中学生編 第24話 合宿二日目 明衣の属性
正直、明衣は欲しい人材だ。非常に優秀で理系というのもいい。ただ、うちみたいな所で埋もれさせるべきでは無いというのもまた正直な所。お気に入りは手元に置いときたいけど、もっと活躍するのも見たい。そんな心境なんだよな。まぁ、田舎じゃ優秀でも都会ではその他大勢に埋もれてしまうって事もままあるんだけど。
「都落ちして帰ってきたらバイトでいいんで雇って下さい。」
「都落ちて……就職する前からそんな事言ってるようじゃ駄目だぞ。それに雇うとしても書道教室の時間だけだから週に二日、六、七時間位だから食べていけんぞ。」
「他の日は実家の仕事の手伝いで何とか。ご飯と住む所はあるし。」
「玄田家の扶養家族がもう一人増えるのかよ。」
「お姉ちゃんはその頃にはもう片付いてる筈だし。」
「嫁に行くってか? そりゃそうなるかもしれんが……それならお前だって嫁に行くかもしれんだろ。」
「そうなるといいんですけどね。」
そう呟く明衣の横顔は少し寂しそうだった。
「よーし、そろそろ皆、食い終わったな。片付けにかかるぞ。女性陣は紙皿や割り箸をまとめるのをやってくれ。軽く洗って同じ物を重ねとくだけでいいから。生ゴミや残飯はこの箱な。あとで埋めるからビニールとか土に還らない物が混じんない様にな。男共はバーベキューコンロの片付けな。俺が指示するからこっちに集まってくれ。」
バーベキューコンロに残った消し炭や薪を取り除き、一斗缶に移していく。また俺のお一人様バーベキューの燃料が出来てしまった。中身を取り除いたコンロと鉄板を洗ってと……あとは天日干しで乾かしときゃいいな。夕方までには乾くだろ。人手が居るうちに物置に片付けたいしな。
「明里、生ゴミは?」
「これだけです。と言っても野菜クズだけですけど。」
「殆ど無いな。まぁ、その方が楽だけど。」
明里から生ゴミというか野菜クズの入った箱を受け取り畑の片隅に移動する。
「えーと、ここでいっか。量が無いから深く掘る必要もないし。」
ザクザクと畑を掘り返し、30㎝位の深さの穴を掘る。浅いと野良犬とかが掘り返すんだよなぁ……最近はミユキチが威嚇して野良犬の侵入を防いでくれてる様だが。そうだ、合同合宿の間、ミユキチ達どうしよう。ミユキチだけなら一人、いや一匹で生きていけるけどヤマトはまだ生後半年も経ってないからな。ミユキチが何とかするだろうけど、最低限のライフラインは確保しとかないといけない。迷惑をかける事になるが仕方が無い。ここは竹内家を頼ろう。
「婆ちゃん、ちょっとご相談が、というかお願いがあるんですが。」
「あら何かしら?」
「今週末から合同合宿で四日程家を空ける事になる訳ですけど、うちの猫達の件なんですが……」
「あぁ、猫ちゃん達を預かって欲しいって事?」
「預かってもらうって程では無いんですが……ミユキチは放って置いても大丈夫だと思うんですよね。ですが、ヤマト、半年前に来たまだ小さな黒猫ですね、そちらがちょっと心配でして……」
「ヤマトだけ預かればいいの?」
「いや、それは多分ミユキチが許可しないと思うので、エサだけやってくれればいいです。勿論、エサはこちらで用意します。日に一回か二回、猫皿に入れて出してやってくれればいいんで。」
「それ位なら別にいいけど……置く場所とか量はどれ位がいいのかしらね。」
「それはちょっとミユキチの教育方針もあるでしょうから本人に聞いときます。」
「ミユキチと話せるの?」
「俺じゃなくて莉紗が……と言ってもミユキチが言わんとしてる事が、何となく分かるってレベルらしいですけどね。」
