小六編 第41話 合宿二日目 意地の悪い問題
本日2話目の投稿になります。よろしくお願いいたします。
火曜日、合宿二日目だ。今日のスケジュールとしては、午前はいつも通り宿題、勉強の時間、昼飯は流しソーメン、午後はハイキング(プチ登山)を予定している。昨日の午後は自由時間だったので教室に残っても良かったが、今日は原則全員野外活動だ。
「そう言えば忘れていた。彩音、先日の検定は七級天で出しといたから。」
「あぁ、そんな話もありましたね。」
「何だ、あんまり興味なさそうだな。とりあえず合宿で伝えるって約束だったんでな。」
「それより午後からの予定ですよ。登山とかダルいんですけど。」
「大した山じゃないから頑張れ、頂上からは市内と海が一望できるぞ。」
「えー、引き籠ってBL描きたい。日光浴びると溶けちゃう。」
「お前は吸血鬼か。いいから登れ! 小さいのも全員登るんだから。五六年生は班長、副班長やってもらうから小さいのの面倒見るんだぞ。」
「うちの班は幼女多めでお願いします。」
「幼女言うな。班構成は名簿順に割り振るから誰が班員になるかは運次第だ。」
彩音の方は放っておいて流しソーメンの準備だ。
「明里は食材買って来てくれ。今日は美沙恵さんは居ないのか?」
「お母さんは今日は来れないそうです。車が無いから誰か荷物持ち付けて欲しいです。」
「分かった、男と女、どっちがいい?」
「どっちでもいいけど、女の子なら二人欲しいです。」
「そうか、今日は茉実が来てたな。一人はそうするとしてもう一人は……理恵にしよう。」
岡林茉実は直哉の二歳上の姉だ。今日の麻雀メンツ――と直哉が勝手に言っている――になるらしい。猪俣理恵も茉実と同い年で、茉実が声をかけて引っ張り込んだらしい。
「今日の費用はどれくらい必要だ?」
「買うものはソーメン70束と薬味だけなんで五、六千円じゃないでしょうか。」
「じゃ一万円渡しとくわ。それと悪いが500mlペットボトルの麦茶10本程買って来てくれ。登山の人数が予想してたより多くなって、事前に準備しといたのだけじゃ足りなくなった。」
「500mlを10本じゃ5㎏になるじゃないですか。」
「その為の荷物持ちだろ。すまんがよろしく頼む。」
「むぅ……まぁいいですけど。」
「うちの車、貸してやろうか?」
「先生の車、MT車じゃないですか。私AT限定免許なんで。」
「茉実と恵理もそうなのか?」
「確かそうです。恵理ちゃんに至っては原付だけで車の免許は持ってないんじゃないかな。」
「そっかー、よく考えたらうちの車にかけてる保険は30歳未満対象外だったわ。」
「30歳未満は運転出来ないんですか?」
「運転してもいいけど30歳未満の者が運転して事故った時に保険が下りないんだ。若い奴の事故率が高いから年齢制限を設ける事によって保険料が安くなる。そういう風になってるんだ。うちは俺しか運転しないから30歳未満は対象外の契約にして保険料を安くしているんだ。これを30歳未満不担保の契約って言う。」
「そうなんだ。」
「玄田家も今は家に居る免許保持者が全員30歳以上だけど来年はお前が帰って来るだろ。そうなるとお前が30になる迄は車の保険料が高くなる筈だ。お前が運転しないのであれば30歳未満不担保で契約してもいいとは思うけど。」
「えー、そうなるんですかぁ……」
「今22歳だっけ?保険会社にもよるけど、26歳未満不担保とか21歳未満不担保の区分もあるから、とりあえずは21歳未満不担保での契約になるんじゃないかな。年齢制限無よりは安くなって、26歳でまた安くなる、って感じかな。」
「私、休みとかでこっち帰って来た時、家の車運転してるけど契約どうなってるのかな。確認しとかないと。」
「明衣とか朋照も居るから年齢制限無の契約にしてる可能性もあるな。確認しといた方がいいぞ。」
「そうですね。ありがとうございます。勉強になります。」
自動車保険なんて自分で契約に関わってないと意識しないからな。学校を卒業するとこういう社会の仕組みに触れる機会が多くなる。社会勉強とはよく言ったものだ。
「じゃ、食材の買い出しよろしく。ソーメン湯がくのは直前でいいぞ。あんまり早いと傷むからな。」
俺は一応流しソーメンの水路を確認しておくか。昨日テストしたけど水の流れだけでも再度確認しておこう。水路自体は問題ないんだけど、竹の樋)に水を供給するのがどうにもスマートじゃない。上水道からホースで引っ張って来るんだけど上水道の蛇口は家の中にしか無い――屋外設置の蛇口は井戸水だ――からな。上水道も屋外設置の蛇口付けようかな。大家さんである竹内家の了承が必要になるな。まぁ許可はしてもらえるだろうけど。屋外に上水道があれば流しそうめんだけでなく、庭で調理やバーベキューする時にも活用出来るな。工事の見積もりだけでも取ってみるかな。
子供達の宿題は順調かな。分からない事があったら上の者や大人に質問しろよ。その為の合宿だ。月子がやってるのは分数の足し算か、どれどれ……
1/6 + 1/12 + 1/20 + 1/30 = ?
これは…あの問題か。すぐ上を見ると
1/2 - 1/3 = ?
という所謂導入問題で、月子はすでに1/6という答えを書いていた。
月子は力業で最小公倍数である60を分母にして一生懸命計算している。
「月子、それはもっと簡単に解けるぞ。」
「どうやって? 分母を揃えて計算するしかないんじゃないの?」
「一つ上の問題見て見ろ、答えが1/6になってるだろ。そこから何か気付かないか?」
「下の問題の最初が1/6だけど……分かんない。」
「1/6の6は2×3だな。6は2と3の公倍数でもある。だから3/6と2/6にして計算したんだよな。同様に12は3×4だな。という事は1/3-1/4はどう計算する?」
「えーと、4/12-3/12=1/12かな。」
「1/12が出てきたな。次の1/20は?」
「4×5=20だからひょっとして……1/4-1/5=5/20-4/20だから1/20!」
「同様に1/5-1/6=1/30だ。この問題を書き換えるとこうなる。」
1/6 + 1/12 + 1/20 + 1/30
= (1/2-1/3) + (1/3-1/4) + (1/4-1/5) + (1/5-1/6)
「で、1/3、1/4、1/5は足し引きされて消えるんで、1/2-1/6だけが残る。」
「そうなると3/6-1/6=2/6=1/3が答え?」
「正解!」
しかし意地の悪い問題だな。導入問題があるだけまだマシか。こういうのは普通、私立中学の入試なんかで出る位なんだがな。馬鹿正直に60を分母にして計算したら減点対象だったりして。さすがにそんな事は無いか。




