小六編 第15話 男のロマン
先生と彩音の会話だけになってしまいました。この二人の会話が書いてて一番楽しいです。
「で、実際にスキャナ使い始めるのは何時からだ?」
「早くても来週以降です。ある程度デッサン描き貯めないとページが埋まりませんから。」
「分かった、今週末までに準備しとく。やる事は殆ど無いけど移動し易い様に周りを整理しとくわ。」
「ありがとうございます。お願いします。」
「あっと、来週から夏休みか。」
カレンダーを見ながら確認する。
「そうですよ、だから作業が捗るかなと。」
「来週はいいけど再来週は書道教室も修道も夏休みだぞ。」
「えー、そんなんあるんですかぁ。」
「月子から聞いてないか?七月の終わりか八月の初めに数日間、合宿をやるんだ。だから教室は休み。」
「合宿? その辺、詳しく!」
「合宿つっても泊りじゃ無くて通いだけどな。普段は教室開けるのが三時以降だが合宿中は朝八時位から開けてるんだ。午前中は勉強、小学生は皆大体夏休みの宿題やってる。上の者に教えてもらえるしな。普段の修道教室では好きな事やっていいけど合宿中午前は勉強が目的、騒がしい事は禁止な。昼飯は庭でバーベキューや流しソーメンやったり飯盒炊飯の真似事もやったな。午後からはレクリエーションでゲームやったり市民プール行ったり、ちょっとした登山や海水浴に行った事もある。」
「皆、参加するんですか?」
「希望者だけな。修道に来ない子も希望者は参加出来る。毎日じゃなくて一日だけとかでも構わない。費用は一日あたり千円だな。あと手伝いでOBの大学生とかも来てくれる。平日だから社会人とかは無理だけどな。」
彩音に参加申込書を見せる。
「次回の書道教室で配布するつもりなんだ。参加したい日に〇印を付けて〇の数×千円と一緒にその次の週の教室の日迄に出してくれればいい。昼飯の事があるから人数を事前に把握しとかないといかんからな。最悪前日迄に連絡してくれれば多少の融通は利くがな。」
「この日がどのレクリエーションやるとか、どんな食事になるとかは決まってるんですか?」
「直前にならんと分からんのよ。参加人数やどれだけのお手伝いが確保出来るかによって出来る事は限られてくるから。本来は夏休みの宿題対策の為の合宿でレクリエーションなんかはオマケなんでな。」
「何で書道教室で宿題とか勉強を…」
「こういう活動もしてると親の受けがいいんでな。書道教室の生徒集めの宣伝にもなるし。」
「ぶっちゃけましたね。」
「要領がいい奴は合宿迄に宿題に一通り目を通して、すぐ出来る所とか簡単な問題だけを自分で済ませておいて、合宿では分からない所や難しい所を教えて貰い乍らやってるな。」
「ズルい。それ採用。」
「ズルいと言いつつ採用するのかよ。まぁいいんじゃないか。小学校の夏休みの宿題なんて、工作とか絵とか読書感想文なんかの面倒な物以外は七月中には終わるだろ。俺はそうだったぞ。」
「イヤな小学生だったんですね。」
「何でだよ。結局の所、集中力だと思うぞ。夏休みは長いからな。簡単な物でも何時でもやれると思ってつい怠けちまう。色んな誘惑に打ち勝つ集中力さえあればすぐ終わるよ。」
「そんなもんですかねぇ。」
「そんなもんだ。書道もそうだがピアノだって集中力必要だろ。お前にも素地はある筈だ。」
「絵描くのは楽しいから続けられるんですよね。下手だけど。」
「モチベーションの問題だな。楽しいから続けられるって事だから。工作とかはどうだ?」
「面倒だけど工作はやれますね。何でだろ。」
「クリエイティブな物が好きなんだろ。自分で考えながら新しいものを生み出すみたいなのが得意なんじゃないか?」
「そうなのかな。そうなのかも……」
「工作はド派手な物や誰も思いつかない様な物作って持って行くとヒーローになれるからな。それも相まって色々考えて作ったな。」
「本当にイヤな小学生ですね。どんな物作ってたんですか。」
「一番ドヤれたのは四年生位の頃に作ったラジオだったな。」
「ラジオ? ラジオってあの聴くラジオ?」
「原始的な一石ラジオだけどな。」
「なんで小学生がラジオなんて作れるんですか。」
「親父が無線関係の技術者だったんだよ。家に『初歩のラジオ』とかそういう本があって、それ見ながら親父にも手伝って貰って作った。あっ、手伝って貰ったのは回路設計だけで実際に電子工作したのは俺だぞ。」
「ちゃんと聴けたんですか?」
「一応な。10m位のアンテナ張らないと電波拾えないし、スピーカー鳴らすだけのパワーも無かったからイヤホンでしか聴けなかったけどな。」
「先生ってもしかしてすごい人?」
「うむ、崇めたまえ。」
「そういう事言うから駄目なんですよ。」
クソ、小学生に諭されてしまった。
「その他だと自爆装置付きリモコンカーは受けたな。」
「何故自爆する必要が……」
「自爆装置は男のロマンだからだ。敵の手に渡るくらいならいっその事。」
「そんなロマンは要りません!あと敵って誰?」
「俺以外の全てかなぁ……」
「駄目だ、この先生。一歩間違えば反社会的勢力だよ。」
「自爆って言っても爆竹が鳴るだけだぞ。車体は紙で作ってたから運が悪ければ燃えるけど。戦車のプラモの駆動部を流用して作ったからモーター2個搭載して超信地旋回も可能だった。これもロマン要素だな。」
「そ、そうすか。」
「分かってくれたか。」
「呆れてるんです!」
小学生女子に男のロマンを理解してもらうのは難しい様だ。
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