中学生編 第67話 あやねえちゃん
間が空いてしまいました。申し訳ありません。
「第一回チキチキ彩音さんの愛称を決める会議ぃーー! ドンドンドン、パフパフ!」
修道教室で彩音が周りに幼女を含む十人程の塾生を集めてこんな事を宣いやがった。何だよ、第一回って……第二回以降もあるのかよ。
「モッチーじゃいかんのか?」
「モッチーって名字の『持永』をもじった呼び方じゃないですか。女子は結婚したら名字が変わるんですよ? なので名前の『彩音』に因むか、少なくとも名字に関係のない愛称がいいです。」
「成程なぁ……ってお前……」
「何です?」
「お前、結婚するつもりがあるのか?」
ヲタク道というか腐女子道を突き進んで恋愛とか結婚とか全く考えてないと思ってたのだが……目指せ! 日本腐道記! 山本周五郎先生、ゴメンナサイ。
「よくもそんなことを!」
「お前はどこのグレた環境活動家だ!」
「セクハラ! セクハラですよ! それに37にもなって、結婚どころか彼女さえいない先生にだけは言われたくありません!」
「おまっ、それもセクハラだぞ!」
ギャース、ギャースとお互いを詰りあっている俺達に対してツッコミ役の月子がボソッと一言、
「争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない。」
その言葉に俺達はハッとする。コイツと同じレベル? ありえん。不本意だが彩音もそう感じた様だ。所謂同族嫌悪というヤツか。いや、コイツと同族とか、それこそありえん。
「よし、そのセクハラ云々の話はここまでにしよう。同じレベルとか思われたくない。」
「奇遇ですね。私も同感です。」
フフフフ……お互いに乾いた笑い声を発する二人。傍から見たら怖いだろうな。
「で、持永をもじらない愛称だっけ?」
冷静に場を眺めていた美依の言葉で場が転回する。
「うーん、彩音、あやね……あーや、とか。」
「あやっち。」
「もう、『あーちゃん』でええやん。」
美那さん――彩音の母親――が使ってる呼称を俺が言うと、
「あーちゃん言うな。」
お気に召さなかった様だ。まぁ、分かってて言ったんだが。
「あやね、あやっち……あやち。」
「軽音部でエレキギター弾きそうだな。」
「あやね……あやねん?」
「あやねる。」
「『あやねる』はもがれそうになるから止めてくれ。」
思わずヒュン、となる俺であった。
「もがれる?」
「あー、それ知ってる! ちn「言わせねぇよ!」
光の速さで彩音の口を塞ぐ俺。ふー、危なかった。全くなんちゅうことを口にするんだ、このJCは。
「んぐんぐ、ばぁひえぇ……」
こ、こら、手のひら舐めるんじゃない。くすぐったい。思わず手を放してしまった。
「全く……ティッシュ、ティッシュ。」
「何で手を拭こうとするんですか。そこは『JCの唾液……ぐへへへ』とか言って舐めまわすとこでしょうが!」
「舐めんわ!」
お前は俺をどういう目で見てるんだ。
「彩音でいいんじゃないか? 俺もそう呼んでるし、呼び捨てが嫌だったら彩音さんや彩音ちゃんでもいい。」
美依なんかは彩音ちゃんって呼んでる訳だしな。
「未由は『あやねえちゃん』ってよぶぅ。」
彩音は未由が発したこの「あやねえちゃん」を甚く気に入った様だ。小さい子――特に幼女――からおねえちゃんって呼んでもらえるのが嬉しいみたいだな。
「私らは『彩音ちゃん』でいいの?」
美依の言葉に「それでお願いします」と答える彩音。お前、前に「ちゃんづけは小学生まで」って言ってなかったか?
「同性はいいんですよ。先生みたいなおっさんからちゃんづけされると何かムカつきます。」
言うに事かいておっさん呼ばわりとか、俺の方がムカつくわ。まぁ、実際おっさんなんだけどな。それにしてもちゃんづけが駄目で呼び捨てはいいとか、こいつ、面倒くさいな。
「何だかんだと言ってるけど、私ら小学校からの同級生は『モッチー』って呼ぶと思うよ。」
月子の至極もっともな意見に頷かざるを得ない俺達であった。結局、未由の「あやねえちゃん」以外は今まで通りだ。何の為の会議だったのかよく分らんな。恐らく第二回が開催される事は無いであろう。




