小六編 第62話 合宿の余波 侵略的外来種
本日3話目の投稿になります。よろしくお願いいたします。
「さて、うさぎが最も集まっているであろう場所は、休暇村かキャンプ場の辺りだと思うんだが……」
「何か問題あるんですか? 早く行きましょうよ。」
「俺としては旧陸軍の砲台跡も見たい。」
「えー、うさぎモフりましょうよ。」
「うさぎは島中に居るんだから砲台跡にも居ると思うぞ。」
「でもいっぱい居るのは休暇村周りでしょ。」
「そうだな。その辺りに人が居てエサやるから必然的にそこに集まって来るな。」
「今日の本来の目的はうさぎです。」
「それはお前の目的だがな。仕方ない、まずはうさぎだな。休暇村まで行って、帰り道で砲台跡寄ってもいいか。」
「まぁそれ位なら。」
「ではそういう事で。まずは休暇村方面に行こう。」
うさぎ島の港――というか桟橋だな――から休暇村はちょうど島の裏側まで歩いていかなくてはならない。直線距離なら七、八百メートル位だが、高台を迂回した海岸線の道を進むので一キロ以上はあるだろう。何とか頑張って休暇村前の広場に着いた。ここにうさぎがいっぱい居る。というか巣くっている。広場にはボコボコと穴があけられており、それがうさぎの巣なのだ。まさに巣くっているという表現がピッタリである。
「今日は暑いから巣からあんまり出てこないかもしれんな。」
「エサ持ってれば寄ってくるんじゃないですか。」
「午前中ならな。この時間だと観光客からエサを貰ってるだろうから、もう腹一杯になってるヤツはエサでは釣れないぞ。」
「えー、そんなー。」
「狙い目はちっこいヤツだな。弱いヤツはエサの獲得競争に負けるからまだエサを十分貰って無いヤツも居るだろう。」
「成程、巣穴の方へ行ってもいいんですかね。」
「問題無いだろう。巣穴近くの茂みなんかにも涼んでるヤツが居るらしいからな。そいつらが出てくるかもしれん。」
「あっ、出てきた。かわいい。はい、ご飯ですよー。」
何羽かのうさぎがエサを持った静に寄って来た。早く寄越せと言わんばかりに静の足にまとわりつく。
「モフモフー、でもこの調子じゃあっというまにエサが無くなりますね。先生のも下さい。」
「へいへい、俺が買ったエサなんだけどなぁ。」
半分ほど静かに渡して、俺も残り半分をうさぎにやる事にした。こいつら人間を恐れないな。野生を失ってやがる。自分で採らなくともエサ貰えるんだからそうなるわな。動物園の動物と変わらん。
「エサ無くなっちゃった。」
エサが無くなったと見るや否や、うさぎ共は静から離れて次のターゲットに向かっていった。そう、俺だよ。
「こいつら、エサしか見て無いな。所詮は畜生か。」
「先生、うさぎにエサ与えといて下さい。私、食べてる子を後ろからモフりますから。」
「それはいいんだが、俺の方ももうすぐ無くなるぞ……あぁ終わった。」
エサが無くなったらあっという間に離れていった。静は一羽のうさぎを捕まえ様としたのだが、うさぎは彼女の手をスルリと抜けて走り去っていった。
「うー、モフモフタイム終了です。」
「あとはエサ持ってないかと期待して寄って来るヤツを騙すしか無いな。持ってないのが分かったら速攻で逃げるけど。」
「世知辛いですねー。」
「そんなもんだよ。」
「なんでこの島はうさぎだらけなんでしょうね。」
「天敵が居ないのと、苦労せずともエサが手に入るからじゃないか。この島には戦時中、毒ガスの製造工場があって、戦後GHQが接収した時に毒ガスを処分、無毒化する為に色々な処置をしたらしい。その処置の過程で野生生物はほぼ居なくなって、その後にうさぎが連れて来られた。そんでヤツ等は天敵の居ない島で繁殖していったんだな。元々うさぎは多産だしな。最初は数羽だったらしいが今は千羽位居るんじゃないか。」
「成程、そういう歴史があるんですね。」
「因みにこいつらはアナウサギって種類なんだが侵略的外来種に指定されている。この島に限って言えば完全に侵略されてるわな。」
「駄目じゃないですか。」
人に歴史あり、とはよく使われる言い回しだが、島に歴史あり、うさぎにも歴史あり、ってとこかな。
「そろそろ砲台跡に……」
「えー、まだいいじゃないですか。うさぎで癒されましょうよ。」
「俺はこういう遺構とかに癒されるんだよ。」
「へ、変態だ。」
「何を! 失礼な。」
いいじゃねぇか。こういうのが好きなんだよ。
「じゃ俺は砲台跡行くからお前はここに居ていいよ。五時過ぎの船に乗るからそれまではお互いに自由行動って事で。」
「駄目です。だったら私も行きます。」
「別に気にしなくていいぞ。五時に桟橋で集合って事にすれば……」
「それだと意味無いじゃないですか。」
何の意味なんだ? さっぱり分からん。まぁいい、付いてくるなら来ればいいよ。
その後、島の高台にある旧陸軍の砲台跡を見に行った。やはりここは軍事施設の島だったんだな。島中に砲台があったのがよく分かる。戦時中の地図では島の存在自体が消されていたらしいからな。
たっぷりと歴史的遺構を見学出来てかなり満足だ。静は高台に登るのにぶー垂れていたが、時折出て来るうさぎに癒されている様だった。この辺はあまり人が来ない場所だからうさぎもエサを期待して出て来るんだろうな。残念だが俺達にはもうエサは無いのだよ。悪いな。
四時半を過ぎた。五時台の船に乗るにはそろそろ下らなければならない。名残惜しいが仕方ない。というか俺はもう疲れたよ。色んな所に引き摺り回されて……もう帰って寝たい。
五時に間に合う様に桟橋まで戻って来た。よし、帰るぞ。今度は教室の行事で来るのもありかな。電車と船を乗り継いで来れる場所だし。
忘れる所だった。俺、静に奢って貰えてないじゃん。それが主目的だった筈なのに。このまま終わったら許さんぞ。
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