箱に聞きなさい。」


 何でもかんでも教えていたんじゃクセになるからな。熱意をもって調べればすぐに分かるだろ。熱意の方向性がアレだが。


 プリペイドカードは事前にチャージした範囲でクレカとして使えるカードだ。クレカでは必要な信用審査が無いので未成年でも作れるカードもある。少なくとも12歳以上であれば作れるプリペイドカードを俺は知っている。未成年は保護者の同意が必要な場合もあるが、彩音ならどうとでもするだろう。最悪、偽ぞ……ゲフンゲフン……


 密林ではプリペイドカードもクレカとして扱われる様で、ちゃんと決済に使える事は俺自身が確認している。クレカ持ってんのに何でプリペイドカードも作ってるんだというツッコミはするな。そうだよ、クレカからプリペイドにチャージしてポイントの二重取りしてんだよ。言わせんな、恥ずかしい。


「成程、未成年でも作れるプリペイドカードというものがあって、密林ではクレジットカードとして認識されるから、コンビニ支払い不可の物でも買えるという事ですか。」


 ほぼ正解だな。あとは自分がいいと思ったプリペイドカードを申し込めばいい。そのカードの受取りは自宅になるから、親に対する言い訳も考えておけよ。まぁR-18モノが届くよりはよっぽどいいだろうけど。


「もう一つ方法がある。密林ギフト券をコンビニで買ってそれを使って密林で買えばいい。確かギフト券はどんな品物の支払いにも使えた筈だ。」


 この決済方法だと18歳以上かどうか確認出来ないな。となるとクレカで判断している訳では無さそうだな。


「それが一番簡単ですね。でも密林以外で注文する可能性もあるから、プリペイドカードは作っておこうと思います。でも小学生にはハードル高いかなぁ。」


「プリペイドカードはクレカの下位互換って考えると難しく感じるかもしれんが、チャージした分だけしか使えないんだから電子マネーみたいなもんだ。」


「それだ!」


「何が?」


「親に何か言われた時、その言い訳を使えばいいんですよ。チャージしただけしか使えないんだから電子マネーのカード作ったのと一緒だって。それ以上の無駄遣いも出来ない訳だし。」


「お前、そういう悪知恵だけは働くのな。」


「いえいえ、お代官様程では……」


「誰が代官だ。言っとくけど俺が(そそのか)したみたいに言うんじゃないぞ。俺は『世の中にはプリペイドカードという物がある』って(つぶや)いただけで、プリペイドカードについて色々と調べて、密林でも使えるという事を突き止めたのもお前だからな。」


「はいはい、分かってますよ。」


「通販じゃなくてもその手の本はちょっと大きな街に行けばそういう専門店で売ってるだろ。〇ニメイトとか、ゲー〇ーズとかで。県内で入手可能だぞ。」


「問題は私が未成年な事ですよ。レジで引っかかるじゃないですか。」


 そういやそうだな。こいつ、中身がアレだが見かけ上は小学生だもんな。


「それにそんな大きな街まで行くとなると交通費が……」


「この辺は田舎だからなぁ…」


「全くもって残念ですが。」


 寧ろ彩音にとってはそれが幸いしてるのかもしれん。こいつにそういう環境を与えたら何か色々と駄目な気がする。それに今更だが、R-18作品は18歳以上になってからにしろな。

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