「莉紗ちゃん、ミユキチとよく一緒に居るわね。それで分かるようになったのかしらね。」
とりあえず婆ちゃんに渡りはつけた。あとはミユキチに言っとかないと。ミユキチはどこだ? あぁ、下駄箱の上か、いつもの定位置だな。莉紗は……お勉強中か。スマンがちょっと付き合ってくれ。
「莉紗、ちょっとこっち来てくれ。」
「んー? いいよ、今行く。」
俺、婆ちゃん、莉紗、ミユキチで話し合った?結果、教室の玄関の三和土に猫皿を置いてそこにエサを入れておく事になった。婆ちゃんは朝と夕方に猫皿をチェックして、減っていれば補充する。減って無ければそのままって事でいいらしい。婆ちゃんなら教室の鍵持ってるから自由に出入り出来る。外にエサ出しとくと他の野良猫なんかに食われるかもしれないからな。尤もここら辺一帯の大ボスであるミユキチのエサを狙う野良猫がいるとは思えんけど。
「でもそれだと二匹を教室に閉じ込める事になっちゃうのよね。」
「あぁ、それは大丈夫です。俺も把握してないミユキチ専用の出入口というか侵入ルートがある様で、人間の出入口が閉まっててもミユキチは出入り自由です。」
「それはそれでセキュリティ的に問題あるわねぇ。」
「そうなんですけど、俺もどこから入って来るのか分からないんですよねぇ。一度、天井裏でミユキチ見つけた事があったんで、その辺りなのかもしれません。」
結局、猫くらいしか通れない様な侵入ルートだろうという事で納得するしかなかった。あぁ、婆ちゃんがエサやるのは合同合宿期間だけってミユキチに言っとかないとな。
「ミユキチ、俺が居なくなるのは三日後だからな。それまでは今まで通りだから。」
「ミャー!」
分かってるのかどうか分からんが、そう返事したので分かっているものとした。まぁ、俺が居なくなればその日からなんだと理解するだろ。
「先生、あの綺麗なお姉さんは先生の何号さんですか?」
「お前は何言っとるんだ? てか何号とか言い方がおっさんだな。」
「何号かである事は否定しないと……」
「否定するわ! お前の言うお姉さんって明衣の事だよな。あれは勝陽の下の姉ちゃん、大学四年生、夏休みでこっち帰って来てるんだ。」
「な! 明里さんに続いてその妹までも……姉妹丼ですか? 姉妹丼ですね? この……うらやまけしからん!」
「本当にお前は発想がおっさんだな! そんなのありえんだろう。」
「しかしお姉さんは結構あるのに、妹さんは何というかありませんね。一部の身体的に……」
言ってやるなよ。本人気にしてるんだから。というか、お前にだけは言われたくないと思うぞ。
「むっ、何か酷く貶されたような波動を感じましたが。」
「気のせいだろう。同じ持たざる者同士、交流すればいいと思うぞ。あいつ、数学の教員免許持ってるから宿題教えてもらえ。」
「持たざる者同士、というのは納得出来ませんが女教師ですか。成程、先生の好きそうな属性ですね。それに理系女子……これまた先生、大好きですよね。」
「『女』を付けるといやらしく聞こえるのは何故なだろうな。女教師、女スパイ、女医、というよりお前が言うからいやらしく聞こえるんだろうな。」
「まぁ、いいです。ちょっと尋問してきます。」
「明衣は女スパイじゃないぞ。」
彩音は宿題片手に明衣の元へ向かって行った。よく考えればあの二人は似てるかもな。学業的には優秀で事務仕事なんかもそつなくこなす。二人とも「持たざる者」だし。彩音からオタク成分や腐属性を抜けば明衣になるんじゃないかな。つまり「綺麗な彩音」だ。テレビでは悪ガキでも映画ではいい仲間になってしまう「綺麗なジャイ〇ン」というヤツだ。ちょっと違うか。綺麗になってしまったらそれはもはや彩音では無い気がする。




