中学生編 第60話 合同合宿復路 お土産
うどん屋を後にした俺達は次の目的地へ向かった。と言っても大橋の四国側の付け根の公園なんだけどね。ここは橋の展望が出来る様に整備されていて広々してるから休憩するだけでも行く価値がある。逆に展望はと言えば橋を見上げる形になるからなぁ。近くにある展望タワーに登るという選択肢もあるが、結構な額の入場料を取られるんだよな。それと俺の勘違いだったがこの公園にはお土産品を売っている様な店は無かった。俺が記憶していたのはどうも展望タワー及びその周辺のいかにも観光客相手の店だった様だ。記憶がごっちゃになってた。なんせ十年以上前に来たっきりだからなぁ。
「悪い、この場所はお土産を買う様な店が無かった。橋の途中のサービスエリアには間違いなくお土産売ってるからそっちで買ってくれ。」
「ここは休憩と橋を見るだけ?」
「どうせなら大橋記念館で橋が架かった経緯とかどれだけの年月かけたとか、そういうのを勉強してもらいたいんだがな。自由研究ネタにもなるし。」
「先生って、自由研究に熱心ですよね。」
「そうか? ネタがあるならそれ使わなきゃ損じゃないか。労力は少しでも少ない方がいい。勿論、自分が興味を持って取組むのがベストだが。俺はそのきっかけを作ってるだけだよ。」
かつて運航していた連絡船とかと絡めると鉄ヲタの先生に受けがいいかもしれんぞ。待てよ、鉄ヲタ相手なら大橋に新幹線用線路のスペースがあるってネタの方がいいか。在来線の大橋線と並行して走れる空間が既に確保されているのだ。因みに渦潮橋にも新幹線が通せるだけのスペースは確保されている。尚、海峡橋は自動車専用で列車が走るスペースは確保されなかった。もし渦潮橋に新幹線を通したとしても関西方面に行くには海峡橋ではなく、紀伊半島へ線路をつなげる必要がある。まぁ、大橋線にしても渦潮橋にしても新幹線を通すなんてのは、よっぽどの事が無いと実現せんだろう。よっぽどの事とは? そうだなぁ……日本の首都が四国に遷都してくる位の事かな?
「そろそろ橋渡るぞ。車に戻れ。静、ETCカード渡しておく。ちゃんと装着しておけよ。」
「途中の島のサービスエリアに寄るんですよね。」
「おぅ、だからすぐにまた駐車する事になるけどな。」
全員戻ったな。それでは出発進行! ここは橋の付け根だから一旦戻って北インターから入らなければならない。左折、右折、右折となかなか難しい。
ETCゲートをくぐって高速道路に入る。橋の上は80km/h制限だぞ。誰も守っちゃいないが。俺達は眺望を楽しみながらゆっくりのんびり走る。さて、行きは急いでて寄れなかった島のサービスエリアに寄ろう。
サービスエリアの駐車場、相変わらず広いけど混んでるなぁ。夏休みだもんな。
「よーし、トイレ休憩とお土産とかの買い物タイムだ。お土産買えるのはここが最後だからな。」
「先生ってお土産買う相手、居るんですか?」
彩音君、君、失礼だね。お土産買って帰る人くらいおるわ! まずミユキチ達の世話をお願いした竹内の婆ちゃんだろ。それと車を借りた静の父親の勝人さん。あとはうちの合宿で家族全員くらいの勢いで協力してくれた玄田家にも。って、月子や静や勝陽も同行してるじゃないか。この三人も当然、家族には何か買って帰るよな。俺が買うお土産の価値が下がりそうだ。とりあえず、月子、静、勝陽とはかぶらない様な物を買おう。いちいちチェックしなきゃならんのが面倒だな。
何とかお土産を選定して購入することが出来た。うどんやらソーメンやら名物か〇どやら、まぁ色々。買ったお土産を三人に渡してしまえば面倒が無いんだがそうもいかん。お礼の意味合いが強いから直接俺が持って挨拶もしておかないと。
「お土産、買い残しは無いか? ここが最後の場所だぞ。あとはトイレ行っとけよ。この後、一時間位は車に乗りっぱなしになるからな。」
最後の念押しでトイレにも行かせ、またまた車上の人となる。ここはサービスエリアだが出入り時にETCチェックが入る。普通は出来ないが、このサービスエリアでは反転して帰るという乗り方が出来るのだ。なので、このサービスエリアに寄ったという情報が記録されるのだろう。
高速道路、と言うかほぼ橋だな、を降り一般道へ戻って来る。さて、ここからは下道をゆっくり走る事になるから地元到着はそうだな……二時間後ってとこかな。そろそろ通勤、じゃないな、退勤ラッシュにかち合う時間帯だからな。今日は平日だし。子供等は夏休みでも世のお父さんは働いているのだ。
予想通り道路は混んでいたがやっとの事で地元県に戻って来た。ここからだとあと一時間を切るかな。最後のトイレ休憩でコンビニに寄る。
「じゃ、ここでトイレ休憩な。この時間を使って各自家に連絡をしといてくれ。あと一時間程で到着するって。携帯持ってない者は俺に言ってくれ。俺の携帯貸してやる。」
もう夕方だから中には迎えに来てくれる家もあるだろう。まぁ、来なくても家まで送り届けるつもりだが。
「先生、電話貸して。」
「ほいよ、莉紗。ちょっと待ってくれ、美紗さんにかけてやる。」
俺はスマホのアドレス帳から美紗さんの番号を呼び出し、コール中に莉紗にスマホを渡す。莉紗は相手が出た事を確認して、あと一時間で帰るよって言ってる様だ。他に携帯持って無い奴は……亜希とかどうなんだろうか。あっ、勝陽に借りて電話してるのか。まぁ、家同士が知り合いだからそういうのもアリだろう。あとは……いないな。おっと、彩音が家にかけてる様だ。
「やっぱ、オカン出ないか。パート中なんだろうな。仕方ない、家電に、と。」
彩音は美那さんにかけたが相手が出なかった様で家電にかけるみたいだ。おっ、相手が出たな。
「おぅ、伸也か。ワイや。オカンはパート中か。おぅ、あと一時間位で帰るけぇ、オカン帰ってきたら言うとけ。おぅ、ほなな。」
な、何だこいつは! 伸也ってのは多分、弟だと思うが、弟に対してはそんな物言いなの、お前。あと声が低くてドスの効いた声って言うの? どこの組の構成員ですか、あんた。俺が惚けた様な顔でわたわたしていると、当の彩音は
「どうしたんです? いつにも増してボケてますよ。」
「お前、さっきのが本性か。おっそろしい奴だな。」
「あぁ、聞いてました? 家の者に対してはあんなもんでしょう。」
「いや、いくらなんでもあれは無いわ。」
「うーん、そう言われても……あっ、相手が弟だから特にそう言う風に見えたのかも。」
「弟君は苦労してるんだな。まぁ、姉に逆らえる弟など存在しないからな。」
何故か共感してしまう俺であった。




