中学生編 第57話 合同合宿復路 自動車道と遍路道
「四日間、お世話になりました。」
「「「お世話になりました!」」」
うちの教室の者が一同整列して霞碩先生、梨香さん等、白鳳本部の皆さんに挨拶をする。
「気を付けて帰ってね。」
「次回も是非参加してくれ。」
次回は……うーん、どうだろう。そもそも次回はいつになるのか。前回は四年前だったらしいし。
「莉紗、鍛えてやるからまた来いよ。」
姉さんは何を鍛えるつもりなんですかねぇ。
「師範になるなら白鳳とは長い付き合いになるんだ。師範研修は私が面倒みてやる。」
果たして何の面倒なのか。
「次こそは……せめて一発入れれる様に!」
何か莉紗が戦闘民族化してるんだけど?
白鳳本部を辞した俺達はまた車に乗って観光しながら帰路につく事になる。俺の車と静の車、乗るメンバー構成はどう振り分けるか? 行きと同じでいいのかな。
「車の振り分けは行きと同じでいいのか? 希望があればシャッフルしてもいいけど。」
「俺、行きは居なかったけど静さんの方ですよね。」
「そうだ。俺の車は俺、彩音、勝陽、莉紗で残りは静の車だ。希望があれば移動してもいいぞ。」
特に移動希望者は居ない様だ。じゃ、行きと同じでいいか。
「帰り道でどこに寄るかとは考えてるんですか?」
「午前中は屋島に登る。あっ、歩いて登る訳じゃ無いからな。車で上まで行ける。昼前に降りて麓にあるうどん屋で昼飯。その後は大橋の付け根にある展望公園みたいなとこ行って休憩。で、橋を渡って途中の島のサービスエリアに寄ってから帰る。お土産買うなら、屋島の山頂、展望公園、島のサービスエリア辺りになるかな。」
「昼飯のうどん屋ってまたセルフですか?」
「いや、ここは普通の飲食店みたいな感じだ。事前に食券買うくらいかな。あとは店員が給仕してくれる。この様なうどん屋をセルフ店と区別する為にサービス店と言ったりする。」
「セルフよりは高いんですよね。」
「この店は観光地仕様だからな。セルフ、サービスと言う前に若干高い。だけど一人千円はいかないな。五百円から八百円位かな。そりゃトッピングやオプションてんこ盛りにしたら軽く千円は超えちまうけど。」
うどん談義は実際に食う時にしよう。まずは屋島へ向かおう。
「静、屋島に登る前に給油するからスタンドへ寄るぞ。」
「ガソリン、まだまだ大丈夫ですよ?」
「こっち、と言うか田舎の方がリッター単価が安いんだ。だから安い場所で出来るだけ多く入れたい。満タン返しだからな。勿論、地元へ帰ってからもちゃんと満タンにするぞ。」
「細かいですね。」
「少しでも安くあげたいからな。その分、合宿費用の返金額が多くなるだろ。微々たるものかもしれんが、こういうのの積み重ねで一人あたり十円でも二十円でも多く返せれば上出来だ。」
ガソリンスタンドで給油、当然セルフスタンドだ。払いはどちらの車も俺のクレジットカードで。静に立て替えて貰ったんじゃ現金での清算が面倒くさいからな。だったら最初から俺が払った方がいい。クレカのポイントも俺に付くし。二台とも満タンにしたが静の車は15リットルも入らなかった。行きの150㎞と海水浴場しか行ってないからなぁ。俺の車? 俺のは殆ど入っていなかったから70リットル位入ったぞ。俺の車は満タン返しとかそういうんじゃなくて、走行距離と燃費で燃料代を算出するつもりだ。
スタンドでの給油後、屋島目指して出発。当たり前だが行きとは逆の方向へ国道沿いを東から西へ。途中右折して屋島神社の横から山頂に向かう自動車道へ入る。昔は有料道路で600円位通行料が必要だったが最近無料になった。但し、山頂での駐車場代が300円かかる。昔は通行料600円の中に駐車場代が含まれる形になっていたのだが、今では通行料無料で駐車場代だけがかかる仕組みになった様だ。かつては自動車専用道で125㏄以下の二輪車、自転車、歩行者は通れなかったが今ではこれらも通行出来る。あと、これは自動車専用道だった時代からそうなのだが、途中で所謂遍路道と交差している箇所があり、そこだけは自動車専用道をお遍路さん、つまり歩行者が横切る場所がある。危険だがそもそも遍路道が太古の昔から存在している所に無理矢理自動車道を通したのだから、お遍路さんが優先されるべきなのである。おっと、駐車場代の事、静に言っとかなきゃな。
