中学生編 第50話 合同合宿二日目 経営コンサル?
観音院から戻ると次の仕事が待っていた。
「これ、各組ごとの名簿だ。教室ごとの名簿から本日の出席者数をカウントして組ごとに振り分ける弁当の数を確定させてくれ。」
「出席者数が分かってるならそれが全てじゃないんですか? そもそも合宿参加者数が出席者数そのものではないかと。」
「合宿は二日、お前んとこみたいに前泊、後泊する教室は四日あるが全員が全日程に参加する訳じゃ無い。やむを得ず途中で脱落してしまう者も出てくるしな。なので毎朝、教室ごとに今日の参加者を名簿で出してもらってるだろ。これは教室毎の名簿の形で出てくるから組ごとに振り分けるんだよ。」
「飯のたびにそんな面倒くさい事やってんですか?」
「いや、組ごとに食べるのは昼だけだ。朝と夜は教室ごとに食ってるだろ。」
「昼も教室ごとに配布すればいいのに。」
「他の教室との交流という意図があって、敢えて組ごとにしてるんだ。」
「そういう思惑があるんすね。だけど教室ごとの名簿と組ごとの名簿の二つの名簿があるのはいただけませんね。クロス名簿にすればいいのに。それか各教室に本日の出席者を出させるときに組ごとの数も記入させれば楽になりますよ。」
「クロス名簿というのは何だ?」
「あーっと、縦軸に名前を連ねて横軸に組、今回は五組ですか、それを連ねます。各員がごの組に所属しているかを1で表して、それを合計すれば組ごとの人数がすぐ分かります。欠席者が居ればその者の所は0にすれば合計されませんから、弁当の数も減る事になります。」
「お前、それ今作れる?」
「条件次第です。各教室の名簿、それも学年が分かる名簿ですね。それがExcelかなんかでデータ化されてれば割とすぐ作れますが……高いですよ?」
「日当出してるだろ。その範囲でやれ。」
「まずは各教室の名簿がExcel化されてるかどうかですよ。その入力からやってたんじゃ何日かかるか。昼飯に間にあいませんよ。」
「これだ。Excelデータにはなってる。」
霞碩先生は事務所のPCをいじって参加者名簿のExcelデータを開く。ふんふん、これなら何とかなるかな。大元のデータをいじりたくないのでコピーして別ファイルを作る。合同合宿参加者名簿(弁当用).xls とでもしとこうか。必要なのは名前と学年だからな。それ以外はバッサリ削除、おっと、所属教室くらいは残しておこうか。あとは列に各組――高校生以上、中学生、五六年生、三四年生、一二年生――を作って、各員がどの組に所属しているのかを表す所属フラグを1で入力していく。これが一番大変な作業だ。師範などの指導者クラスを入れれば百人超えるからな。また、この指導者クラスがどの組に属しているのかも考えながら入力していかなければならない。各組の担当や補助になってるならその組に入れとかないといけないし、なってないなら別枠で列を作ってそこに入れなければならない。この辺りは俺じゃ把握出来てないから霞碩先生に確認しながら振り分けていく。ここまで作ってようやくベースが完成だ。あとは欠席者をチェックして欠席者の所属フラグを0で上書きしていく。この作業で四十分位かかった。普通にカウントした方が早かったんじゃないか?
