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小六編 第64話 日常への復帰

 怒涛の合宿とその余波――毎夜の麻雀と静に引っ張り回された件だ――が終わり、久しぶりにぐっすり寝ることが出来た。今日も終日ゴロゴロしたいところだが午後三時からは修道教室で教室を開けなきゃならん。それまでは比較的ゆっくり出来るから少しずつ合宿の片付けをしておこう。まずは廃棄物の仕分けだな。


 一番の大物は流しソーメンで使った竹の樋だ。今年は他の行事――地域のイベントとかだな――に貸し出す事を考えてるから、例年の様に竹内家の竹林に捨てに行く訳にはいかない。寿命としては一年がいい所だろうから最終的には捨てるんだけどな。とりあえず保管しとかなきゃならんが分解しても二メートル半あるからなぁ。衛生面のこともあるから野ざらしは避けたい。いっそ二メートル半をさらに半分に切ってしまおうか。それなら倉庫に入る。そうしよう。早速のこぎりでギコギコ切断する。切ったはいいが、これつなげる時どうするんだ。まぁいい。後で考えよう。何とかなるだろう。ならなくても今年の貸出しは無しにして捨てちまえばいいのだ。一メートルちょっとの長さなら捨てに行くのも楽だし。


 次は昼飯で使った紙皿や紙コップの整理だ。軽く洗って同じ物を重ねさせておいたのでそれをガムテープ――というかクラフトテープだな――で貼ってばらけない様にする。クラフトテープでの固定なら古紙扱いで回収業者も引き取ってくれるだろう。


 そして割り箸、四日目までの箸は五日目のバーベキューで燃料として燃やしてしまったが、五日目で使った物は当然ながら残っている。これも軽く洗ってまとめさせておいた。次回のバーベキューの燃料として倉庫で保管だ。


 燃料と言えば燃え残った薪と炭の始末というか保管をどうしよう。とりあえず水をぶっかけて残り火で再燃しない様な処置だけしてあるが、よく乾燥させなきゃならんな。乾燥後の保管は蓋つきの一斗缶なんかに入れとけばいいと思うけど、ああいうのってホームセンターで売ってるのかね。うちの実家では蓋つき一斗缶に米とか入れてた。ホームセンターに無くても農協とかで買えるのかもしれないな。最悪ネットでなら買えるだろう。軽くても(かさ)があるから送料が高そうだけど。


 あとはプラスティック製のスプーンか。最初は再利用しようと思ったが明里の進言により廃棄する事になった。ビニールなんかと一緒に廃プラスティックゴミとして出すしか無いな。廃プラ回収の日は……明後日か。忘れずに出す事にしよう。


 今思ったのだが、割り箸やプラ製スプーンはコンビニとかで弁当買うと付けてくれるよな。俺は貰ってもゴミになるだけだからと思い、いつも「要りません」って言うのだが、あれを貰って使わずに保管しとけば合宿で使えるんじゃないか? 例えば一週間に一回、コンビニやほか弁で弁当買うとして一年で約五十膳分の割り箸が入手出来る。合宿五日分の割り箸には到底足りないとは思うが、昼飯一、二回分であれば数がそろうんじゃなかろうか。我ながらセコいとは思うが、その分他の事に予算を充てる事が出来る。


 合宿の残務処理をやっているといつの間にか三時になっていた。修道教室の時間だ。子供達がわらわらとやって来た。また日常が戻って来るぞ。


「先生、昨晩はお楽しみでしたね。」


 修道教室再開したばかりで開幕ブッパをかましてくれたのは、そう、彩音である。


「昨晩? 昨日の夜は久しぶりにぐっすり寝たが?」


「ほぉーぉ、それはお一人様だったんでしょうかね。」


「当たり前だろ。誰が居るというんだ。」


「夜中は知りませんけど、昨日若い女の人と一緒にいたでしょう。夕方二人で車に乗ってるところ見たんですけど。」


 どうやら港から隣の市へ向かう俺の車を目撃したらしい。確かにこの辺りを通過したしな。


「あぁ、静の事か。あいつと飯食いに行ったんだ。」


「ほうほう、静さんというお名前ですか。で、ご飯の後は彼女もいただいちゃったという訳ですな。」


「発想がおっさんだな、お前は。そんな訳あるか。飯食った後はちゃんと家まで送って行ったぞ。」


「成程、ご家族公認の仲という事ですね。」


「何の公認だよ。確かにあそこの父親とは知り合いだが。」


「ズバリ、どういうご関係ですか?」


「うちの塾生だ。社会人で土曜の夜の教室に通ってるからお前は会った事無いだろうな。因みに月子の再従姉(はとこ)だ。」


「ツッキー、ツッキー、こんな供述してるけど静さんは先生と付き合ってるの?」


 供述って……俺は容疑者か何かか?


(シズ)ちゃんと先生? 付き合っては無いと思う……多分。」


 歯切れが悪いな。語尾に(意味深)って付きそうだ。


「あいつがいつも突撃して来るんだ。相手するのも大変なんだぞ。」


(シズ)ちゃん、先生にかまって欲しいんだよ。」


「ウザいわ。」


「そう言いながらも相手になってあげるんだよね。」


「かかってこい、相手になってやる、的な?」


「俺はどこのフィンランドだよ。」


「きっとスウェーデン辺り(※)ですよ。」


 (※HOIのメーカーであるパラドックス社はスウェーデンにあります)


 お前、マニアックだな。これに返しを入れて来るとは……


「つまり静さんはソ連という訳ですか。これは手強い。」


「大丈夫だ、大抵の事はねじ伏せられる。時々しっぺ返しを受けるがな。」


「だとすると先生はムーミン谷の悪魔(シモ・ヘイヘ)ポジなんですね。」


「あのゲームにシモ・ヘイヘは出てこないぞ。」


「ごめん、二人が何言ってるのかさっぱり分からない。」


 いいんだよ、月子。分からないのが普通なんだ。寧ろ分かっちゃったらいけない気がする。


「ツッキー、静さんていくつ?」


「確か今年24だったと思う。私らと干支が一緒だから。」


「ぐぬぬ……ますます油断ならない。粛清の嵐が吹き荒れて弱体化すればいいのに。」


「粛清とか物騒だな。お前は一体何と戦ってるんだ。」


「私もグイグイいけばいいんですね。蹴るとか踏むとかして。」


「やめろ!」


「だったらどうすればいいんですか。」


「どうもせんでいい。普通に教室に通え!」


「そんな、このままじゃ……」


「このままじゃ?」


「静さんとやらにオモチャ捕られちゃうじゃないですか!」


「オモチャかよ!」


 グリグリグリ……いつものウメボシをお見舞いする。反省しろ!


「あだだだだ…虐待反対、体罰禁止!」


「うるさい、(ケモノ)にはしつけが必要だ。」


 さらにグリグリ。


「モッチーって…」


 ん、何だ、月子。お前も彩音係としてこのウメボシの刑は覚えておいた方がいいぞ。


「モッチーって先生に十分かまわれてるよね。」


「な……何、だと……」


「形は違うけど本質的には(シズ)ちゃんと同じだと思う。よかったね。かまって貰えて。」


 やめてくれ、静が二人になるとかどんな罰ゲームだよ。

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