中学生編 第72話 感情という命題
はっ! 何か一ヶ月位気を失っていた様な……そんな訳無いか。どうも記憶があやふやだ。まぁいい、明衣の(正確にはその陰に居る彩音の)せいで朋照に水泳勝負で負けてしまったところだったな。
邪魔が入ったとは言え負けは負けだからな。朋照にジュース奢ってやるか。だがちょっと待て、ここまで全力で泳いであとちょっとの所で明衣に蹴り落されて心身ともにダメージが大きい。ちょっと浮島に上がって休憩させろ。
「で、だ。お前は彩音の言う踏まれると喜ぶとか、ご褒美だってのを信じたのか。」
「分かんないけど世の中には色んな性癖? の人がいるし可能性がゼロじゃない以上は検証が必要かなって思って。」
「そんなとこまで理系女子じゃなくてもいいじゃんか。あと性癖とか言うな。」
「先生は否定するだろうけど内心では喜んでるからって彩音ちゃん言ってたよ。ツンデレ? ってヤツ?」
「ちがうわ! 喜んでもないしツンデレでもないわ!」
「先生は否定したけど『否定はするけど内心では』って所は否定出来ないから……検証するにはどうすればいいのかな。真実は先生の中にしかないし……この命題の証明は難しいね。」
「証明せんでいい。」
「そもそも喜ぶって感情を証明するってのが無理筋だよね。どこからが喜ぶの範疇に入るのか。感情の度合いは数値化出来ないし仮に出来たとしても喜ぶと喜んでいないの閾値はどこになるのかの定義も明確に出来ないし。」
「そういう事だ。」
「感情は普遍的なものではないし、ひょっとしたら未来の時系列では先生も喜ぶようになるかもしれないし…そうなると喜びという感情を数値化してそれを時間積分してその積分値がある一定値を超えたら新たな性癖に目覚めたという事になるのでは?」
「やめろ! 何か言ってる事が納得出来るだけに怖いわ。」
「少しずつ調きょ……教育していくしかないか……」
何やら不穏な言葉が聞こえたが聞かなかった事にしよう。明衣は彩音と違って理詰めで来るからな。自分で納得出来ない事は割と簡単に引き下がってくれるのだが、一旦自分の中での論理が完成してしまうと引かないからな。




