小六編 第30話 小六女子に踏まれる
「あはは……何か楽しくなってきた。」
俺の腹をグリグリからゲシゲシと踏みつける事に変えた彩音が恐ろしい事を言う。
「何これ何これ、この絶妙な弾力、しゅごいのぉ、こんなの初めてぇ。」
「おまっ、やめろ。小学生が言っていいセリフじゃ無いぞ。」
これもわざと言ってるんだろうか。
「おかしいな。先生なら『ありがとうございます』とか『我々の業界ではご褒美です』って言うと思ったのに。」
「そんな業界は知らん! 本当にやめろ。何か来ちゃうから、目覚めちゃうから!」
「もう少しかな。えい、えい!」
さらに苛烈なスタンピングを受ける事になってしまった。
「うーん、これはあんまりやりたくなかったんだけど……」
なら最初からやるなよ。
「お腹じゃ効果がないみたいだから……」
今度は顔を踏みつけてきやがった。さすがにスタンピングではなかったが頬のあたりに足を置いてからグニューと踏み込んできた。どうでもいいけど白いものがチラチラしてますよ、お嬢さん。
「どうです? 女の子に踏まれて本望でしょ?」
「出来れば目のあたりは踏まないでくれませんかねぇ……よく見えないんで。」
「何が見えないって……ハッ!」
ようやく気付いたか、馬鹿め。
「見るなー! この変態!」
ゲシッ、ゲシッ、今度こそ思いっきりスタンピングされてしまった。
「忘れなさい! 記憶が無くなるまで蹴りますよ。」
「そんな事言われても脳内フォルダに名前を付けて保存してしまったし……」
「脳をフォーマットしましょうか? それともドリルで物理的に破壊してもいいんですよ。」
「お前は平成おじさんの娘か! わ、分かった。忘れる。記憶から消去する。」
「ゴミ箱からサルベージしないで下さいね。それともドリルで……」
「い、いやだなぁ、そ、そんな事する訳無いじゃないですかぁ、あはは……」
小学生女子に屈服する俺だった。だって仕方無いじゃんよ、手足拘束された上に足蹴にされてるんだよ。せめてもの抵抗として脳内フォルダは死守してやると誓うのであった。
「そろそろ拘束を解いて欲しいんだけど……」
「駄目です。まだ尋問が残ってます。何故オカンにあんな事を?」
「いや、普通に若くて可愛くてほわほわの癒し系で、ストライクゾーンど真ん中だったし。」
「はぁー」
盛大に溜息をつかれてしまった。
「大体オカンが幾つだと思ってるんですか。」
「そこだよ、どうみても二十代だろ。幾つの時にお前産んだんだよ。実の母娘じゃないとか……では無いよな。」
「私はオカンが三十の時の子ですよ。だから今年で四十二です。」
えー! そんなの嘘だ! いくら上に見積もっても三十代だろ。
「事実です。昨日も言いましたが三人の子持ちです。」
「そ、そんな……何とかならんのか……」
「何をどうしろと……まぁ気持ちは分かります。姉と言ってしまったのも無理は無いと娘の私でもそう思います。」
「つかぬことを聞くが……」
「何でしょう?」
「お父さんは大病を患ってるとか、近々治安の悪い国へ出張の予定があるとかは……」
「そんな都合がいい話がある訳無いじゃないですか。」
「ですよねー。」
また顔を踏まれてしまった。だから見えるって。
やっと拘束を解いてもらえた。クソッ、結束バンドの跡が残ってるじゃないか。児童相談所で見せたら虐待認定されるんじゃなかろうか。児童じゃないけどさ。
「で、どうでした?」
「何が?」
「私の『踏み』ですよ。興奮しました?」
「何度も言ってるが俺にそんな性癖は無ぇよ。」
「でも脚フェチでしょ?」
「……ち、違うわ。」
「今一瞬、間がありましたが?」
「脚フェチと言うのはだな、そんなお子様の脚じゃ物足りないんだよ。いや、決して俺が脚フェチって訳じゃなくて、知り合いの脚フェチな奴が言ってたのを聞いただけだがな。」
「その知り合いってのは実在するんでしょうか。まぁ本人も知り合いの内ではありますよね。」
「……」
「時々踏んであげますから期待しといて下さい。」
「脚フェチだからと言って踏まれるのが好きだとは限らないじゃないか。」
「脚フェチは認めると。」
「いや、違うぞ。その知り合いの名誉の為に反論したまでだ。」
「そうですか、そういう事にしといてあげます。でもあの『踏み』で駄目となると……そうだ!今度パンスト履いて踏んであげますね。」
パンスト……なんか触り心地が良さそうなんだけど……じゃない!
「やっぱり黒パンストがいいですよね。先生、好きそうですもん。」
「小学生にゃ似合わんぞ。せめて高校生になってからにしろ。」
「先生が黒パンスト属性に目覚めるかも。」
「そんなマニアックな属性はいらん!」
「まぁそう遠慮せずに。」
「どうせ踏むなら腰が痛い時にマッサージとして腰踏んでくれ。」
「成程、カモフラージュですね。」
「違ぇーよ!」
そう言えば昔はよく莉紗に踏んで貰ったな。いや、勿論腰をだぞ。勘違いするな。体重的にはあの位の年齢の子が丁度いい。
「よく考えたらお前に腰踏んで貰うには体重的にちょっと……な。」
言い終わる前に彩音の手が俺の頭を掴んだ。
「はぁ?今、何言った。あぁん。」
痛い痛い、アイアンクローやめて。マジで痛い。何だこの握力は! というか指の力か。
「ピアニストなめんなよ。」
このまま舌出して指舐めてやろうか、と言いそうになったが手のひらが拳になる様な気がしたので寸での所で思い留まった。俺は学習するのだよ。
「いや、やっぱりちょっと重すぎるだろ。ほら、やっぱり20kg位の子じゃないと……小学一年生位の。」
「そんな幼女に踏んで貰って喜ぶとか、この変態!紳士!先生!」
幼女に踏んで貰って喜ぶ――楽になるという意味で――の部分は間違いでは無いので反論が難しい。それと最後の読みはおかしいぞ。訂正を要求する。
「俺が言いたいのは『幼女に踏まれるのが最高』って事だな。」
彩音のアイアンクローがさらにこめかみに食い込んだ。いや、マジ痛いんだって。




