小六編 第35話 検定書送付
今月最後の書道教室を終え、検定に出す書を整理する。念の為、受ける級・段を確認しながらだ。来月号の白鳳片手に検定票に書かれた級・段を照らし合わせ、間違いが無いか、六十枚程の書をチェックする。うちの教室には七十人ほどの塾生が居るが、一般の塾生の中には検定を受けない者が数名居るのでこの数になるのだ。滅多にない事だがこの最終チェックで誤った級・段が書かれた検定票が、年に数回ではあるが見つかる事がある。最近ではうちの教室内での多重チェックのシステム化が進んで来ているので、本当に数は減ったのではあるが。
これを白鳳書道会の本部に郵送しなければならない。以前は簡易書留で送っていたのだが、最近はレターパックだ。レターパックプラスなら書留と同様、受領確認してくれるし――レターパックライトは送り先の郵便受けに配達するだけで受領確認は無し――簡易書留と料金は変わらない。寧ろ六十枚位の書を送るのであればレターパックプラスの方が若干安価な位だ。専用のパック(箱)になっていてそのパックを購入する事により料金を支払う仕組みなので、別途封筒や切手等を用意する必要が無いのもいい。簡易書留の強みは最大五万円までの補償が付く事だが、そもそも検定を受ける(ほぼ素人が書いた)書に実際に補償金が支払われる筈も無く、受領確認してくれる配送方法なら何でもいいのだ。それにレターパックプラスは速達扱いだしね。簡易書留で速達にしようとすると追加料金を取られてしまう。尤もうちと白鳳の本部の距離では速達にしようがすまいが、翌日には着いてしまうから速達の意味自体が無いんだがな。
六十数枚の書をレターパックに詰め、表の宛先に白鳳書道会の住所を手書きで書く。印刷した宛名ラベルを貼るという愚行は行わない。何故なら単純に宛名ラベル自体が高いからだ。10ラベル/1枚が10枚になった100ラベルのセットで1500円から2000円位、つまり1ラベルあたり最低でも15円以上かかるのだ。何十件、何百件もある住所に送るのであれば、手間や効率を考え、コストには目を瞑って宛名ラベルを使うという選択肢もあるだろう。しかし月に一回送る相手に態々そんなコストがかかる事はしない。さらに言うなら俺は、住所録データベースからWordの差し込み印刷機能を使って封筒や葉書に直接印刷するシステムを何年か前に作った。これも宛名ラベルが高いから何とかならんかなと思い作った経緯がある。コストに目を瞑ってラベルに印刷しても結局は封筒なり葉書なりに貼る手間がかかる。それなら直接印刷しちゃえという訳である。これでラベルのコストも貼る手間もかからない。今思ったが住所録データベースはExcelで作ったな。これもAccessにすれば将来何かの機会に他システムへの転用、応用が利くかもしれない。
本部に送るレターパックの準備が出来た。あとはこれをポストに投函するだけだ。簡易書留だと窓口に出さないといけないが、レターパックはポストに入れとけばいいだけだから土日でも差し出せる。週末に検定に出す書が出揃ううちの教室ではこれも大きなメリットだ。窓口だと月曜まで待たなきゃいけないからね。ちょっと遠出して大きな郵便局――つまり本局だな――に行けば、土日でもゆうゆう窓口で受け付けてくれるけど面倒くさい。おっと、追跡番号を剥がしておかなければ……追跡番号とは日本郵便的にはお問合せ番号と呼ばれるものだ。レターパックにはそれぞれにユニークな番号が割り振られており、その番号がシールになってパックに貼られている。差し出す前にそのシールを剥がして保管しておく。レターパックが集配されると日本郵便のサイトでその番号を使って追跡が出来る様になる仕組みだ。といっても何時集配されました、何時配達されました、位の情報しかないんだがな。それでも確実に先方に届いた事が分かる。俺はいつも白鳳の本部にこの番号の情報と共に「今月検定を受ける書を送付しましたのでご査収の程よろしくお願い申し上げます」とメールを送る事にしている。
物販品の在庫チェックもしとかんといかんな。将来的には在庫データベースを構築しようと思っているがまだ手を着けられていない。教室の物販品の棚をザーと見てそろそろ少なくなってきたな、よしこれは発注しとこう、という感覚でやっている。特に注意を要するのは消耗品、具体的には半紙と墨液だ。半紙は千枚単位で月に数ロット、つまり数千枚の需要があるからな。墨液も400mlと200mlの物があるが、毎月それぞれ10から20個程売り上げがある。墨液……リットル単位で買って量り売り出来んかな。コスト低減にはなるだろうが面倒くさいな。それに容器に移し替えるときに溢したら大惨事になる。何かうまい運用方法を考える必要があるな。今のところはちょっと保留だな。
そう言えば彩音が新しい道具にしたいと言ってたな。今使ってるものを良く見せて貰っといた方が良かったかな。少なくとも筆と下敷きは買い替えるとして……あとは硯か……小中学生の内は今の物でも大丈夫だろう。墨――墨液ではない――を磨るのは高校生以上になってからだろうから、現状では墨液で使えれば問題ない。半紙はいいとしてそうなると筆か……今うちに在庫としてあるのはと……うん、このあたりの筆ならば彩音の新しい筆として使えるだろう。
在庫を確認した俺は補充する物販品をリスト化して白鳳本部にメールする。うーん、これも今までの流れで何も考えずに白鳳に発注してきたが、物によっては他の購入ルートを開拓した方がいいのだろうか。同じメーカーの物ならどこで買っても同じだろうし……あとはどれだけ白鳳に義理立てするかだな。そもそも白鳳ルートの方が安いのであれば今のままでいい訳だし。今度他の教室の先生にもそちらではどうしてますか?って聞いてみよう。霞碩先生や梨香さんに聞くのはちょっと憚られるしな。白鳳だってどこかの商社や販売店を通して購入してるんだろうから、安いルートを開拓すれば感謝されるかもしれない。さしあたっては色んな販売店をあたって同じ条件で相見積もり取るかな。メーカー勤務時代の購買の常套手段だ。かつて在籍していた会社の購買は鬼だったからな。定価の四割――四割引きでは無く六割引きだ――からスタートでそこからさらに値引交渉が入るんだから。よく「半値八掛け」(0.5×0.8=0.4、つまり四割)と言ってたな。まぁ大量発注だから出来るんだろうけどな。
今日はもう疲れた。明日はレターパック出す以外にやらねばならない事は無かったよな。強いて言えば合宿の準備だが……準備そのものは手伝いのOBに任せよう。俺は教室の掃除と片付け、家庭菜園の草取りでもするか。そう考えながら眠りにつくのだった。




