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中学生編 第36話 合同合宿往路 浮島の戦い

「あんちゃん、お疲れー。これ差し入れだ。頑張ってや。」


「あっと……ありがとうございます。いただきます。」


 監視員の兄ちゃんにスポドリの差し入れ、海の安全は君にかかってる、頑張ってくれたまえ。


「静、ナンパとかされなかったろ?」


「先生があんな大きな声で叫ぶから……恥ずかしいじゃないですか。」


「敢えて大声で叫んだんだよ。周りへのけん制になるだろ。あの状態で声をかけるのは勇者かよっぽどの馬鹿だ。ほれ、コーラとスポドリ、どっちがいい?」


「スポーツドリンクでお願いします。」


 静にスポドリ渡して俺はコーラを飲む。スポドリはまだしもコーラはぬるまっちまうと美味くないからな。


「この海水浴場はいいですね。砂浜がきれいで海岸線も長いです。広いから人が多くてもそんなに混んでる様には感じませんし。」


「多分、うどんの国の海水浴場としては一番広いんじゃないかな。国定公園の一部だからそれなりに美観も保たれてるし。子供の頃はこういうのが当たり前だと思ってたから、全然ありがたみを感じて無かったが。」


 俺にとっては当たり前の光景なのだ。学生時代に関東の海水浴場へ行った事があるが、俺から見れば砂浜って感じじゃなかったなぁ。砂が黒いし――多分、関東ローム層――砂浜じゃなくて泥浜じゃないかって思った記憶がある。


「先生も泳ごうよ!」


 莉紗が俺を誘いに来た。莉紗のお誘いとあっては行かざるを得ないな。おっと、月子が戻って来たな。静と一緒に荷物番をしといてもらおう。


「月子、ここの海水浴場はどうだ?」


「きれいでいいね。沖に向かって泳ぐんじゃなくて浅瀬を横に泳いでも距離が長いし。」


 中々、好評の様である。


「すまんが俺も泳いでくるから静と荷物番頼む。」


「分かった。行ってらっしゃい。」


 莉紗に引っ張られ海に入る直前まで行ったが……


「莉紗、ちょっと待て。準備運動してから入るから。」


 手と足の曲げ伸ばし、首、手首、足首をぐるぐると……腰もひねったりしとくか。


「さーて、行くか。」


「先生、あの島までいこうよ。」


 島と聞いてそんなのあったかなと思えば、どうも飛び込み用の浮島の事を言ってるみたいだ。海岸からは30から40m位か。でも莉紗はあそこまで泳げるのか? プールでは50m泳げたけど海はプールとは違うからな。


「莉紗、あそこまで泳げるのか? 浮き輪とか借りてきた方がいいんじゃないか? 海はプールの様にはいかんぞ。途中で諦めたとしても足がたわん(・・・)し。」


「駄目だったら先生におんぶして連れてってもらう。」


 いいのかな。小学四年生、九歳、ギリギリか……いや逆に小さいからこそ駄目な様な気もする。彩音あたりが噛みついて来そうだな。まぁ、いっか。


「よーし、行くか。出来るだけ頑張って自分の力で泳ぎ切れ。」


「行っくよ―!」


 威勢よく飛び出した莉紗だが2/3位進んだあたりで進みが遅くなってきた。プールと違って波が来るからな。小さい莉紗は押し返されてしまうのだ。


「莉紗、いけるか? 駄目なら戻るぞ。」


「せんせー、おんぶ。」


 やれやれ、結局そうなるのか。ほれ、こっち来て俺の背中に掴まれ。おっと、これはなかなか……小さいのに結構なものをお持ちで……恐るべし、ロシアの血。ってこれプールでも思ったな。あの時は視覚的なものだけだったが。


「ほれ、浮島に着いたぞ。ここに梯子(はしご)があるから登れ。」


 莉紗は梯子に足をかけて登ろうとするが上がれない。海の中に居る内は水の浮力があったが、体が水中から出るとその浮力がいきなり無くなり、自分の体が一気に重く感じるのだ。自分の腕の力だけではよじ登れないみたいだな。


