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小六編 第57話 合宿の余波 ラスの代償

 真っ白な牌、もとい灰になった静を勝人さんが車に放り込む。牌人? 灰人? いや廃人か?


「これから24時間営業のファミレスにでも行って朝食にしましょう。今を逃すとこのメンバーに娘が奢るタイミングがありませんから。」


 勝人さんの提案で俺と直哉も勝人さんの車で朝飯を食いに行く事になった。この辺は田舎だからなぁ。24時間のファミレスというと、車で少し走らなければならない。二、三十分程走っている内に静は何とか復活した。


「あれは無い、あれは無いですわ。」


 まだブツブツ恨み節をほざいてる。麻雀ってのはそういうもんだ。(ハツ)を捨てても加カンしても俺の国士に当たり、あそこは抱え込むしか無く当然その局は静は上がれない。おそらく中盤以降、例えばあと三、四巡位進んでいれば、静も国士聴牌(テンパイ)を警戒して抱え込まざるを得なかった筈だ。結果論だけどな。


 ファミレス到着、朝からそんなには食えないな。ここはモーニングセットとドリンクバー位で勘弁しといてやるか。


「がっつり頼んでもいいんスかね。」


 直哉がそんな事を言い放つ。朝から定食にパスタかよ。若いな、俺はもうそんなオーダーは間違っても出来ない。でもピザくらいは付き合ってやる。皆で食う用にラージサイズを頼んでやった。直哉の分はちょっと値が張るが所詮はファミレスだ。他の三人は軽食プラスアルファ位なので、全部で五千円もいかないだろう。ゴチになります、静さん。


「私が先生に奢るサシウマの分ですけどいつがいいですか?」


「その件だが別にもういいぞ。槍槓役満のご祝儀で免除してやる。」


 どうだ、俺って寛大だろ。ん? なんで慌ててるんだ?


「そ、そうはいきません。是非とも奢られて貰います。」


「その日本語、おかしくない?」


「おかしくありません!先生は黙って奢られていればいいんです!」


 勝人さん、笑ってないで助けて下さいよ。


「明日でいいですか? 明日でいいですね。そうしましょう。」


 いや、俺何にも言って無いんだが……


「まぁ待て、合宿の片付けもあるから。今日中に目途が付けば明日は空くけど、終わんなきゃ明日も片付けだ。」


「じゃ今日の夜、電話しますから明日行けるかどうか返事下さい。」


「面倒臭いからもう奢んなくていいんだが……」


「駄目です、却下です。」


「分かった分かった。返事するから。」


 押し切られてしまった。まぁいいか。


 皆、食べ終わったので帰る事にする。ご会計は静で、ごちそうさまです。


「えっ、クレジットカード使えないんですか?」


 何やらレジでもめている様だ。


「先生、お金貸して下さい。五千円。」


「何でだよ、俺より勝人さんに借りろよ。」


「そう言えばそうですわね。お父さん、お金貸して、一万円。」


 おい、額が増えてるぞ。こいつ、勝人さんから借りてそのまま返さない気だな。


「なんで社会人が五千円ぽっちも払えないんだよ。」


「私、現金は出来るだけ持ち歩かない事にしてるんですの。お財布の中はカードと小銭しか入ってません。」


「それでよく飯代賭けるなんて勝負やったな。」


「負けるつもりが無かったので。」


 そうかい。しかし現金持たず主義か。かくいう俺もそうだ。というより現金決済しかない店を使わない主義と言った方がいいかもしれん。ここ十年位、クレカ、電子マネーしか使ってない。さすがに書道教室に関わる事業決済は現金のものもあるが、それにしたって銀行振込、それもネットバンキングでの振込だ。現金を直に触れる事が無くなってしまった。一万円札や五千円札なんてしばらく見て無いなぁ。今の一万円札の肖像って福沢諭吉でいいんだっけ? 五千円札は新渡戸稲造? 違う? 樋口一葉? そうですか。俺からすれば一万円札、五千円札は聖徳太子で千円札は伊藤博文なんだよ。聖徳太子、復活しないかなぁ。五万円札とか十万円札とかで。最高額紙幣の顔としてはやっぱり聖徳太子でしょ。


 静が勝人さんからお金を借りて――ちゃんと返せよ――支払いを済ませたので、また車に乗せてもらい教室まで帰る。梅宮家に帰るのに遠回りになってしまって申し訳ありません。


「それじゃ勝人さん。ありがとうございます。全自動卓の件、本当によろしいんですか。」


「あぁ大丈夫です。昨日も言いましたけど厄介払いみたいなものですから。お気になさらずに。それでは失礼しますね。」


「先生、夜電話しますからね。ちゃんと出て下さいね。」


「へいへい、じゃぁまたな。」


 梅宮父娘(おやこ)を見送る。


「じゃ先生、俺もこの辺で。」


 直哉の肩をガシッと捕まえる。逃がさん。


「まぁまぁ、ちょっと手伝えや。バーベキューコンロと鉄板、玄田家へ返すところまででいいから。」


 鉄板が重たいんだよ。一応、昨日のうちに掃除してきれいにはしてある。あと飯盒も返さなきゃ。玄田家のものを俺の車に積み込む。美沙恵さんにこれから返しに行きますって電話しとくか。


「積み込み完了っス。朋照んちまで行くんですよね。そこまでは俺、自分の原チャリで行きますわ。荷降ろしやってそのまま帰ります。」


「おぅ、悪いな。じゃ行くか。」


 直哉と一緒に玄田家へ行く。バーベキューコンロ、鉄板、飯盒など、玄田家から借りていたキャンプ用品の返却、美沙恵さんと明里にあらためてお礼をした。


「今回も色々とありがとうございました。朋照はまだ帰って来てませんか。奴にも俺がお礼言ってたと伝えて下さい。」


「先生もお疲れ様でした。来年も必要な様でしたら言って下さい。また貸出しますので。」


 美沙恵さんからありがたいお言葉を頂く。来年もやるのかぁ……やるんだろうな。直哉とはその場で解散、五日間……というか今日を入れると六日間だな、ありがとう。俺も帰って休もう。まだ片付けする事はあるけど、細かい作業だけだし平日の午前中に少しずつやっていけばいいだろう。玄田家への返却が一番大きな仕事だったしな。徹夜明けだし帰って爆睡だ。

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