「はい、これで完成です。ここに各組ごとの弁当の数が出る事になります。」
「すごいぞ、優、これで今後、弁当の振り分けが楽になる。」
「お喜びのところ申し訳ありませんが、昼飯は今日が最後ですので今後はありません。」
「次回以降の合宿で使えるだろうが。」
「次回は次回で名簿作り直さなきゃならんですけどね。それに次回って何年後になる事やら。」
「Know-How が得られたって事だろ。これを改造して次回の参加者名簿にすればいいだけだ。」
「個人的にはこのシステムはあまりよろしくないと思いますよ。あくまで弁当の数を集計するだけの物ですから。例えば大元の名簿が変更されてもこっちの名簿は更新されませんからね。データは共通のソースから引っ張って来るべきです。でもそうなるとExcelじゃ難しいかもしれません。」
「それでも一歩進んだと思えばいいんだ。サンキューな。よし、これを弁当配布班に渡して振り分けさせよう。」
「えーとですね、次回からはそういう作業も業者にやらせればよいかと。」
「どういう事だ?」
「弁当の振り分け数が事前に分かってないといけないんですけど、各組ごとの数を弁当業者に連絡して、振り分けた形で配達してもらえばいいんですよ。一二年生組23個、三四年生組31個、とかの紙を添付させて。うちの弁当班はそれを各組に運ぶだけです。今回で言えば高校生以上の組も直接、観音院に配達させればさらによしですね。朝夕は教室ごとですから、〇〇教室10個、××教室8個とかになりますね。弁当は白井物産経由で発注ですよね。良樹に交渉させればいいんじゃないですかね。弁当業者が出来ないって言ったら良樹のとこで振り分けろって言ってみるとか。」
「よくそんな事考えつくな。」
「これ位じゃないと経営者やってられませんよ。」
「ぐっ……」
「尤も今回の場合、弁当振り分けるのは若手で直接的な労役費はかかってませんからね。メリットとしては若手が楽になる位しかありません。その分、他の作業に時間がかけられる、あるいは無理矢理人集めしなくてもよくなる、位ですか。その辺をどう考えるかですね。」
「参考にはさせてもらう。なぁ、お前、やっぱりうちで働かない?」
「無理っすよ。向こうの教室、おいそれと畳めんですよ。」
「そうだよなぁ……」
「そうですよ。経営コンサル的な立場ならいいですけどね。月一回位こっち来て改善点を見つけ出すとか、財務上のシステム作るとか。いや、月一までは来れないな。二月に一回位かな。」
「コ、コンサル料は?」
「そうですね……交通費、宿泊費なんかの経費的なものは当然負担していただくとして、日当五万、システム製作は応相談で都度見積りってとこですね。」
「日当五万? 高いわ!」
「会社員時代の日当は十万位でしたよ。尤もこれは顧客が会社に払う金額で俺個人に入って来る額ではなかったですが。個人事業主ですから格安設定にしております。」
「しかし……うーん……」
「システム作るの位はやってみるといいかもですよ。うちの教室だと月謝や物販品の集計なんか全て自動化してます。物販品の在庫データにも連動してますから棚卸なんかが楽になりますし、財務データも集計されますから確定申告もすぐ出来ます。市販のアプリケーションじゃ出来ない教室ごとのカスタマイズも可能です。」
「でも、お高いんでしょう?」
「どこまで作り込むかです。現状どうやってるかを把握して、それをどうシステムに反映するかなんかを相談しながら作っていく事になりますね。多分、現状把握にかなり時間を取られるかと。うちの教室だと俺が自分で全て把握してるから片手間でパッパと作れたんですけどね。それと現状把握の過程で、白鳳の財務を全て俺にさらけ出す事になりますから、この辺りをどう考えるかってのもありますが。あとシステムが変わると契約してる税理士が嫌がるかもしれません。」
「いっぺん、お前の教室がどういう風にやってるのか見学させてくれんか? これはいいと思うものだけ採用してお前に作ってもらうっていうのも手かもな。システム云々の前に取り入れるべきものが見つかるかもしれんし。」
「成程、それはいいかもですね。ついでにうちの塾生の指導をお願いします。」
「ちゃっかりしてやがるな。そうなったらお前のとこ泊めろ。」
「泊めるのはいいんですけど、教室に布団敷いて寝てもらう事になりますよ。うちには客間なんてシャレた物はありませんから。」
「せめてお前んちの居間とかにならんのか。」
「居間は有りません。事務所にしちゃってますから。事務所のソファーでいかがです? あるいはその事務所の床でもいいですよ。因みに事務所はフローリングで教室は畳です。というか素直にホテルに泊まって下さい。」
「考えとく。」
「うちに来るならうちの教室の日に来てもらった方がいいですよね。金曜と土曜日にやってます。」
「何時からだ?」
「金曜は子供向けで三時から六時位まで、土曜は社会人向けで六時から九時まで。」
「金曜かな。土曜は私も予定が入る事が多いから。金曜の午後に現地入りしてその日は泊まって翌朝に出るって感じか。」
「来る時は事前に連絡下さいよ。」
「当然だ。」
本当に来るつもりなんだ。ま、いいけどね。