「莉紗、静に電話だ。スピーカーモードで。」
「はーい、えーと……はい。」
「はい、静ちゃんの電話です。」
予想通り月子が出た様だ。
「月子、静に伝えてくれ。山頂についたら駐車場代300円かかるから立て替えといてくれって。領収書も出るからそれも忘れずに保管しとく様にって。」
「分かった。伝えとくね。」
「このまま電話切らずにそっちもスピーカーモードにしといてくれ。話しながら走るから。」
「はーい。」
「静、もうすぐお遍路さんの遍路道と交差するところだ。歩行者が横切る可能性があるから気を付けてな。」
「こんな所に遍路道があるんですか?」
「あぁ、この自動車道を横切る形になってる。」
「横切るって……上も下も殆ど崖じゃないですか。」
「崖でも遍路道はあるんだよ。山頂の札所の寺から次の札所の寺に行くにはこの遍路道が最短ルートだからな。俺も一回下った事があるが……下るというよりは落ちるって感じだったけどな。」
下りだから何とかなったが、登ろうとは絶対に思わんな。
「駐車場代300円、現金で用意しとけ。クレカとかは使えんぞ。交通系ICは……地元の電車のカードなら使える様だ。SUICAやICOCAは駄目なんかな。」
「お札使えますかね。」
「千円ならいけた筈。それ以外の大きい札は却下だ。無いなら誰かに出してもらえ。俺からそいつに返すから。」
そうこうしている内に山頂に着いてしまった。駐車場に入れて、っと。平日――今日は月曜日――とは言え、夏休みだからな。そこそこ人出があるな。見るべき所は……うーん、まずは札所の寺へ行ってその後は風景と言うか展望を楽しもうか。寺の境内にはたぬきの石像が建っている。これは太三郎狸、ジ〇リの平成狸合戦ぽん〇こに出てくる太三郎禿狸のモデルになったと言われる大狸だ。昔はこんな石像、無かったんだがなぁ。
寺の周りはそこそこに展望台へと向かう。ここからは美しい瀬戸内海が一望出来る。県庁所在地の港、関西方面へと向かうフェリーの港と、対岸県に向かうフェリーの港。昔は国鉄の連絡船もあったんだが、大橋開通と同時に廃止されてしまった。おっと連絡船廃止はJRになってからだったか。連絡船で食ううどんは旨かった。船上ではどうしてもゆでうどんを湯がいた物になるからコシは望めなかったが、いりこ出汁の風味がたまらなかったな。
「先生、あの船はどこに行くの?」
「うーん? あれは莉紗も居た対岸県への船だな。それか女木島行きかもしれんな。」
「めぎじま?」
「女木島は通称を鬼ヶ島って言って、桃太郎に成敗された鬼が住んでいた島だ。ほら、あの島が女木島だ。」
こうして見ると女木島はかなり近いんだよな。うちの高校にも女木島から船で通ってた奴が居たし。もっと言うとオリーブ島から通ってた奴も居た。女木島までの航路の何倍だよ。女木島までは二十分程だがオリーブ島までは一時間程かかる。それも船だけの時間だからな。港まで行く時間を考えたら結構な通学時間だよな。
さて、次はどうしようかな。大きく選択肢は二つある。今居るのは屋島の中でも南嶺と呼ばれる地帯だ。南嶺があるって事は北嶺もあるって事だが、そちらへ行くという案。もう一つはここからもう少し南へ移動して、最近、発掘、復元が完了した屋嶋城を見に行く案だ。両方行けばいいんだが時間的制約もあるからな。俺としては屋嶋城に行ってみたい。何しろ最近出来た、と言うか復元された場所だから俺も行った事が無い。せっかく南嶺側に居るんだから先に屋嶋城に行こうか。北嶺は時間があればって事で。




