表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/183

小六編 第66話 書道教室再開

 合宿後の修道教室は参加人数が少なくなる傾向にある。夏休みという事と、合宿で宿題をある程度済ませてしまっているので、自分自身の自由時間や遊びに充てているのだろう。それでも修道教室に来る奴は居る訳で……彩音とか、彩音とか、彩音とか。自宅では描けない絵を描いてるのだろう。夏休みでもほぼ毎日来てやがる。まぁ場所だけは提供してやる。俺に感想を求めるんじゃないぞ。あと小さい子への布教、いや腐教禁止な。


 夏休み中でも書道教室は通常営業だ。第一週の書道教室では塾生に課題書の手本を書いてやり、同時に今月号の白鳳(会報誌)を渡す。前回――といっても合宿を挟んだから二週前になるが――の教室で先月の検定書を提出済みなので、やっと今月号の白鳳を渡せる。先に渡すと先月の課題書に今月号の検定票を添付して提出する奴が出て来るので、課題提出以降でなければ渡さない様にしているのだ。今月は特進検定月だから皆、頑張る様に。


 特進検定月について説明すると、通常検定は一階級ずつしか昇級・昇段出来ないのに対し、特進検定は二階級特進もあり得る検定の事だ。白鳳書道会の検定では半年に一度、二月と八月が特進検定月になっている。二階級特進出来ないまでも、通常の一階級昇進もしやすい月であり、ある意味お目こぼしの検定月なのである。尚、検定を受ける書に添付する検定票は白鳳の巻末に付いているのだが、普段400円の白鳳が特進月は600円になるのは何とかならんもんかね。白鳳自体が通常月より増ページになっているからという理由だそうだが、どう考えてもいい訳だろう。値段が高い言い訳として増ページした感がありありだ。素直にお目こぼしの為のお布施って言ってくれた方がすっきりするんだがなぁ。皆、気付いてるんだから。


「お願いします。」


 彩音が白紙の半紙を持って、俺の席までやって来た。新しい手本を貰う為だ。今月の六年生の課題は……「夏雲(かうん)奇峰(きほう)」か。夏らしい課題を持ってきたな。


「わっ、何ですか、この課題は。」


「『かうんきほう』と読む。夏の雲、つまり入道雲だな、それが奇妙な峰の様に連なっているって意味だ。」


「これはちょっと難しいかも。」


「全体的に画数が多いからな。ごちゃごちゃしてる分、バランスが難しいってのもある。今回は特進月だからな。課題もちょっと難しい物になってる様だな。」


「とくしんづき?」


「普段は一階級ずつしか昇級出来ないけど特進月は二階級特進の可能性があるんだ。例えば彩音は前回七級天で検定を受けた。もしそれが受かってたら次は六級地になるんだが、六級地で特進検定を受けると一挙に五級地まで昇級できる可能性があるって事だ。二階級が駄目でも一階級昇級で受かる可能性が高くなってるから、級を上げるチャンスなんだ。」


「二階級特進って殉職した警官みたいですね。」


「なんでそんな事知ってるんだよ。まぁいい。ほれ、これ今月号の白鳳だ。先月受けた彩音の検定合否結果はこれじゃ無くて来月の白鳳に載る。今月の白鳳の巻末には特進検定用の検定票が付いてるから無くさん様にな。」


 巻末を確認する彩音。ピンク色の検定票を見つけた様だ。


「こないだの検定票は白色だったけど、毎回色が違うんですか?」


「普段は白色だが特進月だけピンク色のものになるんだ。通称、赤札って言ってる。」


 手本と白鳳を受け取った彩音は自分の席に戻ろうとするが、ふいに思い出した様にこちらへ振りかえった。


「忘れてました。新しい筆とか下敷きも欲しいんだった。」


「そういやそうだったな。まず下敷きはうちではこれしか無いからこれな。」


 うちの教室では一般的な、しかし彩音が使ってるのと比べて倍以上分厚い下敷きを棚から出してきた。


「筆は、これとこれと……これだな。とりあえず握ってみて感覚を試してみ。」


 三本程取り出して、彩音の前に並べる。値段はほとんど変わらない。管の部分の太さが若干違うとか、ダルマ構造になってる、なってないの違いとかだ。持ってみて感覚的にしっくりくるものがいいだろう。


「これがいいかな。これにします。」


 三本のうちから一本を選んだ。それか、なかなか玄人好みの物をチョイスするな。


「細筆は……選択肢がほぼ無いんだよな。これにしとき。」


 はっきり言ってどれも同じだからうちでも二種類位しか置いていない。「かな」の書を書くなら色々と選ぶ必要があると思うけど、うちでは「かな」はやってないからな。


「あとは墨液と半紙だな。墨液はでかいの買って教室に置いておくことも出来る。小さいのは書道セットカバンの中にも入るから学校に持って行くとき重宝する。」


「大きいのと小さいの、一つずつ下さい。大きいのは教室に置いときます。」


「あいよ、置いとく分のボトルには名前は書いとけよ。」


「硯は今のでもいいんですかね。」


「問題無いと思うぞ。もし墨液じゃなくて墨を磨って書く様になったら硯も考えた方がいいけど、そうなるのは少なくとも高校生以上になってからだろう。半紙はどうする? 五十枚単位で買えるぞ。とりあえず百枚位いっとく?」


「箱買いとかすると安くなるとかありませんか?」


「箱買いは出来るけど殆ど安くならないぞ。うちでは五十枚で200円、一枚当たり4円なんだけど、一箱は千枚で3,900円だからな。2.5%しか安くならない。あと一箱分千枚の半紙は結構重たい。持ち帰る時はそれなりの準備をしとかないと後悔する事になる。」


「一箱分買っといて、書道セットのカバンに補充しつつ、教室で足りなくなったら五十枚単位で追加購入ってのがいいんですかね。」


「あぁ、塾生の半分はそんな感じじゃないかな。残り半分は値段がほとんど変わらないから無くなったら五十枚買うってやってると思う。」


「箱は後日にするとして、とりあえず百枚で。」


「毎度あり。となると……下敷き400円、筆が1,500円、細筆300円、墨液400mlが800円、200mlが500円、半紙百枚で400円、合計で3,900円か。これは来月の月謝と一緒に集金する事になるからそのつもりで。保護者には予め言っといた方がいいと思う。」


 やれやれ、消耗品には何かと金がかかる。こればかりは仕方がない。


「ピアノにかかってたお金を思えば安いもんですよ。」


「あー、そうか。ピアノレッスンって時間当たりの単価が高そうだもんな。防音とかもあるからスタジオでやんなきゃだし、基本的に先生と生徒の一対一だろ。そりゃ金かかるわ。」


 彩音の妹もピアノやってて、弟はリトルリーグで野球やってるって言ってたな。野球も道具やらユニフォームやらで金かかりそうだな。書道は習い事の中ではそんなに金がかから無い部類に入るのかもな。竹内の婆ちゃんが昔やってたそろばん塾はそんなにお金かかりそうな要素が無いな。いや、俺が知らないだけかもしれないが。


 何はともあれ、書道教室と修道教室の日常が戻って来た。子供達が夏休み中だから、彼らにとってはまだその感覚は無いのかもしれないが、俺としてはいつもの風景に溶け込める事にホッとするのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。本日で投稿初めてちょうど二か月になりました。今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