中学生編 第21話 合宿一日目 スク水
いよいよ合宿週間が始まった。今年は合同合宿と日程がかぶってしまたっ為、四日間、正確には三日と半日だけだ。午前中は四日間共通でお勉強タイムというか夏休みの宿題をこなす時間に充てている。うちの合宿ではこれが本来の目的だ。
合宿初日の昼食は流しソーメン、従来は竹を切り出して来てソーメンを流す樋を作っていたが、今年は雨樋を使って作ってみた。これなら何年も使える。風情は無いがな。樋が竹からプラスティック製に変わってしまったが、流しソーメン台の作成とその運用方法は例年と変わらない。お手伝いのOBや塾生も慣れたものである。思い思いの薬味を入れためんつゆの紙コップを片手に樋の前に並んでいる。よーし、流すぞ! 取り損なっても無理するな。後ろの者が取ってくれるから、次のソーメンが流れてくるのを待て。
ソーメン食い終わったら速攻で片付けだな。流しソーメン台は合宿中にもう一回使うから適度に分解して物置に入れておく。めんつゆ用の紙コップやら割り箸やらの片付けは女性陣に任した。軽く洗って同じ物をまとめておいてくれ。紙コップは古紙、割り箸はバーベキューの焚き付け燃料にするから。
本日午後のレクリエーションはプール、去年は市民プールが改修工事で使えなかったので二年ぶりだな。あそこのプールは午後は一時半からか……うちからだと徒歩十分位だから一時十五分位に出ればいいな。夏季の利用料は高校生以下100円、大人230円、尚、大学生や専門学校生も学生証等の提示で子供料金で入場出来る。それに10名以上だと団体料金で一割引きになるから、今回のうちみたいに大勢の子供等を引き連れていく時は予算的に助かる。あっ、すいません、お手伝いの保護者の方々、学生以下は合宿の費用で出しますが大人は自腹でお願いします。私も自腹ですので。
水着に着替えプールサイドに出ると既に何人かの子供等がプールに飛び込まんとしていた。こらこら、ここのプールは飛込禁止だ。それにお前ら、準備運動はしたのか? 手首足首よく回しとかないと攣るぞ。小さいのをまとめてプールサイドに待機させる。子供等が全員集まったら一緒に準備運動だ。うーん、男の子は大体集まったが女の子がなかなか来ない。女子は着替えに時間がかかるからな。仕方ない、男子だけ先に準備運動させてプールに入らそう。もう待ちきれない様だからな。
男子と着替えるのが早かった一部の女子をまとめて整列させ、準備運動させる。まぁ大した運動ではないが、やるとやらないのでは効果が全然違う。プールとはいえ水の事故は怖いからね。準備運動が終わった子はプールへまっしぐら、飛び込むんじゃないぞ。さて、次は女子を集めてこっちも準備運動させんとな。
「月子、女子は皆、出て来たか? ずいぶん遅かったみたいだが。」
「ちょっとトラブルがあって……モッチーが暴走して大変だった。」
「彩音が? あー、何となく察した。」
「ハァハァ言いながら小さい子に飛びついて引き剥がすのが大変だった。私が言うのもなんだけど、正直キモかった。」
彩音ぇ! 手前ぇ、何してんの? その彩音が出て来てないんだが……まだ幼女襲ってんの?
「自分の着替えもせずに小さい子にちょっかいかけてたから……まだまだかかるんじゃないかな。」
「そうか、じゃ彩音は放っといて準備運動済ませよう。おーい、こっち来て並べ。準備運動するぞ。」
女子を集めて再び準備運動、手首ぐるぐる、足首ぐるぐる、屈伸や腕回しなんかをチャッチャと済ませてプールに入れさせる。あとは子供等で自由に遊ぶだろ。周りに迷惑かけん様にな。
「むっ、準備運動終わっちゃいましたか。幼女の上体逸らしとか見たかったのに。」
周りに迷惑かけまくってる彩音が着替えを終えてやっと出て来た。出て来たのはいいが、その格好は……
「お、おまっ、なんちゅう水着で……」
「ふふーん、先生こういうのが好きなんでしょ。態々先生に合わせてあげたんだから感謝して下さい。」(ドヤァ)
「きゅ、旧スクだとぉ……」
所謂旧スク、旧型スクール水着に身を包んだ彩音、ご丁寧に名前ゼッケンまで付けてやがる。胸の辺りじゃなくてお腹の辺りに付けているのがまた、しかも「あやね」とひらがなで書いてるのがまた……分かってやがる。
「そんなの、今時小学生でも着ないぞ。態々買ってきたのかよ。」
「ほれほれ、こんなん好きなんでしょ? この変態。」
「やめろ! 煽るんじゃない。」
「もっと萌えていいんですよ。踏みましょうか?」
何故そうなる? 踏まれても嬉しくないからな。
「旧スクか……成程、悪くはない。悪くはないが……それは俺が十年前に通り過ぎた道だ!」
「な、なん、だと……」
「何度でも言おう。旧スクは通過点に過ぎなかったのだよ。今、俺の中での萌えは別にある。」
「くっ、この先生、どこまで進化してるのか……はっ、まさか、まさかとは思うけど、その先にあるのは禁断のスパッツタイプのスクール水着?」
「悪いが彩音、俺はそこまで『上級者』ではないんだ。残念だがさすがにそこまでの高みには登れはしなかった。所詮は俗人だからな。」
「何の『上級者』? 何かいい事言ってるみたいだけど、スク水の話だよね?」
「俺が今居るのは……『競スク』、『競泳型スクール水着』だ!」
「きょ、競スク……」
「言っとくけど競泳水着ではないからな。競泳風スクール水着、あくまでスク水だからな。」
「そ、そんな……競スクなんてお菓子系グラドル定番の……そんな俗物みたいな……」
「だから言っただろう。俗人だと。俺は聖人ではない。」
「いや、聖人とかはこれっぽっちも思ってないんで。しかし競スクかぁ……うーん、先生の性癖がイマイチよく分からない。」
「性癖とか言うな。まぁ、旧スクも否定はしない、否定はしないが俺にとっては過去の物だったってだけだ。」
「何着ものスク水が先生の下を通り過ぎて行ったって事ですか……スク水の敵ですね。」
「お前は何を言っとるんだ?」
「これで終わりじゃないですからね。次こそは先生を……」
そう捨て台詞?を残して彩音は幼女の群れに突っ込んで行った。おーい、準備運動してから水に入れよー。




