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小六編 第50話 合宿四日目 静参戦

本日2話目の投稿になります。よろしくお願いいたします。

 教室に戻ると子供達は帰り支度を始めていた。一応、先程の泉谷校長との交渉結果を伝える。


「小学校のプール使用の件だが、予想通り駄目だった。今はプールの浄化装置を停めてるそうで、すぐには再稼働出来ないらしい。」


 あからさまに皆がっかりしてるな。


「なので小学校のプールは無しだ。グラウンドでも言ったが明日までにやりたい事を考えて来てくれ。その内容をこの黒板に名前と一緒に書いていってくれ。今日書いても構わんぞ。一人で三つ位なら書いてもいい。同じ内容の物が既に黒板に書かれてたら名前だけ追加で書いてってくれ。例えばこんな感じだな。」


 俺はチョークを手に取って黒板に「キックベースボール」、「ドッヂボール」と書いた。それぞれの後ろに名前を書くスペースを空けてある。そして適当な名前をそこに例として書いていった。


 キックベースボール 山田 佐藤 鈴木 近藤


 ドッヂボール    鈴木 木村 山田


「この場合は山田君と鈴木君はキックベースとドッヂをやりたい訳だ。両方やれるかどうかは分からんがな。この下に自分がやりたい事と名前を書いていってくれ。明日の、そうだな、十時迄で締め切ろう。今日来ていない子がいたら教えてやってくれ。一応言っとくと、最多得票数の物をやるという訳では無いぞ。希望人数は参考にはするが、費用や人数の事もあって現実的では無い場合もあるからな。」


 子供達には今日はこれで終わりと告げ、帰宅を促す。何人かは黒板に群がってやりたい事を書いている様だ。おっと、明日の昼飯の事を決めとかないとな。


「明日はバーベキューでいいんですか?」


「おう、明里、すまんがそれで頼む。二回目だから大体分かるだろ。」


「前回の反省点として、肉が少なかったかと……主に朋照(とも)の意見では。」


「そうだな。その分、朋照が焼きそば焼いてくれたからな。」


「明日の人数は?」


「えーと、前回のバーベキューの時よりは少ないが、子供とお手伝い要員を合わせるとそれでも30人になる。食材は前回と同じ位でちょうどよくなるかな。」


「焼きそばや野菜は減らして肉を多くしましょう。こっちもその方が楽です。お金はかかりますけど。」


「最終日だし、ちょっと豪勢に行くか。前回の食材は35人で一万六千円位だったっけ?今回は30人で二万円の予算で頼む。高い肉である必要は無いが、とにかく量を重視で。」


「それ予算オーバーになりません?」


「今日までで浮いた分があるからそれ位なら大丈夫だ。ほれ、二万円。」


「そういう事ならまぁいいですけど。」


 明里と簡単に打ち合わせをして明日の食材やらの段取りを決める。この後は例によって大人の打ち上げだな。お疲れー、カンパーイ!


 夜七時を回ったころだった。


「先生、来てあげましたよ。感謝して下さい。」


「出たな、静。昨日まで来なかったから今年はもう来ないと思ってたぞ。」


「仕事が立て込んでましてね。今日もヤバかったんですが何とか抜け出せました。」


「で?差し入れは?」


「むぅ、まるで私の存在意義が差し入れだけになってませんか?」


「気のせいだ、気にするな。」


「まぁいいです。勤め人の財力、思い知りやがれです!」


 パーティー寿司の皿が、三つ。


「ドン、ドン、ドドーン」


 ご丁寧に自分で擬音まで叫びながら大そうなこった。


「フフン、(ひざまず)きなさいな、庶民!」


「へへー。」


 朋照と直哉が土下座する。お前らノリいいな。


「二人ともそれ位にしておけ。あんまり付き合ってやってるとクセになってつけ上がるからな。」


「ちょっ、そんな言い方は無いでしょう!」


「事実だ。まぁ差し入れは感謝してやる。」


「何故に上から?」


「それよりお前、麻雀出来たっけ?」


「一応は。お父さんが好きなので教え込まれました。家族麻雀レベルですけど。それが何か?」


「いや実は今年は打ち上げの後、こいつらが、というか直哉がだけど、麻雀やりたいそうで毎晩やってるんだ。今日は偶々予定してたOBが参加出来なくなって、どうしようかと相談してたんだが……お前がよければやらない?」


「明日も仕事があるので遅くまでやらないのであれば、やってやらん事も無いですわ。」


「偉そうに……何時迄なら大丈夫だ。」


「そうですね。十一時迄なら何とか。さすがにそれ以上はキツいですわ。」


「だそうだが?」


「あざーっす! お願いします。」


 さっきまで土下座してた直哉が今度は五体投地だ。


「一応賭けてはいないけど、ラス引いたものがトップ獲った者に千円以内で飯を奢るって事にしている。それでいいか?」


「それ位、勤め人である私には何とも無いですわ。かかって来なさいませ。」


「ほーかほーか。これがうちの麻雀のルールだ。一応、目を通しておけ。意味が分からん所があれば説明してやる。」


「ふんふん、ぬるいルールですわね。」


 なんでこう高飛車なんだろうな、こいつは。


「じゃ、九時位になったら始めるからそれまではゆっくりしてくれ。皆で寿司食おう。せっかくの差し入れだからな。」


「遠慮なく食べて下さい。私に感謝しながら!」


「へいへい。感謝いたしますよ。」


 八時半ともなると麻雀メンバー以外のOBは全員帰宅してしまった。


「ちょっと早いが始めるか。今日は静の都合に合わせるから、十時半の時点でやってる半荘で終わりにする。」


「先生、先生、やるのはいいんですけど麻雀卓は?」


「そこにあるだろう。真四角テーブルと麻雀マット。」


「えっ?麻雀って専用の機械があるじゃないですか。自動的に山作ってくれる機械。」


「それは全自動麻雀卓だな。そんなものはうちには無い。」


「じゃあ、どうやって山作るんですか?」


 ま、まさか……


「お前、まさかとは思うが手積みの麻雀やった事無いの?」


「手積みって何ですか?まさかあの山を自分の手で積んで作るんですか?」


「当たり前だ。そもそも昔は、というか今も家庭じゃそれが当たり前だ。雀荘でもあるまいし。」


「うちでは機械がやってくれますよ。というかそれが普通だと思ってましたけど。」


 くそー、ブルジョワめぇ。まずは手積みから教えんとならんとは……。


「とりあえず手摘みが出来る様になれ、そして慣れろ。」


 洗牌(シーパイ)(牌をかき混ぜる事)、そして17牌を2段、34牌を手元に集めて自分の前に突き出し、一段をもう一段の上に積み上げる事を教える。案の定、崩しやがった。


「17牌なんて数えていられませんわ。」


「そこは適当でもいいよ。14牌でも20牌でもいいから。やってる内に感覚が掴めてくる。それと上の積む一段は小指も使って支えるんだ。そうするとうまく持ち上げられる。」


 やれやれ、こんなんでまともな麻雀が出来るのかね。


 まともじゃなかった。静の一人勝ちだった。茉実(まみ)の時みたいなビギナーズラックなのか? 或いは仕込んだ勝人さん――静の父親――が優秀なのか。捨て牌だけしか見て無いけどどちらかと言うと単に手なりで打ってるだけの様に見えるんだがなぁ。天性の勘みたいなもので手を作って捨牌を決めてるのだろうか。


 結局俺がラスを引いてしまった。あの静の勝ち誇った顔! ムカつく!

最後までお読みいただきありがとうございます。ブックマーク、評価、感想等いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。

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