中学生編 第69話 抱き枕
間が開いてしまいました。遅くなって申し訳ありません。
庭での作業を終え少し早めの昼食をとった。朝食わずに作業に入ったからな。作るのが面倒だったってのもある。さすがに昼まで抜いたんじゃ夜までもたん。パパッと豚コマと人参、玉ネギ、キャベツをフライパンで炒めておいてその上に湯がいた冷凍うどんを投入、ソースをからめながら暫く焼いて……うどん焼きの完成だ。焼うどんじゃないぞ、うどん焼きだ。うどんの国ではうどんに敬意を払ってうどんが先に来るのだ。
ふぅー、食った食った。腹もおきたし――うどんの国では腹一杯になる、腹が膨れる事を「腹がおきる」と言う――徹夜と朝からの労働のおかげで次第に瞼が重くなってくる。いかんいかんと思い乍らも心地よい疲労感が俺を午睡へと誘う。マズい、教室の玄関先で寝たんじゃまた京さんに通報案件だって怒られてしまう。匍匐前進で何とか教室の畳の所までたどり着き、仰向けになったところで俺は意識を手放した。
なんか体がムズムズする。特に横腹とか左足のあたりが。何だ? と思って寝ぼけ眼を無理矢理開けると……莉紗が顔を俺の横腹に埋めながら抱きつき足を俺の左足に絡めて寝ているようだ。なんだ、いつもの莉紗か。じゃない! 小さい頃ならまだしも小学四年生にもなってこの体勢はヤバい。その容姿にはアンバランスなふくよかな膨らみが俺の腰のあたりに当たって押し潰されてるぅ! つまりは押し潰されてるのが分かる位の大きさだって事だ。これが彩音だったりすると……いや、何でもない。落ち着いて分析し彩音をディスってしまった事で少し冷静になれた。時刻は……もう二時過ぎか、もうすぐ修道の子等が来る時間だ。早く莉紗を起こさないと。このままじゃ俺が死んでしまう、社会的に。
「莉紗、起きろ。いや、寝ててもいいから俺に抱き着いている手と絡めている足を外せ。」
「……うぅ、せんせぇ?」
「そうだ、俺だ。とにかく俺から離れろ。」
「もうおふろの時間? 利紗もいっしょにおふろ入るぅ……」
いかん、完全に寝ぼけてる様だ。しかも言うに事かいて一緒に風呂入るとか。こんなの誰かに聞かれでもしたら……
「何やらディスられた気がしたので早めに来ましたが、これは……」
げぇ! 彩音ぇ!
「い、何時からそこに……」
「一緒にお風呂入る、ってあたりから。」
さ、最悪だ。
「これはもう事案発生ですね。通報しますね。」
「事案とか言うな! こら、何スマホをいじってる。」
「莉紗ちゃん、早くこの変態から離れて! お風呂なら私が一緒に入ってあげるから。ぐへへへ……」
「お前の方がよっぽど変態だわ!」
「黙れ! この少女の敵!」
「うぅーん、うるさいの……って、何でこの女が居るの?」
「莉紗ちゃん、起きたのね。こっち来なさい。今から小児性愛者を断罪するから。」
「段々、俺の呼び名が酷くなってないか。」
「いや! 先生のお腹、久しぶりだもん。もっともっとたんのうするの!」
「一応言っとくと俺が寝てたら莉紗がいつの間にか一緒に寝てたんだからな。俺の意志ではないからな。」
「莉紗なら俺の隣で寝てるよ、って事ですか。自慢ですか。」
「そうじゃねぇよ!」
「こんな幼女を抱き枕にするとは……」
「してねぇって!」
「莉紗は先生の抱き枕じゃないよ!」
「そうだ、莉紗、言ってやってくれ!」
「先生が私の抱き枕だもん。」
「そうだ! って、何じゃそりゃ!」
「な、何て事……」
「先生のお腹はねぇ、柔らかいんだよ。プニプニなの、ポテポテなんだよ。」
俺の腹に頭をグリグリ押し付けて頬ずりしてくる莉紗。あっ、指でツンツンするのはやめて、擽ったい。
「おのれぇ……イチャイチャしおって……莉紗ちゃん、こんなメタボ腹より私の方が柔らかいよ。グリグリ、ツンツンは私にしなさい。抱き枕になってあげるよ。」
莉紗は視線を俺の腹から彩音の体へ、そしてある一点をジーっと見つめると
「フッ」
「鼻で笑われた!」
そりゃあな、そのある一点は莉紗の方がよっぽどご立派だもの。おっと、またもや冷静な分析をしていると彩音が俺の所へつかつかと歩み寄り
「何かまたディスられた様な気がしました。」
下手から腕を振りかぶり俺の腹を思いっきり掴みやがった。
「ぐべっ、痛い痛い痛い。お前の握力どうなってるんだ。」
よくプロボクサーの拳は凶器として認定されるとは言うが、ピアニストの握力も凶器になるんじゃないかな。ズブズブと指が腹に食い込み、俺の腹を食い千切らんかの様な勢いだ。
「こいつか! こいつがあかんのか! このっ、このっ!」
「痛ぇよ!」
「この! 腹さえなければ! 莉紗ちゃんは! 私のものに!」
「ならねぇよ! いい加減、離せ!」
「先生をいじめるな!」
莉紗が彩音に向かってドロップキック! 体重が軽いからそれ程の衝撃は無いが俺の腹を握りつぶす手だけは離れた様だ。
「莉紗の枕に何てことすんの!」
いや、莉紗の枕じゃないからね。服を捲って腹を見ると、くっきりと彩音の指の跡が残っている。どんだけ握力強いんだよ。何とかドロップキックの衝撃から立ち直った彩音がゆらーりと揺れながら
「次はもいじゃうから。」
どこを? 腹? それとも……怖いわ! それ、こないだのお前の愛称決めの時にネタにしたヤツじゃないか。