「せんせー、下からおしてぇ……」


 はいはい、莉紗の腰を持って一気に持ち上げる。なんとか登れたかな。俺も莉紗に続いて浮島に上がる。と、そこには俺を睨みつける彩音が居た。


「来ましたね。この変態紳士(ロリコン)。」


「ちょっ、滅多な事言うんじゃない。」


「ほほぉ……自覚はあるって事ですね。」


「違うわ。周りの目が痛いだろ。」


「莉紗ちゃんをおんぶしてる時のあのだらしない顔……これはもう裁判案件ですね。」


「どこの裁判だよ。」


「検察、私、被告、先生(へんたい)、弁護人、無し、裁判官、私、判決、被告人を死刑に処す。」


 そういったかと思うと彩音は梯子を登ったばかりの俺を海に蹴り込んだ。どはっ! 何て事しやがる。


「暫くそこで猛省を促す!」


 海に落ちた俺を彩音が浮く島の縁に足をかけ、ドヤ顔で糾弾する。そこに莉紗が後ろからタックルをしかけた。


「先生をいじめるな!」


 哀れ、莉紗に突き飛ばされた彩音は自分自身も海にダイブする事になった。あっ、あれ顔からいったな。まさに人を呪わば穴二つと言うヤツである。


「ぶはぁ! 莉紗ちゃん、酷い!」


 酷いのはお前だ。


「あっ、ヤバい。足、攣ったかも……」


 彩音が手をバタバタしている。馬鹿め、ばちが当たったんだ。


「ちょっと先生、見てないで助けて下さいよ。」


「なんで俺に死刑判決を下した奴を助けなきゃならんのだ?」


「ごめんなさい。私が浅はかでした。」


「弱っ、もう少し粘れよ。」


「いや、もう余裕が無いというかですね……」


「仕方ない、浮島に上がるのと海岸に戻るの、どっちがいい?」


「か、海岸でお願いします……は、早く……」


「莉紗、ちょっとこいつ、岸まで連れて行くわ。また迎えに来るからちょっと待っててな。おっと、聖江も居たのか。ちょっと莉紗を頼むな。」


 彩音と一緒に居たと思われる聖江に莉紗を託して彩音の救出に向かう。結局、こいつもおんぶして岸まで行くのか? いや、溺れた者の救助は確か仰向けにして顎に手をかけて引っ張っていくんだったな。


「彩音、岸まで引っ張って行くから仰向けになれ。」


 俺は仰向けにした彩音の顎に手をかけ岸の方へと泳ぎ出す。


「ちょっ、何て格好で引っ張るんですか!」


「これが救助時のスタンダードな搬送方法だ。溺れてる者は暴れるからこの方法が一番いいんだ。」


「私は暴れませんから普通に! 莉紗ちゃんみたいにおんぶで!」


「お前をおぶると後からセクハラだ何だと言われてまた死刑判決受けるからな。」


「言いませんから! この格好、きついし恥ずかしい。」


「仕方ないな。ほれ、俺の背中に掴まれ。」


 彩音をおぶって岸まで泳ぐ。残念ながら莉紗ほどの何かは感じられなかった。とか思ってたら後ろから首を絞められた。


「な、何で締める。俺が溺れたらお前も沈むぞ。」


「きっと何か不埒な事考えてた気がしたので。」


 勘のいい子は嫌いだよ。彩音を岸まで連れて行き、砂浜で足の状態を確認する。足を持って足首をぐるぐる回してやったが、そんなに痛いって訳ではなさそうだ。くすぐったいとは言われたが。歩けない程ではないので暫く休めば回復するだろう。荷物番の静に引き渡す。月子は居なくなっていたが雅也と勝陽が居るな。休憩中かな。


 さて、莉紗を迎えに行くか……と思ったが既に莉紗が浮島からこちらへ向かって泳いでる。聖江も一緒だ。岸まであと半分位か。帰りは波が進行方向に向かって来るから、莉紗の背中を押してくれる。聖江も居るから大丈夫だろう。


「莉紗! 一人で行けるか?」


「大丈夫だよ! 帰りは楽ー!」


「何かあっても私が付いてるから大丈夫ですよ。」


 聖江が頼もしい。さすが高校生だな。

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