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小六編 第61話 合宿の余波 うさぎ島

本日2話目の投稿になります。よろしくお願いいたします。

 俺は食後のコーヒー、静はスイーツを食べながらこの後の行き先について話し合う。どこへ連れて行けばいいんだ?


「今度は南下して海の方へ行って下さい。船に乗りますよ。」


「車も船に載せんの?」


「車は港の駐車場に停めて人間だけで渡ります。」


「渡るって事は近くの島にでも行くのか?」


「えぇ、うさぎ島です。」


 あそこかぁ……昔行った事あるわ。船で、というか舟で。手漕ぎボートに無理矢理帆を張ったなんちゃってヨットでな。風向きにもよるんだけど、行きは一時間半、帰りは三十分で海の上を走った――行きは漕いだ――記憶がある。


「静さん、何度も言うようですが現金持ってませんので……」


 この辺の近場の島々を結んでいる船は現金のみだ。船も交通機関なんだから交通系電子マネー位導入して欲しいものだ。


「港の駐車場は無料(タダ)です。船賃は往復でも一人千円もしませんからそれ位私が出して差し上げますわ。」


 偉そうに……ありがとうございます。静さん。ところでここの払いは……あっ、俺ですか。そうですよね。ありがとう、電子マネー。船には乗れないけどご飯は食べられるよ。


 昼飯を食い終えて港を目指す。ここからだと大体三十分位か。港に着く頃には二時位になってるんじゃないか? 帰りの船の時間も確認しとかなきゃ。島で置き去りになっちゃかなわん。おっと、そろそろ着くな。


「あっ、そこのコンビに寄って下さい。」


「何だ? トイレか?」


「もぉ、何でそんなにデリカシー無いんですか。違いますよ。うさぎのエサ買うんです。」


「最近のコンビニはうさぎのエサなんてニッチな物売ってんのか?」


「この港のそばのコンビニならではですよ。うさぎのエサって言っても野菜くずですけどね。」


「成程、そういう需要に合った供給元があるんだな。」


「ところで先生、コンビニですからクレカや電子マネーが使えますよ。」


「エサ代も俺が出すのかよ!」


「船代とバーターという事で。」


 随分と都合のいいバーターだ事で。まぁいい。またもや電子マネー大活躍だ。船には乗れないけどうさぎのご飯は食べられるよ。


 港の駐車場に停めて船のチケット売り場に行く。うぉ、何だ、いつの間にか小奇麗になってる。昔は小汚い小屋みたいなもんだったのに。オシャレなカフェや売店まで併設してやがる。偉くなったもんだな。うさぎ島のおかげか。


 静さん、チケットよろしくお願いしますね。


「うさぎ島まで大人二枚、往復で。」


「はーい、1,480円ね。旦那さんとデート? いいわねぇ。」


 このおばさんは何を言ってるのだろう。


「「違います!」」


 見事にハモった。そうだ、違うぞ。ちゃんと否定しとけ。


まだ(・・)夫婦じゃありません!」


「あら、ごめんなさいね。うふふ。」


 あれっ? 何かおかしいな。まぃいい、下手に言い訳すると藪蛇になりそうだ。ここはスルーしとこう。静は怒ってるんだか笑ってるんだかよく分からない顔をしている。うん、これもスルーだな。


 おっと帰りの便の時間も確認しとかなきゃな。えーと、五時位迄は三十分毎位で以降は一時間毎位か。最終は七時過ぎか。最悪でもこれに乗らなきゃならん訳だな。今の時間は二時か……次のうさぎ島行の船の出航時間はもうすぐだな。向こうに二時半位に着いて、帰りの船の時間が五時位だとすると島には二時間半位居られる訳だ。一本遅らせば三時間半、十分だろう。


「もうすぐ出航だ。桟橋まで出るぞ。」


「はい、これ先生のチケット。それとこれも。」


「うさぎのエサも俺が持つのかよ。まぁいいけど。」


「食べちゃ駄目ですよ。」


「食わねぇよ。」


 グダグダ言いながら船に乗る。うさぎ島までは十五分位だったな。


「うさぎ島、行った事あるんですか?」


「昔な。当時の会社の人とな。」


「やっぱりこの船で?」


「船は船だが……ボートだな。ヨット擬きで行ったんだ。」


「ヨット? 先生ヨット乗れるんですか?」


「会社の知り合いがちょっとな。ヨットつっても皆が想像する様なもんじゃないぞ。ほぼ手漕ぎボートだ。それにちょっとした帆が張れる様になってたんだ。」


「速いんですか?」


「うさぎ島まで行った時は行きが逆風でな。殆ど手漕ぎで一時間半位かかった。帰りは追い風で三十分で帰って来た。」


「色んな事やってるんですねぇ。」


「若い時だからな。今ならやろうとは思わんがな。」


「当時からうさぎも居たんですよね。」


「あぁ、島のいたる所に居るからな。何羽かは見たな。ただ行きの漕ぎで疲れてな。うさぎを愛でるとかそういう元気が無かったわ。当時はうさぎの島ってそんなに知られていなくてな。俺も実際島に行ってから知った様なもんだったし。結局島に居たのは三十分位で速攻で帰ったわ。下手すると帰りも漕がなきゃいけないと思ったからな。早めに帰りつかないと暗くなるし。だからうさぎ島は今回が実質初めての様なもんだ。」


「エサ持ってると寄ってくるみたいですし、モフモフして癒されましょう。」


「癒されるかねぇ。うちの実家で飼ってた事あるけどあんまりそういう風には思わなかったな。」


「飼ってたんです? うさぎを?」


「あんまし覚えてないんだよなぁ。いつの間にか居て、いつの間にか居なくなってたなぁ。多分すぐ死んじゃったんだと思うけど。小さい頃なんで殆ど記憶に残ってないんだ。うちじゃ鶏とか豚とかも飼ってた、というか家畜としてだな、なんでペットというのに馴染みが無くてな。鶏は卵産んでくれるからいいぞ。だから卵なんて買った事無かったわ。あと米もな。米は買うもんじゃなくて作るもんだったからな。」


「そ、そうですか……」


 なんか呆れられてしまった。いいじゃん。日本人の主食は米だぞ。それを支えてるのは米農家だ。だから日本じゃ米農家が一番偉いんだぞ。


 うさぎ島へ着いた。こっからは静曰くモフモフタイムだそうだ。俺としてはうさぎより旧日本軍の砲台跡とか見てみたいんだけどな。

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