中学生編 第35話 合同合宿往路 競スクとビキニ
飯も食ったし次は海水浴。旭製麺所を後にした俺達は再び車でひた走る。松原の海水浴場まではあと一時間位か。到着は一時過ぎになるかな。夕方まで十分に遊べる時間はある。浜街道を東へ進み、トンネルを抜けると……おぉ、一瞬だが屋島が見えた。屋島を見ると帰ってきた気分になる。県庁所在地を抜け、やっと白鳳本部のある市に至った。しかし今はそこを通過、もう少し東にある海水浴場まで車を走らすのだ。国道沿いを西から東へ。
頂上にうどん屋がある峠を越えると……あぁ、前回見た時は更地だったのに新しい建物が建ってる。俺の母校があった場所だ。こっちも少子化なんだろうな、近くの中学と統廃合で廃校になってしまった。先生、俺達の校舎、すっかり無くなっちまったんですねぇ。
さらにもう一つ峠を越えると海が見えた。そして潮の香りが漂う。子供の頃からこの峠を越えるといつも潮の香りを感じる、なつかしい海だ。
暫く進むと松原の近くにある道の駅に着いた。さすが夏休みだなぁ、駐車場が結構混んでる。まぁ、二台分だから何とかなるだろ。駄目でもこの辺の車が停められる場所は大体把握している。ちょっと離れてもいいならいくらでもある。子供の頃から何度も来た場所だからな。
何とか道の駅の駐車場に停めることが出来た――隣り合わせという訳にはいかなかったが――俺達は水着、着替え、貴重品を俺の車の荷物スペースから取り出し、海水浴場に向かった。うーん、十年ぶり、いや十五年ぶり位になるのかな。海水浴場も混んでるなぁ。海の方も少し離れた場所にすいたエリアがあるのは知っているから、最悪そっち行ってもよかったが、これ位の込み具合なら問題ないだろう。
「うぉーい、あっちに更衣室があるから着替えて来い。シャワーは有料だが、着替えるだけなら金はかからん。」
「「はーい!」」
うむ、子供等は元気だな。俺は適当な場所、と言っても出来るだけ影になる様な所に荷物をまとめて、最初は荷物番でもするか。暫くしていると水着に着替えた子供等が更衣室から出て来た。
「先生、もう泳いでいいの?」
「いいけどその前に準備運動だ。手足の曲げ伸ばしと手首足首、良く回しとけ。」
「あそこに何か浮いてる。」
「あれは飛び込み台だな。あそこまで泳いで行って休憩したり飛び込んだりして遊ぶんだ。」
昔はあんな浮島みたいな飛び込み台は無かったがなぁ。俺が知ってるのは海から突き出た櫓みたいな飛び込み台だ。潮が引いてる時は海面から2m位の高さなのだが、潮が満ちてくると、上部の数十㎝だけが海面から顔を出してる感じになる。成程、浮島にしとけば潮位によって海面からの高さは変わらないんだな。
おっと、聖江、彩音、月子の中高生女子トリオが出て来た。聖江はちょいとオシャレ目の水着だな。さすがにビキニでは無いが。彩音、月子はスクール水着か。中学生だしそうだろうな。あれ、そういや彩音はうちの合宿で市民プール行った時、ウケを狙って旧スクだったが……競スク着てやがる。あいつ、俺が競スクって言ったもんだから態態合わせて来たのか。
「ほーら、先生のご要望通り競スク着て来ましたよ。これでどうだ!」
「いや、どうだと言われても、別に要望した訳じゃ無いし、俺が変な目で見られるからやめろ。」
「ほーれ、ほれ、これがいいんでしょ? このスケベ。」
「な、何を言うか……しかし、ギャ〇ックスか……まぁまぁだな。」
「この変態、ロゴだけで水着のブランド当てた。どんだけ詳しいんですか。」
「いや、ギャ〇ックスならロゴにもそう書いてあるから読めば分かるだろう。」
「でも一瞬で判断しましたよね。相当見てないと分かりませんよ。」
「ま、まぁ、いいじゃないか。そんなに追及するなよ。」
「ギャ〇ックスなら合格ですか?」
「合格も何も……何の試験だよ。」
「悩んだんですよね。もう少し競泳っぽさが出た奴にするかどうか……でも先生は競泳風であって競泳水着では無い、あくまでスクール水着だってとこを強調してたから、スク水寄りのにしたんですよ。ギャ〇ックスって学販用に力入れてるからそっちがいいかなって。」
「お気遣いありがとう。その気遣いが逆にイラっと来る訳だが。まぁ、及第点をやってもいいかな。」
「むっ、及第点とは……満点には足りないって事じゃないですか。」
「合宿の時にも言っただろう。競スクはある程度ないと似合わな……あだだだ、痛い、痛い。」
彩音に思いっきりアイアンクローを食らった。
「あぁ? 今、何言った? おぉ?」
スク水を着た女子中学生にアイアンクローされる俺、カオス……
「モッチー、そろそろ海行くよ。」
おぉ、月子の救いの手が。ありがとう!
「ふぅ、これ位にしといてあげましょう。次こそ見てなさいよ。」
アイアンクローから解放された後、あまりの痛さにへたり込んだ俺は、ここで言わなくてもいい事を言ってしまった。
「パットとか入れるのは許さんぞ。天然の素材を生かすべきだ。」
すぐさま踵を返して戻って来た彩音にゲシッ、ゲシッと踏まれてしまった。口は災いの元である。うぅ……砂浜で踏まれて口の中に砂が入っちまった。ペッ、ペッ。暫くは大人しくしていよう。
あっと、静が出て来た。ビキニである。パーカー羽織ってはいるがビキニだ。うむ、これはこれでなかなか……
海の方に行くかと思ったが、俺の隣にチョコンと座った。
「静は泳がんのか?」
「日焼けしたくないんです。」
「せっかく来たのにもったいない。何の為に水着に着替えたのか……海水浴は明日もあるんだぞ。」
「着替えたのはまぁ……分かんなければいいです。」
「わけ分らん奴だな。俺も着替えてくるから暫く荷物番頼むわ。」
「わ、私を一人にしてナンパでもされたらどうするんですか!」
「お前、自意識過剰だ。俺が何の為にここに陣取ったのか教えてやる。変な奴が絡んで来たらそこの監視員の兄ちゃんに助けを求めろ。おーい、監視員のあんちゃん、暫くこいつ一人にするから、変な奴がナンパしようと近寄ってきたら助けてやってくれ。」
「は、はぁ……」
「よし、これで大丈夫だ。ちょっと着替えて来るわ……って何を怒ってるんだ?」
「知りません!」
「本当に分からん奴だな。まぁいいや、ちょっと着替えて来る。」
水着を持って更衣室まで行く。男の着替えなんて一分もかからん。さっさと済ませて静の所に戻ろう。そうだ、監視員の兄ちゃんにジュースでも差し入れてやろう。少しの間とはいえ頼み事をしたからな。俺は兄ちゃんと静、そして俺の分のジュースを海の家で買って戻るのであった。




