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小六編 第59話 合宿の余波 先にシャワー浴びて来いよ

本日2話目の投稿になります。よろしくお願いいたします。

「トゥルトゥトゥトゥントゥトゥトゥン、トゥントゥトゥトゥン……」


 スマホが鳴っている。眠い……


「むぉしむぉし……」


「おはようございます! 起きてますか。」


「寝てます。あと五時間程寝させてください。」


「何ふざけた事言ってるんですか。起きて鍵開けて下さい!」


 えー、起きなきゃ駄目かな。


「起きて来ないと隣で鍵借りて押し入りますよ。」


「出来るもんならやってみろよ。婆ちゃんに何て言い訳するつもりだ。」


「約束してたのに電話かけても出ないから、中で死んじゃってるのかもしれないって言います。」


「勝手に殺すな。仕方ないなぁ……」


「最初から素直に出て来ればいいんですよ。」


 よろよろと立ち上がり、玄関まで出ていく。鍵を開けると静が飛び込んできた。


「はい、確保ー! 捕まえました。」


「俺は犯罪者か。とりあえず放せ。」


「逃げないでしょね。」


「どこへ逃げるというんだ。それに何で逃げなきゃならん。」


「何ですか、だらしないカッコして! どうしてちゃんと準備して無いんですか。私十時に来るって言ってたでしょ。」


「寝てるだろうから起こしてくれって言っただろ。」


「早く準備して!ほら、顔洗って着替える!」


「お前は俺のオカンか。まぁ待て、今からシャワー浴びるから。」


「先にシャワー浴びて来いとか、ど、どういうつもりですか!」


「言ってねぇ!」


 静に追い立てられる様に準備をする。シャワー気持ちえぇ……少しは眠気が覚めたかな。


「ようやく出てきましたね。はい、出かけますよ。」


「何でそんなに急ぐんだ?昼まであと一時間以上あるじゃないか。」


「私が奢るんだからスポンサーには逆らわないで下さい。」


「奢られる権利は放棄してもいいんだが?」


「駄目です。おとなしく奢られて下さい。」


 へいへい、分かりましたよ。じゃ、とっとと行くか。


「ちょっと待って下さい。その格好で行くつもりですか?」


 Tシャツに短パン、足は裸足でサンダル履き、夏なんだからこれでいいだろ。


「せめてGパンとかに穿き替えて下さい。それと靴下も履いて。」


 えぇー、靴下嫌いなんだよ。俺は冬でも基本的に素足なのだ。


「サンダルも駄目です。ちゃんとした靴にして下さい。」


「スニーカーでもいい?」


「Gパンですからそれには目を瞑りましょう。」


 最近サンダルばかりだから、たまに靴履くと靴づれ起こすんだよな。


「では先生の車でドラ……ご飯食べに行きましょう。」


「お前、今ドライブって言いかけなかったか?」


「さぁ、どうでしたかね。」


 こいつ、飯奢るとか言って俺に運転させてドライブに行こうとしてるな。


「で、どこに行けばいいんだ?」


「先生は知る必要がありません。」


「何でだよ。俺が運転するんだから知っとかなきゃならんだろ。」


「私が都度方向を指示しますのでそれに従う様に!」


 解せぬ……偉そうに。


「それでは出発進行!とりあえず国道を西へ向かって下さい。」


「へいへい。」


 既に気分は諦めモードだ。


「ところで勝人さんにはちゃんと金返したんだろうな。」


「金融機関が休みなので明日、口座からおろして払いますよ。」


「本当に現金持ってないんだな。まぁ俺もそうだけど。」


「今日行く予定の所はカード使えますから安心していいですよ。」


「安心するのは俺じゃなくてお前だろ?」


「そう言えばそうですわね。」


 怪しい……何だかんだ言って俺に金出させるんじゃ無いだろうな。


「あっ、そこを右に行って下さい。」


 国道を右に折れて少し細い道に入る。細いと言ってもちゃんとセンターラインもあって、車のすれ違いには問題無いレベルの道だが。


「そこを左ですわね。」


 さらに細い道に入った。センターラインは無い。なんかどんどん寂しい場所に入って行く。この辺に店なんかあるのか?


「今気づいたんだけど……」


「何でしょう?」


「これ、このまま進むと所謂(いわゆる)宿泊施設(ラブホ)に行く道なんだけど……」


「なっ! 何て事言うんですか! また先にシャワー浴びて来いよとか言うつもりですか!」


「言ってねぇし言うつもりも無いわ!」


 こいつの目には俺はどういう風に映ってるのか。誠に心外である。


「確かにあの建物の横を通りますが、目的地はもっと先です。」


「その先? 何かあったっけ?」


「行けば分かりますよ。」


 ソウデスカ……


「そこを左折です。」


「あれっ、ここって……」


「ここが最初の目的地になります。」


「佛生寺じゃねぇか。ここで飯食えんの? それに最初の目的地って……」


「ここはお寺ですよ。ご飯食べられる訳無いじゃないですか。」


「おい、飯奢ってくれるんじゃなかったのかよ。」


「奢りますよ。夕飯で。」


手前(てめ)ぇ、夜まで俺を引っ張り回すつもりかよ。」


「奢るのは夕飯ですからお昼は先生が出してくださいね。」


 何てこった。おのれ、謀ったな!シャア(しずか)


「じゃぁここは何で来たんだ。」


「いやですね、ドライブの目的地の一つ(・・)として立ち寄っただけじゃないですか。」


 こいつ、もう隠す気は無い様だな。そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ。


「ここは臨済宗の寺院で、昔はその中でも大きな派閥の本山でもあった由緒あるお寺だ。多宝塔とかが有名で国の重要文化財にも指定されている。紅葉シーズンには県外からの参拝客も多い。」


 観光ガイドに徹してしまう俺であった。

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